朝木明代市議転落死事件への創価学会の関与をめぐる「検察官発言」

『週刊現代』における朝木大統・直子親子の名誉毀損発言の刑事告訴をめぐり、1998(平成10)年7月15日に矢野穂積「市議」の面前で検察官が行なったとされる発言。『フォーラム21』2004(平成16)年1月15日号掲載の座談会によれば、その発言内容は次のようなものだったとされる。

告訴から3年間、十二分に捜査した結果、創価学会側(信者)が〔朝木明代市議転落死〕事件に関与した疑いは否定できないということで、不起訴の処分を決めたんですよ」(以下「検察官発言」

しかし、「フォーラム21」裁判・東京地裁判決(PDF版テキスト版)はこの「検察官発言」の真実性・相当性を否定(後掲)。同東京高裁判決(PDF版テキスト版)は、「本件記事は、朝木明代市議転落死事件は創価学会が朝木明代市議を殺害した『他殺』事件であるとの事実を、明示的にも黙示的にも摘示するものとは言えない」として記事の名誉毀損性を否定し、「検察官発言」の真実性・相当性については判断しなかった(2008〔平成20〕年6月17日の最高裁決定により確定)。

「検察官発言」までの経緯と、矢野穂積「市議」の主張の変遷

  • 朝木明代市議転落死(1995〔平成7〕年9月1日)の直後、『週刊現代』1995(平成7)年9月23日号(9月11日発売)が「夫と娘が激白!『明代は創価学会に殺された』」という記事を掲載。
  • 創価学会、発売翌日に同誌および朝木親子(大統・直子)を刑事告訴。その後、10月5日には民事訴訟も提起(『週刊現代』事件)。
  • 東京地検、「朝木の死亡には自殺の疑いが強く、他殺の確証は得られなかった」などと判断し、1997(平成9)年4月14日に捜査を終了(朝木明代市議万引き被疑事件・転落死事件まとめWiki〈朝木明代市議転落死事件〉参照)。
  • 1998(平成10)年7月15日、東京地検は創価学会の刑事告訴について不起訴処分を決定。上述の「検察官発言」は、この日、矢野穂積「市議」の眼前で行なわれたとされる。
  • 矢野「市議」、1998(平成10)年9月1日付の紙版「東村山市民新聞」97号で、「捜査の結果、創価関係者が、朝木議員殺害までに至る事件・嫌がらせに関与した疑いは否定できないことが判明する事態となったのが不起訴の大きな理由」であった旨を記載(「フォーラム21」裁判・東京地裁判決〔PDF版テキスト版〕13ページ、以下同)。
  • 矢野「市議」、1999(平成11)年11月15日に実施された別件訴訟の本人尋問で、検察官が「朝木明代市議転落死事件までの経過の中、事件、嫌がらせ等に創価学会信者が関係したことを否定できない」という趣旨の説明をしていたと供述。
  • 矢野「市議」、2002(平成14)年4月30日付の紙版「東村山市民新聞」125号で、検察官発言の趣旨は「創価学会が〔朝木明代市議転落死〕事件に関与した疑いは否定できない」というものだったと主張。その後、2003(平成15年)11月10日発行の『東村山の闇』、『フォーラム21』2004年(平成16年)1月15日号掲載の座談会等でも、上述のような「検察官発言」を現認したと主張。
……7月15日、東京地検は、創価学会が、「週刊現代」が掲載した「東村山女性市議『変死』の謎に迫る・夫と娘が激白!『明代は創価学会に殺された筐 と題する記事を掲載した「週刊現代」と、記事にコメントを寄せた朝木明代さんの夫の大統さん、朝木直子さんを名誉毀損罪で刑事告訴した事件で不起訴処分を決めています。これは私たちが発行している「東村山市民新聞」でも詳報したのですが、ちょうど、この日、私は別件の暴力事件についての被害状況を説明するために東京地検八王子支部に出向き、担当検察官と話をしていたところ、創価学会の代理人である井田吉則弁護士から検察官に電話がかかってきました。話の内容は、不起訴の決定に対する不満であり、不起訴にした理由を執拗に問い質すものでしたので注意して聞いていたところ、検察官は、「告訴から3年間、十二分に捜査した結果、創価学会側(信者)が事件に関与した疑いは否定できないということで、不起訴の処分を決めたんですよ」と発言したのです。
 井田弁護士はその後、創価学会に対する別件の裁判に提出した陳述書で、この検察の処分の時期を偽るなどしてそうした会話はなかったと否定しています。しかし検察官は不起訴理由の一つに関与についての疑惑がある旨、指摘しました。……

創価学会側の主張

  • 井田吉則弁護士の陳述書(東京高等裁判所平成14年(ネ)第2843号損害賠償請求事件、同年8月23日付/東京地方裁判所平成11年(ワ)第599号損害賠償請求事件、平成14年10月3日付)
2担当検察官との架電内容について
 ●●検察官(※実際には実名)は私に対し、電話で「朝木らに対する刑事告訴について処分決定が出た。結論として不起訴決定である。理由は嫌疑不十分である」旨伝えてきました。
 これに対し、私が「どうして嫌疑不十分なのか」と聞いたところ、●●検察官は「朝木直子、大統については、本人らはそのような発言をしていないと供述している。講談社側は、朝木らから取材をしてその発言を記事にして掲載したものであると言っており、名誉毀損にならないと判断した」旨回答してきました。
 そこで私が「朝木らが発言していないとすれば、講談社は虚偽の記事を掲載したことになるのであるから、少なくとも講談社の元木編集長は名誉毀損になるのではないか」と言ったところ、●●検察官は「講談社側は取材したと言っており、発言していないという朝木らの供述をそのまま講談社側に不利益に働かせることはできない。本件では当事者の言い分が真っ向から食い違っており、その場合に告訴された一方の当事者だけを起訴することは公平を欠くことになる。講談社側もそれなりに取材して記事を掲載したものであり、嫌疑不十分とした」旨言ってきました。
 当職としては、検察官の説明に納得がいきませんでしたので、どうして「学会側から誰も事情を聞かずに不起訴処分にしたのか」と問い質しましたが、●●検察官は「敢えて聞く必要はないと判断した」「本日、不起訴裁定書も書いた」と言ってきたため、これ以上話をしても無駄だと思い、電話を切りました。
……
 以上が私と担当検察官との主な会話の内容であり、上記の会話の内容から明らかなように、担当検察官が私に対し、「創価学会側が事件に関与した疑いは否定できないことから、不起訴の処分を決めた」と発言した事実は一切ありません。したがいまして、検察官の不起訴処分の理由も「創価学会側が事件に関与した疑いは否定できない」からでないことは明らかであり、控訴人の主張は事実と全く異なります。このことは、その後東京地検が朝木明代氏の転落死事件そのも〔の〕について捜査し、平成9年4月14日に「自殺の疑いが強く、他殺の確証は得られなかった」と事実上自殺と断定し、捜査を終結する旨の発表をしていることからも明らかだと思います。
 (ソース:「……」の部分までりゅうオピニオン、それ以降は「フォーラム21」裁判・東京地裁判決〔PDF版テキスト版〕15ページ。太字は引用者=3羽の雀)
(1)しかしながら、朝木市議転落死事件は、平成7年9月に捜査を担当した警視庁東村山署が「犯罪性はない」として捜査を終了させ、事件の送致を受けた東京地方検察庁も、平成9年4月に「自殺の疑いが濃く、他殺の確証を得られなかった」として同じく捜査を終了したものである。
 もとより、原告が朝木市議転落死事件に関与したことなど一切ないし、本件問題部分が指摘するように、担当検察官が井田弁護士に対して、「告訴から3年間、十二分に捜査した結果、創価学会側(信者)が事件に関与 した疑いは否定できないということで、不起訴処分を決めたんですよ」などと発言した事実も一切ない。
 検察官が井田弁護士に告げた不起訴の理由は、訴外大統、訴外直子が自分たちは現代記事に掲載されたコメントをしておらず、週刊現代側が勝手に載せたものであると主張し(次項に記載する民事事件においてもかような主張をしたが、東京高裁はその主張を退けた)、同人らと週刊現代側の供述が食い違っていたこと等から嫌疑不十分にしたというものであった。 常識的に考えても、真実、上記のような疑いがあるというのであれば、 捜査機関が創価学会側(信者)の事件への関与に関する捜査を全く行わないまま「犯罪性はない」「自殺の疑いが濃く、他殺の確証を得られなかった」として捜査を終了させるはずはない。また、人を殺害したと事実摘示されたことを理由に名誉毀損罪で告訴した当事者に対し、検察官がその不起訴理由として、告訴人が殺人に関与している疑いがあると告げることなどおよそ考えられない。上記と同様に、仮にかような疑いがあるのであれば、検察官は名誉毀損の告訴事件を不起訴にするだけで捜査を終結するはずはなく、殺人事件としての捜査を行うはずである。いずれにしても、本件問題部分は全くの作り話である。
 かように、本件記事は、事実を捏造してまで原告のイメージを貶めようとするものであって、極めて悪質な名誉毀損記事である。

「検察官発言」裁判

井田吉則弁護士の陳述書(前掲)には、時系列に一部誤りが含まれていた。東京地検は、朝木明代市議転落死事件の捜査終結(1997〔平成9〕年4月14日)後に創価学会の刑事告訴について不起訴処分を決定した(1998〔平成10〕年7月15日)のだが、井田弁護士の陳述書では「その後」という表現が用いられており、順番が逆になっているためである。

矢野穂積「市議」はこの点を捉え、井田弁護士が「悪質な事実の捏造」を行なったなどと主張した。
  • 「井田弁護士はその後、創価学会に対する別件の裁判に提出した陳述書で、この検察の処分の時期を偽るなどしてそうした会話はなかったと否定しています」(『フォーラム21』2004(平成16)年1月15日号掲載の座談会
  • 「井田弁護士が検察の処分時期を偽るなど悪質な事実の捏造を行ったことも事実」/「上記のように井田弁護士が悪質な事実の捏造を行ってまで被告矢野が現任した本件検察官発言の存在を否定しようとしたことは、かえって被告矢野の名誉を毀損するものである」(「フォーラム21」裁判・東京地裁判決〔PDF版テキスト版〕9ページ)

矢野「市議」はさらに、かかる陳述を行なった井田弁護士と創価学会を名誉毀損で提訴し(平成16年(ワ)第16916号)、東京地裁(2005〔平成17〕年2月18日)、東京高裁(同年7月26日)ともに敗訴している。なお、矢野「市議」は本件裁判について「東村山市民新聞」等のサイトでは一切報告していない(2009年9月16日現在)。
平成17年7月19日判決言渡
平成17年(ネ)第1494号
控訴人 矢野穂積
被控訴人 創価学会
被控訴人 井田吉則

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断
1(1) 別訴陳述書は、控訴人を原告とする2件の訴訟における対立当事者の訴訟代理人である被控訴人井田によって作成されたものであるが、その内容は、被控訴人創価学会が被控訴人井田を代理人として、雑誌「週刊現代」平成7年9月23日号の記事に対して、当該編集長らを名誉毀損により告訴した事件につき、平成10年7月15日、検察官の不起訴処分があったことを前提として、控訴人が、当該訴訟において、当該事件を担当する検察官から、被控訴人井田に対して、「十分な捜査の結果、創価学会側が事件に関与した疑いは否定できないことから、不起訴の処分を決めた」と伝えられたことを主張したことに対し、被控訴人井田が、当該検察官から同被控訴人に対して、「創価学会側が事件に関与した疑いは否定できないことから、不起訴処分を決めた」との発言がされたことはなかったことを記載したものである(甲1、2,陳述書の内容は、当事者間に争いがない)。
(2)控訴人は、別訴陳述書の記載が、控訴人が虚偽事実を主張し裁判所を欺罔する人物との事実を摘示し、市議会議員である控訴人の社会的評価を著しく低下させるものであると主張する。
 しかし、別件訴訟において、上記の検察官の発言の有無が一つの争いがある事実として訴訟当事者双方が主張を交わし、訴訟代理人である被控訴人井田が、自らの体験事実として、事実関係を陳述書として記載し、証拠として提出したものであり、別訴陳述書の記載の体裁、表現等を検討しても、これが控訴人の社会的評価を低下させるものとは到底考えられない。控訴人は、別訴陳述書において、不起訴処分をした日持を誤解させるような記載がされているので、被控訴人らには事実ねつ造の意図があった旨主張するが、陳述書の記載から、控訴人の主張する誤解を生ずる余地はなく、被控訴人らにねつ造の意図があったとは認められない。
(3)したがって、別訴陳述書の記載が名誉毀損に当たるとする控訴人の主張はおよそ理由がない。
2(1) 別訴訴状は、被控訴人創価学会が、本件控訴人らを被告として裁判所に提出されたものであり、雑誌「FORUM21」平成16年1月15日号の座談会記事が被控訴人創価学会の名誉を毀損するとして、損害賠償及び謝罪広告を求めたものである。そして、控訴人が名誉毀損に該当する記載として特定する部分は、上記の記事中の控訴人の発言で、原判決の「第2 当事者の主張」の「1 請求原因」の(2)イに記載するとおりであり、別訴陳述書で問題としていた事実の存否と同一のものである。
(2)別訴訴状は、控訴人の行為に関して、「FORUM21」の記事が被控訴人創価学会の名誉を毀損するという趣旨の訴えを内容とするものである。
 しかし、原判決の説示するとおり、民事訴訟に関与する当事者の主張立証等の訴訟活動は十分に保障される必要があり、たとえ訴訟当事者の主張に相手方等の社会的評価を低下させる内容があったとしても、これを直ちに違法な名誉毀損行為とすることはできないのであって、訴訟当事者の主張が、もっぱら相手方等を誹謗中傷する目的で行われた場合、著しく不適切な表現が用いられた場合等、民事訴訟の目的に照らして、著しく逸脱した訴訟活動であると認められる特段の事情がない限り、違法な名誉毀損行為とならないというべきである。
 控訴人は、別訴訴状の記載が真実に反することのみを主張するにとどまり、上記の特段の事情の主張をしないから(原審の口頭弁論終結後に提出された平成17年1月6日付け原告第2準備書面においても、同様である。)、主張自体失当を免れず、しかも、別訴訴状の記載を理由とする名誉毀損による違法性を裏付け得る証拠も提出はない。
(3)したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
第4 まとめ
 以上の次第であるから、控訴人の損害賠償の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第4民事部
 裁判長裁判官 門口正人
 裁判官 浅香紀久雄
 裁判官 西田隆裕

確定又はその他の完結 平成17年8月4日

「フォーラム21」裁判における「検察官発言」についての判断

  • 東京地裁判決(平成18〔2006〕年5月15日):PDF版テキスト版(20-22ページ、太字は引用者=3羽の雀)
 被告らは、本件検察官発言が真実であることの根拠として、(1)被告矢野が現認した事実であることのほか、(2)上記発言は、本件雑誌が発行される以前から東村山市民新聞等に掲載されていたにもかかわらず、これに対し原告が訴訟を提起するなどの対抗手段をとっていなかったことや、井田弁護士が、裁判所に提出した陳述書(乙イ1及び2号証)に虚偽を記載してまで上記発言を否定しようとしたことは、いずれも、原告自身において上記発言が真実であると自認している証左であると主張し、被告矢野本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分がある。
 しかし、被告矢野は、上記認定のとおり、自ら現認したと主張する担当検察官の発言は本件不起訴処分がされた平成10年7月15日直後には、東村山市民新聞第97号(平成10年9月1日付け)や別件訴訟の本人尋問(平成11年11月15日実施)においては、原告が、朝木市議転落死事件そのものではなく、上記事件に至るまでの事件・嫌がらせに関与した疑いは否定できないとの趣旨であると述べていたところ、東村山市民新聞第125号(平成14年4月30日付け)以降は、「東村山の闇」(平成15年11月10日発行)、さらに本件検察官発言にあるように、原告が朝木市議転落死事件そのものに関余したとの趣旨であると主張するようになったもので、被告矢野の検察官の発言内容の趣旨に関する供述には著しい変遷があり、また、被告矢野は、その本人尋問において、同10年7月5日に担当検察官と井田弁護士との間でされた会話について、本件検察官発言以外に特に記憶していない旨供述するが、これは現場で検察官の発言を聞いていたとすれば不自然な供述といわざるを得ないのであり、加えて、井田弁護士は、本件における証人尋問において、担当検察官が上記のような発言をした事実はない旨明確に記述していることにも照らすと、本件検察官発言を現認したとする被告矢野の供述は信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠もない
 また、上記1認定のとおり、原告は、本件検察官発言が本件雑誌が発行される以前に東村山市民新聞等に掲載されていたにもかかわらず、これらに対して訴訟を提起するなどしていないが、このような事情をもって、原告において上記発言が真実であると自認していることの証左であるなどということもできない。
 さらに、上記1認定のとおり、井田弁護士が別件訴訟で書証として提出した陳述書には、「以上が私と担当検察官との主な会話の内容であり、上記の会話の内容から明らかなように、担当検察官が私に対し、『創価学会側が事件に関与した疑いは否定できないことから、不起訴の処分を決めた』と発言した事実は一切ありません。したがいまして、検察官の不起訴処分の理由も『創価学会側が事件に関与した疑いは否定できない』からでないことは明らかであり、控訴人の主張は事実と全く異なります。このことは、その後東京地検が朝木明代氏の転落死事件そのもについて捜査し、平成9年4月14日に『自殺の疑いが強く、他殺の確証は得られなかった』と事実上自殺と断定し、捜査を終結する旨の発表をしていることからも明らかだと思います。」との陳述記載があるところ、検察官が本件不起訴処分を決めたのは平成10年7月15日であるから、上記記述中の「その後」という表現はその文脈からすると必ずしも適切とはいえない。しかし、上記陳述書には、「刑事告訴は、当職が告訴代理人として行いましたが、平成10年7月15日、東京地検八王子支部は、上記刑事告訴について不起訴処分にするとの決定をしました」と、本件不起訴処分の日が正しく明示されているのである。そうすると、上記のように適切でない表現が使用されていたからといって、これをもって、被告らが主張するように、井田弁護士が本件検察官発言が虚偽であることを証するために、殊更に陳述書に虚偽記載を行ったものと認めることはできない。よって、井田弁護士が作成した陳述書中に一部事実と異なる記載があることを理由に、上記陳述書の記載内容が虚偽であるとする被告らの主張も失当である
 以上のとおり、被告らが本件検察官発言が真実であることの根拠とするところは、いずれもこれを採用することができず、他に本件検察官発言を真実であると認めるに足りる証拠はない
 被告らは、本件雑誌に本件検察官発言と併せて「井田弁護士はその後、創価学会に対する別件の裁判に提出した陳述書で、この検察の処分の時期を偽るなどしてそうした会話はなかったと否定しています。」と記載して、記事の客観性、公平性を保っているから、本件検察官発言を真実であると信じるにつき相当性がある旨主張する。しかしながら、上記被告矢野の発言は、「検察の処分を偽るなどして」との表現から明らかなように、内容的には井田弁護士及び同人が訴訟代理人をつとめる原告に対する批判の趣旨でされたものであるから、上記のような記述がされているからといって、本件記事の客観性、公平性が保たれているなどとはいえない。また、上記のとおり、被告乙骨〔『FORUM21』発行人〕は、本件検察官発言を掲載するにあたり、被告矢野に対する取材しか行っていないが、これは、上記発言を含む本件記事が、原告が朝木市議転落死事件に関与したとの極めて社会的影響の大きい事実を摘示するものであることに照らすと、裏付け取材として十分なものであったとは言い難い。そうすると、被告らの本件検察官発言を真実であると信ずることについて相当の理由があった旨の主張は理由がなく、他にこれを認めるに足りる証拠もない
 以上のとおりであって、朝木市議転落死事件が他殺であり、これに原告が関与しているとの摘示事実につき、その重要な部分について真実であることの証明はなく、また、被告らにはこれを真実と信じたことについて相当の理由もないから、被告らは、原告に対し、連帯して名誉毀損による不法行為責任を負うというべきである。
  • 東京高裁判決・(平成19〔2007〕年9月26日):PDF版テキスト版(9-10ページ、太字は引用者=3羽の雀)
(3)本件問題部分については、その内容が、控訴人矢野が別件で担当検察官と話していた際、たまたま創価学会の代理人から架かってきた電話を聞いたというものであり、電話の相手である井田弁護士の発言を直接聞いたものでなく、検察官発言部分がどのようなやり取りの中でされたものであるかが明確でないことは、本件問題部分の文面から明らかであること、検察官発言部分に続いて井田弁護士がこのような会話があったことを否定している旨が記載されていることに加えて、問題とされている検察官の発言が「創価学会側(信者)が」事件に関与した「疑い」が「否定できない」というものであることに照らすと、本件問題部分を一般読者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、創価学会が朝木明代市議を殺害したとの印象を持つことはないと認められる。
(4)そうすると、本件記事を一般読者の普通の注意と読み方を基準として、記事全体を通読した場合には、朝木市議転落死事件は、朝木明代市議の自殺であるとして捜査は終結されたが、その後新たに判明した事実によれば何者かによる「他殺」であること、今後は更なる真相究明とともに犯人の検挙が望まれることを訴える趣旨の記事であることは読み取れるけれども、本件記事が、特定の個人なり、団体なりを朝木市議を殺害した犯人であると断定するものであることまでは、到底読み取ることはできない。
(5)上記の検討によれば、本件記事は、朝木市議転落死事件は、被控訴人が朝木明代市議を殺害した「他殺」事件であるとの事実を、明示的にも黙示的にも摘示するものとはいえないから、被控訴人の名誉を毀損するものということはできない。
3 以上によれば、被控訴人の請求は、その余について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却すべきである。


2009年9月17日:ページ作成。
最終更新:2009年09月17日 12:55