第1次落書き名誉毀損裁判(宇留嶋瑞郎vs黒田大輔)控訴審資料


控訴人(黒田)控訴理由書(平成21年12月14日提出)


被控訴人(宇留嶋氏)答弁書(平成21年12月16日付)

第1 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は第1審、2審とも控訴人の負担とする。
 との判決を求める。
第2 控訴の理由に対する答弁
1 被控訴人の事実上、法律上の主張は原審においてすでに主張したとおりであり、被控訴人の請求を一部認容した原判決の判断は正当である。
2 なお、控訴人は「補充理由」(控訴理由書9ページ24行目以下)を述べるが、その大半は本件とは無関係の事実及び事実かどうかも疑わしい事実に基づくもの、あるいは一審での主張の蒸し返しにすぎず、いずれも失当である。
第3 民事訴訟規則違反
1 控訴人は控訴期限1日前の平成21年9月23日に本件控訴を提起したが、控訴人がようやく控訴理由書を被控訴人に送付したのは控訴提起から81日後、第1回口頭弁論期日2日前の12月14日である。しかも、控訴理由書には新たに提出する書証の記載があるが、乙号証も証拠説明書も添付されていない。
2 民事訴訟規則第182条は、控訴人は控訴の提起から50日以内に控訴理由書を提出しなければならないと定めている。したがって、本件控訴理由書の提出は民事訴訟規則に違反するものであることが明らかであるのみならず、上記1のような控訴人の訴訟追行態度は第1回口頭弁論期日までに被控訴人に十分な反論の時間を与えず、それによって訴訟の完結を遅延させようとの意図に出たものと考えざるを得ない。
第4 結語
以上により、本件控訴はすみやかに棄却されるべきである。
(ソース:りゅうオピニオン

控訴審判決(抄)

平成22年1月27日判決言渡
平成21年(ネ)第5245号
損害賠償等請求控訴事件(原審・さいたま地方裁判所川越支部平成20年(ワ)第1033号)

判決

控訴人 黒田大輔
被控訴人 宇留嶋瑞郎

主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、10万円及びこれに対する平成20年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、1審、2審を通じ、これを20分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、控訴人による以下のマル1ないしマル3の不法行為があったとして、控訴人に対し、慰謝料200万円とこれに対する不法行為の日(ブログ掲載日)である平成20年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払及び控訴人の開設、運営するインターネットブログ「行政書士、社労士のぼやき」(以下「本件ブログ」という。)への謝罪広告の掲載を求めた事案である。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の本件請求は、控訴人に対し、10万円及びこれに対する平成20年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決6頁14行目の「争点(1)(名誉毀損の成否)について」を「争点(1)(名誉毀損該当性、違法性阻却事由の有無)について」に改める。
(2) 原判決6頁24行目の次に行を改めて以下のとおり加える。
「また、控訴人は、被控訴人の社会的評価を低下させるとしても、社会通念上の受忍限度の範囲内であって法的保護に値しない旨主張するが、本件写真説明がこれを閲覧した者をして前記のとおりの印象を抱かせ被控訴人の社会的評価を低下させるものと評価される以上、法的保護に値しないということはできず、控訴人の上記主張は失当というほかない。
 さらに、前提事実(5)によれば、本件写真の被控訴人の顔の部分には、「命」「犬 作」と書き込みが施され、また顔面の横から「捏造マンセー」とマンガの吹き出し状の記載がされていることが認められるところ、これらの記載は、被控訴人を侮辱し、揶揄する趣旨と解され、違法な侮辱行為に当たると認められる。」
(3) 原判決7頁20行目の次に行を改めて以下のとおり加える。
「この点につき、控訴人は、本件ブログ記事は、現役の市会議員に対する公正さを欠いた不当な捜査のあり方について指摘し、それを批判することを目的とし、本件写真説明は、市議の追悼集会において、不審人物が、一般の参加者まで執拗に付けまわして無断撮影を続けていた事実を国民に知らしめるためのものであるから、本件ブログ記事の全体の内容及び本件写真説明は、共に公共の利害に関する事実を内容とする旨主張するが、被控訴人が、私鉄の駅前で行われた控訴人らの行った街宣活動の様子をフリーライターとしての職業上の関心から取材することは何ら違法とはいえないのであり、その際、被控訴人の参加者に対する撮影行為が被撮影者の承諾を欠き違法と認められる場合があるとしても、そのこと自身は、被控訴人と特定の被撮影者との関係においての問題となるにすぎず、公共の利害に関する事実とは認めることは困難であり、この点の控訴人の主張も失当である。」
(4) 原判決8頁15行目から9頁6行目までを以下のとおり改める。
「ア 前提事実に加え関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 本件写真は、平成20年9月1日に西武新宿線東村山駅前で行われた「創価学会の『疑惑』に沈黙するな!東村山女性市議・朝木明代さん謀殺事件の徹底究明」と称する街宣活動の様子を写真撮影している被控訴人を控訴人が撮影したものである(前提事実(3)、(4))。
(イ) その際、控訴人及び参加者の一人である栗○○○は、上記街宣活動の様子を撮影している被控訴人に対し、写真を撮らないでくれと撮影拒否の意志を伝えた(乙2ないし4の1、2)。
(ウ) それにもかかわらず、被控訴人は、上記街宣活動の様子及び参加者を撮影し続けたころ、控訴人が、被控訴人が撮影をするなら「私も撮りますよ。」、「撮った写真を公開しますよ。」と言い、被控訴人を撮影し、本件写真が撮られた(乙2ないし4の1,2)。
(エ) 被控訴人は、控訴人の上記言動に対し、特に、発言はせずに、控訴人を含む街宣活動の参加者を撮影し続けた(乙2ないし4の1、2)。
イ 上記認定事実によれば、控訴人が、本件写真を撮影した経緯は、被控訴人が創価学会に対する批判的な活動の意味を有する上記街宣活動の参加者を、参加者の複数の者から撮影を拒否する意思を伝えられたにもかかわらず写真撮影を続けていたことから、その被控訴人の写真撮影行為を撮影したものであることが認められる。
 街宣活動は、その活動を通じて、これを主催する者の主張を広く一般に周知させることを目的とするものであるから、その主催者及びこれと同等な立場で積極的に参加している者は、その街宣活動において、自己の容ぼう等を一般に公開することを予定しており、相当な方法による写真取材も黙示的に承諾しているものと推認される。
 そして本件においては、上記街宣活動の場所が私鉄の駅前という公の場所であり、撮影されていることが被撮影者に認知し得る態様で行われていたものであるから、被控訴人による撮影行為は、それ自身違法なものとはいえないというべきである。
 しかし、その後、被控訴人に対し、被撮影者から明確に写真撮影を拒絶する意思表示をされているのであるから、被控訴人としては、この場合、被撮影者の明示の意思に反して写真撮影を続行すべきではなく、中止しなかったときには、その後の写真撮影行為は、被撮影者に対する人格的利益を侵害する違法なものになるというべきである。
 そして、上記経緯からすると、控訴人が本件写真を撮影した目的は、街宣活動の参加者の意思に反して被控訴人による写真撮影行為が続けられ、参加者に対する違法行為が行われたことから、対抗上、その証拠を保全する意味から、被控訴人に警告のうえ、撮影したものと認められるところ、その撮影の目的、態様、必要性等を総合考慮すれば、被控訴人が写真撮影行為を続ける被控訴人を被写体として撮影したこと自体を違法と評価することは困難である。
ウ もっとも、控訴人による本件写真の撮影行為が違法ではないとしても、控訴人が本件写真を本件ブログ上に公開したことが被控訴人の人格的利益を侵害するかどうかは別の問題であり、掲載の目的、態様及び必要性等を総合考慮して、被控訴人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍限度を超えるものといえる場合には、控訴人による本件写真の本件ブログ上での公開は、被控訴人の人格的利益を侵害するものとして違法となるというべきである。
 前提事実によれば、本件写真には、被控訴人の顔の部分に「命」「犬 作」との書き込みがあり、また顔面の横から「捏造マンセー」との吹き出しが記載されていることが認められ、これらの書き込みがあっても、本件写真の人物が被控訴人であることは容易に特定可能であり、本件写真にされた上記書き込みの文言及び上記吹き出しの文言から、その掲載の態様は、被控訴人を揶揄し、侮辱するものと認められること、上記に判断したとおり、控訴人による本件写真の撮影行為は、被控訴人の違法行為の証拠保全の趣旨と解されるとしても、これを公開する行為は、証拠保全の趣旨を超えた目的によるものといわざるを得ないこと等を考慮すれば、控訴人が本件写真を本件ブログ上にて公開した行為は、被控訴人の人格的利益を社会生活上受忍限度を超える程度に侵害したものというべきである。
 したがって、控訴人による本件写真の本件ブログ上での公開行為は、違法と評価される。
 この点について、控訴人は、少なくとも被控訴人が同人の写った画像の公開を承諾していた旨主張し、控訴人の陳述書(乙2)、栗○○○の陳述書(乙3)には「撮影するなら私も撮った写真を公開しますよ。」と被控訴人に告げたとの記載がある。
 しかし、仮に、そのとおりであったとしても、被控訴人は写真の公開を承諾する意思を表示してはおらず、本件の経緯及び本件写真の内容からして、控訴人が本件写真を本件ブログ上で公開する行為について、被控訴人の黙示の承諾があったと推認することもできないというべきである。」
(5) 原判決9頁7行目の「ウ」を「エ」と、同頁14行目の「エ」を「オ」と、同頁24行目の「オ」を「カ」と改める。
(6) 原判決9頁20行目の「また、人の容貌等の撮影についての」から23行目の「成否そのものを左右しない。」までを削る。
(7) 原判決の9頁24行目の「被告が本件写真を撮影し、公表した行為は、」を「控訴人が本件写真を本件ブログ上で公開した行為は、」と改める。
(8) 原判決10頁23行目から11頁2行目までを次のとおり改める。
「控訴人が、被控訴人の顔に書き込み等の記載された本件写真を、本件写真説明を付けて本件ブログ上の記事として掲載したことは、被控訴人に対する侮辱及び名誉毀損並びに肖像権の侵害として不法行為を構成するところ、本件写真及び本件写真説明の内容、これらが本件口頭弁論終結時には、本件ブログ上から削除されたこと、これらが本件ブログ上に掲載されていた期間、本件写真が撮影されるに至った経緯など、控訴人による不法行為の態様、程度及び本件に現れた事情一切に照らせば、被控訴人の精神的損害を慰謝するための慰謝料としては、10万円が相当と認められる。」
2 以上によれば、被控訴人の本件請求は、不法行為に基づく損害賠償として、10万円及びこれに対する不法行為の日である平成20年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決は一部失当であって、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第22民事部
裁判長裁判官 加藤新太郎
裁判官 柴田秀
裁判官 加藤美枝子
(ソース:りゅうオピニオン

2009年12月21日:ページ作成。
2010年2月8日:控訴審判決抜粋を掲載。
最終更新:2010年02月08日 02:39