ファイヤーエンブレム/ネイサン・シーモア


◆気配りのキャラから自分優先のキャラに

ヘリオスエナジー所属のヒーロー。だが雇用されているのではなく、ヘリオスエナジー社のオーナーである。

肉体は男性だが精神は女性的な性傾向があり、カリーナ(ブルーローズ)、パオリン(ドラゴンキッド)と共に女子組としてまとめられている。
いつもオネエ言葉で喋って(だが激高した時など極稀にドスのきいた男口調になる事も)おり、人当りがソフトな人物として描かれているが、大企業のオーナーを務めるだけあって懐が深く、包容力を感じさせる描写が多々されている。
カリーナ「こっちは身を危険に晒してまでヒーローやってるってのにさ」

ネイサン「会社には会社の事情があってね、仕方ない部分もあんのよ」

カリーナ「ファイヤーエンブレムはいいわよ、自分がオーナーだから自由だし

ネイサン何もかも自由ってわけじゃないわよ

TV版第4話・カリーナとネイサンの会話より(TV版台本集P59から台詞を抜粋)
ところがライジングでは一転して、その言動に大人げないものが見え隠れするようになる。
分かり易いのが二部リーグ廃止のニュースを知った後の、女子組での食事中のシーンで、パオリンの「みんな大変だよね、特にタイガー」という内容の台詞に対して「私は大丈夫。悩みなんてないも~ん♪」とのおちゃらけた返答をしていた。

TV版のネイサンならばこのような時は自分の事ではなく(例えば『みんな大丈夫だから、心配する事ないわよ』というように)、話題に出されたヒーロー達に関する返答をしてパオリン達を安心させそうなものなのだが。
0435:クリームソーダをかき回すパオリン。
パオリン「自分のことでも思うようにいかないのに、他人とか企業とか動かすのってもっと大変なんだろうなって、タイガーさん」

0436:3人の俯瞰。重苦しい空気が漂っている。
カリーナネイサン「……」

0437:表情が険しくなるカリーナ。場を盛り上げようと大げさにおどけて見せるネイサン。
ネイサン「もぉ!(場を盛り上げて)アタシ達までくらくなってどうすんのよ!スマイル、スマイル」
カリーナ「いいわねぇファイヤーエンブレムはいつも明るくて」

0438:カリーナを見るネイサン、コーヒーを飲む。満面の笑み。
ネイサンだってアタシは悩みなんてないし、毎日ハッピーだもん

(ライジング版KOW完全台本より女子組の会話を抜粋)

◆セレブのオーナーからキワモノの芸人に

生来の嗜好と、上流階級での教育を施されたせいもあるのか、コスチュームなど細部にまで自分の美意識を徹底させるこだわりの持ち主であり、TV版ではボアのついたボレロを愛用するような上品なものを好む人物だった。
なお、このTV版衣装についてキャラクター原案の桂正和氏は、自身の画集で次のように述べている。
「ネイサンのキャラデザ時は制作現場のスケジュールがかなりタイトになっていたようで
打ち合わせでのラフを元にサンライズ作のデザインが出来ていたのでそれの修正をメインにデザインした。
衣装も出来ていたので細かい所をちょっといじった程度

(桂画集-1:P058よりTV版ネイサンのデザインに関する桂氏のコメントより)


ネイサンの衣装。左:TV版 右:ライジング版 ※wiki以外への転載禁止
しかし突然趣味が変わったのか、ライジングでは某ハードゲイ芸人衣装を連想させるような格好を披露。
おまけにその格好のまま、未成年のパオリンやカリーナを食事に連れ出している。
完全なプライベート用なら兎も角、周囲の目を気にしていた過去のトラウマを再現した心象世界の悪夢を見るような人物が、 なぜそのような衣装を身に纏う事を選択したのかは
ストーリー上では一切説明がない。

またライジング作中では、見せ場である敵との戦闘時にTV版では一度も自称・他称されることのなかった「オカマ」という言葉を自らを示すものとして発言(後述)しており、セクマイとしての描写が、バラエティ番組などで流されるようなありがちなステレオタイプではないかと首をひねる箇所が生じている。

◆時代遅れの価値観を体現したような台詞

パオリンの「男みたいに強くて女みたいに優しい人」というネイサン評は、 「男は強く女は優しく」という旧時代の固定概念の肯定にも取られてしまう危険性があり、また裏を返せば「男は冷たくて女はか弱い」と発言者の中で比較して出てくる台詞にも取れてしまう。
このような時代遅れの紋切型の考えを込めた台詞のために、複雑な問題を抱えるLGBT(セクシャルマイノリティを示す単語)のキャラクターの心の傷をいかにもアニメ的な演出で安易に描くのは、アニメなんだから仕方ないという見方もあるかもしれないが、薄っぺらい。

また、ネイサンというキャラクターが自身を「オカマ」呼びしたシーンは、自嘲しているわけでもなくさながら三流バラエティのお涙頂戴VTR企画の感覚で、なぜその呼称を本人の口から言わせるのかという必要性が、前後の描写や作品全体の流れからは浮かび上がってこない。
更に言えば「男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強」ではなく、せめて「私は最強」ではないのか?
ネイサンは「ありのままの自分」を受け入れて自分を愛する事ができたからあの場に駆け付けたというストーリー展開なのだから、オカマは最強ではなく「(何者でもない)私は最強」というセリフの方が、まだしっくりきたのではないだろうか?

◆使い古された『名言』

悪夢から目覚めたネイサンが、NEXT犯罪者のリチャードと対峙した時の台詞について、ライジング版BD・DVDのオーコメ内で脚本の西田氏をはじめとする制作陣が、以下のようにコメントしている。
ファイヤーエンブレム
「男は度胸、女は愛嬌っていうじゃない?じゃあオカマは何か知ってる?・・・最強よ」

ライジング本編・ファイヤーエンブレム(FE)の台詞より

FE『女は愛嬌って言うじゃない?じゃオカマは何か知ってる?(段々音量が上がってくる)』

西田「オカマは――」

FE『最強よ!(音量大)』

「これあの自分で思いついた時やったな!と思ったんですか?

西田「ま、ちょっとだけニヤリとしました」(一同笑)

西田あ、こんなセリフがあってもいいかもっと(思いましたけど、と小さく語尾が続く)」

米たに「オカマは最強」

ライジング版BD・DVD内オーコメより抜粋(敬称略)

ちなみに「男は○○~女は○○~」の言い回しは、特別ライジングに限ったものではなく、既にTV版タイバニよりも以前から、同じくサンライズ作品でプロデューサーの尾崎氏もイベント企画その他に関わっている『銀魂』や、『ワンピース』などの他作品でも同様な文脈で使われているセリフであり、独自性のあるものではない。

あずみ(アゴ美)
「やるしかないわ!男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強よぉぉぉ!

アニメ版銀魂第111話より台詞を抜粋 脚本:下山健人(2008年放送)


ボン・クレー
「所詮~~~ん この世は~~~男と~女~♪

しかし~~~オカマは~~~男で~女~♪

 だ~~か~~ら~~~♪ 最強!!!

(ONE PIECE 18 尾田栄一郎:著(2001年初版)98pより台詞を抜粋)

これらはどちらも名言としてネット上でも広まっており、ライジングでも名言として使用したいがためにネイサンが自身を(TV版では決して自称する事のなかった)「オカマ」呼びするという流れが出来てしまったのでは無いかという疑問さえ浮かんでくる。

◆海外、特に欧米諸国ではジェンダー問題は鬼門

ジェンダー問題に敏感(日本より細かく分類されているので、言動一つ間違えれば訴訟問題に発展する事もある)な海外のファンの目には、ライジングのネイサンの描写は日本人よりもはるかに奇異に映ったと思われる。

実際に海外からは、ネイサンについて以下のような感想(抜粋要約)が出ているのを確認している。
(なお、英文中のネイサンの代名詞にはheやsheではなく、ジェンダー中立な「ze」が使用されている)
この映画内のLGBT関連描写は、混乱したし困惑もさせられた。 受け手としては、ネイサンはゲイだという印象をまず与えられた。
(理由:That ze outright says ze is gay in this film. 映画内でそう言ったから

ただ、公式曰くネイサンはagender(アジェンダー:無性別、自分は性別をもたない・どの性別でもないと感じる人々)だそうだ。
 映画が進むにつれ、そう言及しているようにも見えなくはないが、ネイサン本人がアジェンダーのつもりでいるのか、あるいは
 genderfluidity(性別が流動的な状態にあり、自己認識として男性と女性の間を揺れ動いている)なのか それともゲイであるということなのか混乱する描写だった。
 特に日本ではhomosexualityもtransgenderismもgenderfluidityもごちゃまぜ或いは極めて類似性向と捉えがちだからなのだろうか。

例の成人前ネイサンが夢の中でバカにされるくだりは、その理由がNEXT能力持ちでアジェンダーで かつ男性が好きだからみたいに盛られていて、
 覚めるきっかけがキッドのセリフ。(how ze's 'strong like a man, but soft and caring like a woman')
 その後の復帰後のネイサンのセリフ(men are courageous and women are caring, and that makes gay people invincible) には
 squint(直訳は「目を細める」 ←不快感や軽蔑を表す)した。

残念ながらこれだとまるでゲイの人は誰しもagenderまたはgenderfluidまたはtransgenderである、或いはagenderまたはgenderfluid
 またはtransgenderな人はゲイである、と示唆しているも同然。 勿論この4つはすべてまったく異なるものなのに。

これって単に字幕制作上のエラーなのか。genderfluidまたはgay的な意味が曖昧に取れてしまう言葉があってその解釈ズレでこうなってしまったのか。
 いや、むしろ日本語にはgenderfluidを表す言葉が存在しなくて、その大元の日本的表現をただゲイって言葉の代わりに使ってた、みたいな事だったんだろうか。

こういうのを題材として取り上げる姿勢自体は認める。制作段階か翻訳段階での何らかの不出来によって混乱をきたしたり不自然な結果になってしまったのかも。
 けど、なぜご覧の有り様になったのかホントさっぱりだよ。

(海外のブログより「ライジング」の感想及びネイサンに関する記事を抜粋・一部要約) http://fissionmailure.blogspot.jp/2014/07/tiger-and-bunny-rising.html

◆謎の消火器に消されるヒーローの炎

ヒーローとしてのネイサンは「ファイヤーエンブレム」のヒーローネームにふさわしく、手から強力な火炎を放射する能力を持っており、その火炎は受刑者を収容する刑務所の壁や鉄柵などを溶かすほどの威力がある(TV版6話)。

だが、 ライジングで敵の悪夢を見せる能力によって意識なく眠り続けるはめになり火炎をコントロールすることができない状態に陥った時、当初はカリーナの能力で辛うじて抑え込んでいたはずの火炎が、途中からなぜか大量の消火器で押さえられてしまう程度の炎描写になってしまっている。

もしかしたら特殊仕様の消火器なのかもしれないが、その点について作中では観客側に分かるような説明は一切なく、かき集めてきたと思われる消火器も、ネイサンが収容されていた病院内に設置されていたものすべてにしては微妙な数で色もバラバラであり、結局出所は不明である。
最終更新:2015年10月17日 16:15
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