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かまいたちの夜 3

    
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   『シュプール』にたどり着くと、改めてゆっくりと観察した。
   小林夫妻が経営するこの『シュプール』は、外観はログキャビン風で、内装は白を基調にしたおしゃれなペンションだった。
   料理のメニューも多国籍というか無国籍というか、とにかく多彩で、その上味も満足いくものばかり。閑古鳥が鳴くどころか、雑誌などにも紹介されて人気も出てきているらしい。暇だから格安で・・・。というのは、小林さんがぼく達に気をつかわせまいとして言ったのだと、昨日到着してから気付いた。
   乾燥室にスキー一式を入れると、ぼく達は中へ上がった。車の音でぼく達の帰還がわかったのだろう、小林さんが出迎えてくれ声をかけてくれた。
   「お帰り。――彼は、どうだった?」
   「まあ、あんなもんでしょ。もうちょっと根性あるかと思ってたんだけど」 
   「厳しいね。――透君、明日は体が動かないかもしれないよ。筋肉痛の薬貸して上げるから、寝る前に塗っておくといい」
   「はい、ありがとうございます」
   ぼくと真理の部屋は残念なことに、というか当然、別々にとってある。ユニットバスがついているので、軽く汗を流した後、ベッドに倒れ込んだ。
   少しうとうとしたかと思うと、すぐにノックの音が響いた。
   「もう夕食よ」
   真理だ。ぼくをわざわざ起こしに来てくれたのだろう、まだ意識が朦朧とする僕はのそのそとベッドから起きあがり、真理と食堂へと向かった。
   食堂のテーブルにはすでに、ナイフやフォークがセットされていた。
   女の子三人組やさっき着いた夫婦も、もう先に椅子に座っていた。
   真理がさっさと座ったテーブルに、ぼくも腰掛ける。テーブルの真ん中にはクリスマスツリーを模したキャンドルが立っている。その揺らめく小さな炎が、窓の外を見つめる真理の横顔を、ほの赤く照らしている。
   「きれいだ」・・・・思わずそう言ってしまいそうになったが、なんとか押し止めることが出来た。
   「どうしたの?そんなにぽかんとしちゃって。そんなにお腹すいた?」
   ・・・やれやれ。
   小林さんの奥さん、今日子さんと、バイトのみどりさんの二人が、料理を各テーブルに運ぶ。泊り客は、ぼく達、三人娘、そして遅れてきた夫婦・・・。だけかと思っていたのだが、もう一人、こんなペンションに似つかなわしくない客がいた。
   食堂の隅、壁に溶け込むようにして座っている、コートの男。食事中だというのに上着も帽子も脱がず、あまつさえ黒いサングラスまでかけている。スキー客にはもちろん、仕事で来ている営業マンにすら見えない。
   ・・・ヤクザ。それがぼくの第一印象だった。が、よく考えたら、ヤクザが一人でペンションに来るとも思えない。おとなしくスープをすすってるいるその様子を見ていると、みかけと違って気のいい人なのかもしれないとも思えてくる。
   いずれにしてもぼく達の前に料理が運ばれてくると、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまった。
   「おいしい!」
   真理はスープを一口含むと、声をもらした。小さな角切り野菜のたくさん入った、ミネストローネとかいうイタリア料理だ。熱々のそのスープはほんとうにおいしくて体の奥から暖まるようだった。
   その後に出てきた料理も、どれも味、量、共に満足のいくものばかりで、ペンションとしてではなく、レストランとしてやって行けそうだと、改めて思った。
   「これって叔母さんが作ってるの?」
   食後のコーヒーの時、ぼくは真理にたずねた。
   「ううん。叔母さんは手伝ってるだけよ、料理を作ってるのは叔父さんの方。小さい頃から料理人になりたかったんですって。」
   「ふうん」
   「それにね実は叔母さん、料理がとても下手なのよ・・・」
   「・・・・でも大変なんだろうな」
   僕は感心した。
   「そうでしょうね。でもたまたまお祖父さんがこのあたりの山をいくつも持っててね。土地だけは初めからあったから、そういう面ではそんなに苦労はなかったみたいよ」
   そんな会話をしているうちに食事を終えた人々が、三々五々、食堂を出て行く。ぼくのデジタル時計は19:55を示している。
   「さてと。私たちもそろそろ行きましょ」
   そう言うと真理は立ち上がった。
   「うん」
   ぼくもそれにつられて重い腰を上げた。