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第一章 運命の足音 4

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                 第一章 運命の足音 4  

  リンは号令を発するとともに同時に目の前の敵に向かって剣を振るった。
  セインとケント、二人の騎士もそれに応じてそれぞれならず者に向かっていく。
  四対三。数の上ではまだこちらが不利だが、人一人の差を補うぐらい、リンにとって、そして二人の騎士にとっても容易い事だった。 
 (大丈夫・・・・・・。落ち着いて相手の動きを見れば、こんな攻撃当たらない!)
  ならず者が放つ一撃、一つ一つ冷静にかわしながら、リンは昨日とは違い落ち着いて相手の様子をうかがう事ができた。自分一人ではない。味方がいるという心理的余裕が、血気にはやりがちな彼女にプラスに働いた。
  元より剣と斧の戦いだ、重量があり、どうしても動作が遅れてしまう斧にとって、軽い上に小回りがきく剣は相性が最悪の相手だ。
  なかなか自分の攻撃が当たらない事に業を煮やした相手が、後先考えず大ぶりになった時こそリンの思うつぼである。紙一重の差で避けると、リンは稲妻のような速さで敵の懐に飛び込み渾身の一撃を見舞う。
 「がはっ・・・・・・!」
  首筋をざっくりと斬られ、ならず者が倒れると、ちょうどその向こうには同じく敵一人を葬ったケントの姿が見えた。
  いともたやすく敵を倒したリンとケントだったが、セインだけは少々苦戦していた。
 「よっ!はっ!このっ!」
  セインの繰り出す突きを、ならず者は斧の幅広な刃を盾代わりに使って防ぎながら、反撃の機会をうかがっている。
  槍は剣や斧と比べて格段にリーチが長い。これは戦闘・・・・・・集団対集団の戦争の場合、最も重要視される部分だ。戦争で大多数を占めるのは兵士であり、彼らはいかに訓練を受けているとはいえ、普段は農良仕事や商売をしている平民だ。職業軍人とは違い、争いごとに慣れていないのである。
  そんな彼らを戦場で使い物にするには、武器にリーチの長い槍を持たせるのが一番の近道だ。敵から離れて攻撃出来るので、他の武器より安心感があり、また同じ技量の持つ者同士の戦いなら圧倒的に有利になる。
  だが懐に入られてしまうと無力だ。長いリーチが災いして、防御の体制が整う前に敵の一撃を浴びてしまう。
  そのことはセインも百も承知で、懐に入られぬよう、すばやい突きを絶え間なく繰り出してゆく。しかしここで思わぬ隙が出来てしまった。突きを出した瞬間、身体が流れセインの態勢が崩れたのだ。
 「もらったぁっ!」
  ここぞとばかり、ならず者が間合いを詰めて一気に襲いかかる。
  が、それはセインが故意に見せた隙だった。攻撃が当たる寸前、セインは愛馬を下がらせ紙一重で回避すると、がら空きになったならず者ののど元を槍で刺し貫いた。
  血の泡を吹いて倒れるのを確認し、セインはほっとため息をついた。
 「セイン!ずいぶんてこずったようだな」
 「いやぁ、いいとこ見せようとして、ちょっと気張りすぎたかな?」
  相棒のトゲのある物言いに、セインは肩をすくめて答えた。
 「全く、貴様というヤツは・・・・・・!戦場で緊張感を保てなくばいつか死ぬぞ!」
 「まぁまぁ、落ち着けよケント。お前の説教は後で聞くって。それより俺たちにはしなきゃいけないことがあるだろう?」
 「くっ・・・・・・!その言葉、忘れるなよ!」
  そう言い捨てると、ケントはリンの後を追った。
  すると、リンは残ったならず者と対峙していた。
 「くそぉっ、騎士どもめ。余計なマネしやがって・・・・・・!」
  たった一人残されたならず者は、予想していなかった結果に狼狽した。
  簡単な仕事のはずだった。
  サカから出てくる小娘一人を始末する。たったそれだけの事で、滅多にお目にかかれない大金を手に入れられる。その金でしばらくは遊んで暮らそうと仲間内で話していた。それなのに-----。
  仲間はすべて倒され、そして自分の命も風前の灯だった。
 「くそっ、くそっ、くそぉうっ!なんでとっとと死なねぇんだよ!」
  追い詰められたならず者は、もはや正常な思考能力を失っていた。
  悪魔を振り払うかのようにリンに突進するとでたらめに斧を振り回す。大ぶりで隙だらけな攻撃だ。
  男の攻撃は虚しく空を切り、一瞬にして間合いを詰めたリンの抜き打ちが、男の胴体を見舞う。
 「ち、ちくしょう・・・・・・。小娘一人って話じゃ・・・、なかったのかよぉ・・・・・・グブッ」
  断末魔の声と共に血を吐き出すと、男の身体はゆっくりと大地に沈んだ。
  リンはそれを冷たく一瞥し、剣を鞘に収めつつ二人の騎士の方へ向いた。
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