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[[Back to Ⅱ-9>Main Story Ⅱ-9]] *第二章 第十節(仮 結局、カムフラージュになるかと身を覆っていた深い緑色のマントを湿った地面に敷いて一晩を明かした。 すぐそばに魔物兵がいるということもあって春日以外一睡も出来なかった。 しかし、物陰に隠れているとはいえすぐそばにあるはずの陣からは物音一つしていない。 朝日がようやく一条の光を放った頃、大胆にもテントに近づいていったカサンドラは昨日とは打って変わって足音一つ立てずに戻ってきた。 「本隊にしては数が少なかった。町に出払ってんのかな?」 「……いや、奴らの目当てが石精霊なら、わざわざ多数が町にいる必要は無いだろう。何かあったのか?」 「人数は少なかった、って町の人は言ってたよな」 琴菜が呟くとカサンドラはそうだっけ?と惚けてみせる。 「昨日街にいた魔物兵、随分訓練されていた。なぜかはわからないがいるとしたら精鋭だろう」 「それはそれでめんどうだよなー」 カサンドラは癖なのか腰の剣をいじりながらルギネスに問いかけるような視線を送る。 顎に手をかけて考え込んでいたルギネスはふ、と澪に目を向けた。 「昨日の魔法、頼って良いか?」 「……そのために呼んでおいて、何を今更」 無表情なまま、澪は言い返す。 琴菜には、澪の表情が一瞬、嫌悪か何かで歪んだように見えた。 「本当に少ないな」 琴菜が不審気に首をかしげた。 神殿の前にいる見張りの魔物兵は僅かに六体のみ。 その後ろには力任せに破ったのであろうたくさんの瓦礫と、神殿の中へと続く破られた入り口がぽっかりと黒い穴をあけていた。神殿の中の様子はさすがに伺えない。 「中に数がいるかもしれない。注意だけは怠るな」 ルギネスの言葉に全員が頷いた。 息を潜め、気付かれずに近付けるギリギリの岩の陰からそっと様子を伺う。 「中と連絡をとってる様子は今のところないな……」 ルギネスの言うとおり油断しているのか魔物兵達は雑談に興じているようだ。 「なんか聞き取れる?」 岩の裏側で琴菜と共に剣を抜いたカサンドラがルギネスに問い掛ける。 しばらく聞き耳をたてた後、ルギネスが首を振った。 「さすがに遠すぎる。人間と発音も違うし明確には無理だ」 「そっか。どうせ口の動きでもわかんないだろうしなぁ……情報はしゃーないか。で、レイは狙えそう?」 カサンドラが視線を岩の陰ぎりぎりへとむける。 そこには長弓を携え魔物兵達を無表情に見据える澪の姿があった。 目を細めて的との距離を測ると、事も無げに頷いた。 「ここから撃つとなると体勢に無理がでそうだが距離は問題ない……的が動かなければ」 目を細め、少し首を傾げる。 口の中で小さく言霊を紡ぎながら矢を番える。 キリキリと弓がたわんでいく。 清々しい弓弦の音と共に不可視の力を纏った矢が放たれた。 鳴弦に気付いた兵士達が醜悪な顔をこちらに向ける。 その屈強な胸を覆う胸当ての隙間を縫うように放たれた矢が突き刺さった。 次の瞬間、無敗を誇っていたはずの魔物兵が悲鳴をあげて燃え上がる。 鎧と擦れて勢いの弱まった矢は、その分厚い皮膚を貫けなかった。 それでも浅く突き刺さった矢尻から躍り出る火蛇が身の内を焼く。 思いもよらない攻撃に見張りの兵士達が色めき立つ。 その混乱を見て取ったルギネスとカサンドラが岩影から飛び出していく。 剣を抜き後を追うように走りだす琴菜の視界の端で、奇襲の口火を切ったはずの澪が再び矢を番えるのを見えた。 浮足立っていた魔物兵に二人は確実に致命傷を与えていく。 首筋や目、腹部の鎧で覆われていない箇所を狙う。 薙ぎ払ったルギネスの細剣が頑丈な鎧に阻まれて折れる。 咄嗟に有利を感じ取り哄笑する魔物兵の口に折れて半分ほどになった剣をそのまま突き立てて飛びのく。 「お前っまたやったなっ」 背後でカサンドラが悲鳴をあげたが軽く無視して予備に差していた短めの細剣を抜く。 琴菜が魔物兵が手にした警笛をたたき落とし、間髪いれずカサンドラが腹部に剣撃を加える。 澪の奇襲のおかげで有利に思えた戦況は魔物兵が態勢を整えたためか徐々に悪くなっていく。 カサンドラがなかなか倒れない魔物兵達に焦りと苛立ちを覚え始めた時、風を切る鋭い音が側を掠めていった。 足元に突き立てられた矢。 何事かと目を瞠るうちに、突き刺さった地面からわずかずつ水が溢れていく。 さらに風を切る音が二回。 驚愕に固まっているカサンドラの側に琴菜が駆け寄る。 「早くっ」 春日を引きずるようにして駆け抜ける澪を追って神殿へ走る。 なぜか硬直しているカサンドラの腕を掴んで琴菜もあとを追った。 一番神殿の側にいたルギネスを抜いて澪は階段を駆け登る。 いつの間にか姿を表していたジルコンが魔物兵達の足を地面に縫いとめた。 次の瞬間、派手な音とともに突き立てられた矢の先端から大量の水が吹き上がる。 驚愕の唸りをあげる兵士達を尻目に五人は神殿の入口へと階段を駆け上がった。 「レイ、前触れ無しにあぁいうの、やめない?」 「…………」 静かに怒りを発しているカサンドラの足元で澪は、乱れた呼吸を何とか戻そうとしていた。 「澪、大丈夫か?」 「れいちゃん、お水飲む?」 けろりとした琴菜と先程まで肩で息をしていた春日が俯いた顔を覗き込む。 「……だめだねー、反応無し」 「こんな側にいるのに?」 「存在自体気付いてないかも。さっき外で色々やったけど反応なかったし」 神殿を入ってすぐに広い空間があった。 外観は灰色がかった白だったその建物の中は、壁や床、等間隔に並ぶ柱や高い天井までくすんだ青の石造りだった。 壁際にそって浅い溝が掘られ、柱と同じ間隔で目線の高さに流れる水のような曲線を描く彫刻の飾りがついている。 柱の根本や中程、天井との境目も同じような彫刻で飾られているが、すべてが色あせて綺麗な形は残っているのに廃墟のような雰囲気を漂わせていた。 広間の一番奥、祭壇と思われる大きな岩が動かされ、隠されていたのだろう地下への階段が口を開けていた。 ジルコンとルギネスがその階段へ歩み寄る。 聞き耳をたてていたルギネスが眉をひそめた。 「奥にも、いるな」 「サフったらモテモテだねー」 おどけた調子でジルコンが苦笑した。 音をたてないように静かに階段を降りる。 階段の傾斜は急でもちろん手すりなど無い。 仕方なく壁に手をつき、一段降りるだけでもかなり神経が磨り減っていった。 視界がくすんだ青で埋め尽くされる。底は未だ見えず、青い闇が広がり、静寂がたゆたう。確かに階段を下りているはずなのに、水の中を湖底へと潜っていくような錯覚を感じた。 「この神殿、地下にこんな場所があったとはなぁ」 カサンドラが小声でぼやくと、ルギネスも頷いた。底へと近づくにつれ、壁の色がくすんだまま濃度を増していく。 小さく炊いた光が揺らめく幻想的な光景に、そんな場合では無いと解りながらも琴菜と澪は思わず溜息をついた。春日に至っては目を奪われ、たまに段から落ちそうになっている。 そんな三人を見て、何時の間にか姿を消したジルコンが気配だけで微笑んだ。 「あ」 ようやく階段の終わりが見えた。直ぐに小さな部屋へと空間は続いている。 部屋には幾重にも飾り彫りされた重厚な石の扉がついており、半開きになっているそれから続く空間からたいまつかなにかの光が漏れている。 細心の注意を払って扉に近づくが、あまり中の様子は伺えず、音もあまり聞こえない。 念のため扉を開けたところから死角になる位置に固まり、どうすべきか相談を始めようとしたその時。 「クソッ!」 扉の中から忌々しげな男の怒鳴り声が聞こえた。 続いてキィンと何かを弾く様な音が響く。 「何故解除できん!この役立たず共が!」 周りに当り散らしている男を宥めるような声も微かに聞こえる。 「すみません、私達とは、格が違いすぎて……」 「黙れ!」 「……かなーり、苛立ってるねぇ。どれだけ振られ続けてるやら」 ジルコンがやれやれと首を振った。 「今なら奇襲かけちゃえそうな気もするな……なんか数あんまりいなさそうだし」 琴菜が呆れ顔で呟き、各々が苦笑したり神妙な顔をしながら頷いた。 「しかしもっと数がいると思ったんだが……ここも少数なのは少しおかしい」 ルギネスが顔を顰める。 「俺ら囮に引っかかってましたーだったらやだなぁ」 うげ、とカサンドラも嫌そうな顔をした。 「やだなぁじゃすまないんじゃ」 「あ」 澪がつっこむ声に被さるように、ジルコンが目を見開いた。 「どうした?」 「いや……サフの気配が強すぎて気づかなかったよ。そっかそっかなんでこんなに少数なのかわかった」 納得したようにうんうん頷く。 「どういうことだ?」 「力の弱い精霊の気配がする。しかも複数だ。あのヒステリー起こしてる人、精霊使いじゃないかなぁ?」 「精霊……使い?」 怪訝そうに眉をひそめて琴菜が聞き返す。 「う~ん……水か……地の属性かな?今残ってるの。小さすぎてわかりにくいけど」 眉間にしわをよせてジルコンが言う。 「魔法使うのかーめんどいなそれ」 「だが、魔法さえしのげば……どの属性がいるのか、正確にわからないか?」 「ん~、サフの気配が強すぎてわかりにくいんだよね。でも人数が少ないのも精霊使いだからだろうね」 「だから、精霊使いってなんだ?」 わけもわからないまま進んでいく話に琴菜が無理矢理割り込む。 「……?レイもそうだろう?」 カサンドラはなにがわからないのかといった表情で澪と琴菜を交互に見る。 「……今はそれどころじゃないだろう、どうしのぐ気でいるんだ?」 澪はカサンドラと琴菜の視線を避けてルギネスに尋ねる。 「……使役されてる精霊の属性がわかればレイに対立属性の魔法を援護として頼むんだが……」 「正確にわからないんじゃぁねぇ」 困ったね、と言わんばかりにジルコンが苦笑する。 その背後にあった扉の隙間から淡く光るものが音もなく飛び出した。 「御主人様っ侵入者ですっ」 澄んだ声が石室で響き渡る。慌てたカサンドラがとっさに飛び出してきた小さな光を捕まえるが、既に扉の向こうから数人が駆け寄ってくる足音がした。 「あ~こうなったらしょうがないんじゃねぇ?」 パシッという音を響かせて手から逃げ出した精霊を目で追いながらカサンドラが呟く。 「だったらさっさと入れ。こんな狭い所じゃ剣は振れないだろ」 溜め息をつきながらルギネスが答えた。 じゃぁ、と開けられる寸前だった扉をカサンドラが力一杯引いた。 力を込めて内部から扉を押そうとしていた兵士が二人、つんのめるようにして飛び出してくる。 狙っていたかのようにルギネスの剣が一閃する。 落とされた魔物兵の腕が床につく頃にはカサンドラが室内に飛び込み二人の魔物兵を相手に立ち回り始めていた。 扉から転がり出た兵士らにとどめをさしたルギネスの後について琴菜も室内に飛び込む。 後に続こうとした澪と春日をジルコンが引き留める。 「二人は、奥の祭壇まで走って」 いつになく潜められた声に澪が訝しげな視線を向けるが、春日は大きく頷いた。 奥の祭壇にはこの場にただ一人、人間の姿をした兵士が周りに淡い光をいくつか浮かべて立っている。 「あの光が精霊。地の属性しかいないし、弱いから強力な魔法は無理。でも一応妨害してくると思うから気をつけてね」 それだけ言うとジルコンはまだ疑うような目をしている澪の手を取って走り始めた。 剣戟の間をくぐり抜け、ジルコンと澪、春日の順に石組みの部屋を駆け抜ける。 苦戦しながらも魔物兵を戦闘不能にしたカサンドラとルギネスも後を追う。 駆け寄ってくるジルコンに祭壇の側に立った男が何か言おうとした瞬間、周囲に浮いていた光が唐突に消えた。 「……俺やサフにかき消されるような精霊使うくらいで、いい気になるなよ」 ボソリと呟いたジルコンの言葉を、澪が聞き返す前に祭壇まで辿り着く。 あがった息を整える暇もなく、男が手にした剣を澪が蹴り落とす。 遅れて辿り着いた春日がとっさに手をついたのは、祭壇に飾られていた手の平ほどの大きさの青い石の上だった。 繊細な硝子細工が崩れたような音がした。 呆然と立ちすくむ男や澪達を尻目に、ステンドグラスのような羽根を広げたジルコンは薄く笑みを浮かべた。 「久しぶり。おはよう、サファイア」 祭壇に安置されていた大粒のサファイアを覆うように人影が浮かび始める。 幾重にも細い金細工で飾られた細い足首。 細くしなやかな腰と足首まで覆う幾重もの薄布は、一枚一枚に濃淡の差がある青。 大きく肩の開いたゆったりした青い布地の間からのぞく、白く細い腕にも細い金細工が飾られている。 細い首筋の先に見える耳は先が少し尖っている。耳たぶを飾る金と青い石の耳飾りや、手足の飾りが巻き上がる風で涼やかに鳴る。 舞い上がる髪は、絹糸のように細く艶やかな青。真ん中で分けた前髪の付け根には一際美しく輝くスター・サファイア。 すっきりと通った鼻筋。薄い笑みを浮かべた小さい唇は淡い桜色。 ゆっくりと開かれた長い睫毛の下から見えるのは、宝石よりも強い光を帯びた深淵の蒼。 背中に畳まれていた純白の翼がゆっくりと開かれる。羽毛のような柔らかい質感の翼がその細身の身体を包む。 覚醒を表すように再び翼が勢いよく開かれると神殿のくすんだ青い壁や柱、床、天井にいたるまで元の艶やかさを取り戻す。 隙間無く組み合わされていた石の間から、涸れていた水が流れ出ていた。 ドーム状になった天井を伝って、壁の石積みの隙間から、石畳の間から、柱の飾りから、大地を潤す恵みの水が静かに穏やかにあふれ出す。 壁際に沿って作られた細い水路に小さな流れが出来る。久方ぶりに聞いた水の流れる音の間から、どこか金属質な小さく響き渡る音がする。 涼やかに流れる音と雫が紡ぐ音を遮らないように、小声で澪が呟く。 「……水琴窟だ」 水音のように涼やかな女性の声がした。 [[Go to Ⅱ-11>Main Story Ⅱ-10]]
[[Back to Ⅱ-9>Main Story Ⅱ-9]] *第二章 第十節 結局、カムフラージュになるかと身を覆っていた深い緑色のマントを湿った地面に敷いて一晩を明かした。 すぐそばに魔物兵がいるということもあって春日以外一睡も出来なかった。 しかし、物陰に隠れているとはいえすぐそばにあるはずの陣からは物音一つしていない。 朝日がようやく一条の光を放った頃、大胆にもテントに近づいていったカサンドラは昨日とは打って変わって足音一つ立てずに戻ってきた。 「本隊にしては数が少なかった。町に出払ってんのかな?」 「……いや、奴らの目当てが石精霊なら、わざわざ多数が町にいる必要は無いだろう。何かあったのか?」 「人数は少なかった、って町の人は言ってたよな」 琴菜が呟くとカサンドラはそうだっけ?と惚けてみせる。 「昨日街にいた魔物兵、随分訓練されていた。なぜかはわからないがいるとしたら精鋭だろう」 「それはそれでめんどうだよなー」 カサンドラは癖なのか腰の剣をいじりながらルギネスに問いかけるような視線を送る。 顎に手をかけて考え込んでいたルギネスはふ、と澪に目を向けた。 「昨日の魔法、頼って良いか?」 「……そのために呼んでおいて、何を今更」 無表情なまま、澪は言い返す。 琴菜には、澪の表情が一瞬、嫌悪か何かで歪んだように見えた。 「本当に少ないな」 琴菜が不審気に首をかしげた。 神殿の前にいる見張りの魔物兵は僅かに六体のみ。 その後ろには力任せに破ったのであろうたくさんの瓦礫と、神殿の中へと続く破られた入り口がぽっかりと黒い穴をあけていた。神殿の中の様子はさすがに伺えない。 「中に数がいるかもしれない。注意だけは怠るな」 ルギネスの言葉に全員が頷いた。 息を潜め、気付かれずに近付けるギリギリの岩の陰からそっと様子を伺う。 「中と連絡をとってる様子は今のところないな……」 ルギネスの言うとおり油断しているのか魔物兵達は雑談に興じているようだ。 「なんか聞き取れる?」 岩の裏側で琴菜と共に剣を抜いたカサンドラがルギネスに問い掛ける。 しばらく聞き耳をたてた後、ルギネスが首を振った。 「さすがに遠すぎる。人間と発音も違うし明確には無理だ」 「そっか。どうせ口の動きでもわかんないだろうしなぁ……情報はしゃーないか。で、レイは狙えそう?」 カサンドラが視線を岩の陰ぎりぎりへとむける。 そこには長弓を携え魔物兵達を無表情に見据える澪の姿があった。 目を細めて的との距離を測ると、事も無げに頷いた。 「ここから撃つとなると体勢に無理がでそうだが距離は問題ない……的が動かなければ」 目を細め、少し首を傾げる。 口の中で小さく言霊を紡ぎながら矢を番える。 キリキリと弓がたわんでいく。 清々しい弓弦の音と共に不可視の力を纏った矢が放たれた。 鳴弦に気付いた兵士達が醜悪な顔をこちらに向ける。 その屈強な胸を覆う胸当ての隙間を縫うように放たれた矢が突き刺さった。 次の瞬間、無敗を誇っていたはずの魔物兵が悲鳴をあげて燃え上がる。 鎧と擦れて勢いの弱まった矢は、その分厚い皮膚を貫けなかった。 それでも浅く突き刺さった矢尻から躍り出る火蛇が身の内を焼く。 思いもよらない攻撃に見張りの兵士達が色めき立つ。 その混乱を見て取ったルギネスとカサンドラが岩影から飛び出していく。 剣を抜き後を追うように走りだす琴菜の視界の端で、奇襲の口火を切ったはずの澪が再び矢を番えるのを見えた。 浮足立っていた魔物兵に二人は確実に致命傷を与えていく。 首筋や目、腹部の鎧で覆われていない箇所を狙う。 薙ぎ払ったルギネスの細剣が頑丈な鎧に阻まれて折れる。 咄嗟に有利を感じ取り哄笑する魔物兵の口に折れて半分ほどになった剣をそのまま突き立てて飛びのく。 「お前っまたやったなっ」 背後でカサンドラが悲鳴をあげたが軽く無視して予備に差していた短めの細剣を抜く。 琴菜が魔物兵が手にした警笛をたたき落とし、間髪いれずカサンドラが腹部に剣撃を加える。 澪の奇襲のおかげで有利に思えた戦況は魔物兵が態勢を整えたためか徐々に悪くなっていく。 カサンドラがなかなか倒れない魔物兵達に焦りと苛立ちを覚え始めた時、風を切る鋭い音が側を掠めていった。 足元に突き立てられた矢。 何事かと目を瞠るうちに、突き刺さった地面からわずかずつ水が溢れていく。 さらに風を切る音が二回。 驚愕に固まっているカサンドラの側に琴菜が駆け寄る。 「早くっ」 春日を引きずるようにして駆け抜ける澪を追って神殿へ走る。 なぜか硬直しているカサンドラの腕を掴んで琴菜もあとを追った。 一番神殿の側にいたルギネスを抜いて澪は階段を駆け登る。 いつの間にか姿を表していたジルコンが魔物兵達の足を地面に縫いとめた。 次の瞬間、派手な音とともに突き立てられた矢の先端から大量の水が吹き上がる。 驚愕の唸りをあげる兵士達を尻目に五人は神殿の入口へと階段を駆け上がった。 [[Go to Ⅱ-11>Main Story Ⅱ-11]]

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