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再構成

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プロローグ 『収束、あるいは幕開けの』

許される介入は限られる。
既にこの手を離れた世界。
人が、人として、人の手で、選び取る一筋。
そこに介入は許されない。

許される境界は、深く、狭い。
”今”の私は、澪標。
限りない分岐を指し示す。

さぁ、選び取れ。
選択せよ。偶然を必然に、必然を未来に。
時の針を進めよ。不確かな未来を定めよ。
未来を現実に。その手にせよ。

「”今”の私は、眺める者。分岐を示し、祈る者。
私の手を離れても、
選択され、定められ、現実になってゆく未来を、
見届け、記憶し、伝える存在」


第一章 第一節 『ココではないどこかへ』

一緒にいたいと望むことに
もし、資格が必要なのだとしたら
持ってるもの、全部投げ出してでも
一緒にいられる資格が欲しい。
許して欲しくて、どうしたら良いのか分からなくて、もどかしい気持ちを持て余してる。
穏やかな声、微笑む気配、優しい仕草。
そばに居たくて、逃げ出したくて……どうしたらいいのか……
何を、どうしたら……?

『世界を越えて、君を呼ぶ声』

生温い風が肌を撫で、草と土の匂いが鼻を掠める。
さくさくと草を踏み分けながら当ても無く鬱蒼とした木々の間を彷徨うこと、歩き疲れて狂ってきた感覚では約二時間。
楽しげに先を行く少女の後を追いながら、綾城 澪はこんなことになるなら気まぐれなど起こさなければ良かったと少し後悔していた。

肌寒い春の嵐が吹き荒れる早春の京都にいたはずだった。
路面から吹き上がる風に乱された髪が視界に入るのを嫌って、前髪をかきあげる。
わずかに色素が薄い瞳を細身のサングラスで隠し、細身の身体を膝下までのスプリングコートで包む。
不調を訴える身体を無視して、格子の街並みを南へ下っていた。
高校進学を期に家を離れることを決めた。
そばにある大切なものは、少ない方が良い。
薄闇の中、目の前で飛沫を上げた深紅が脳裏によぎった。
いつもなら気付かない小路に気付いたのは、一瞬、強い風が穏やかになったから。
曖昧になった境界が、強い風で玩ばれているように散らばる。
強大な力を感じる。近寄るなと経験が告げる。
力の中心まで、あと三歩。引き寄せられるように歩みを進める。
向こうから来る長い黒髪の少女に気付いた瞬間、少女と自分が大きな力を含んだ風に飲み込まれ、意識すら遠のいていくのを感じた。

そして気付けば鬱蒼とした森の中。
疲労から俯きがちに歩く澪の顔を覗き込むように少し前を歩いていた少女が声をかけてきた。
「体力無いんだな?」
赤みがかった黒髪が細面の輪郭を縁取って肩から滑り落ちる。
釣り目気味の瞳は、右目は緑。左目は茶色。
怒っているような印象のある鋭角的な顔立ちに僅かにいたわりの感情が見え隠れする。
澪より少し背の高い細身の少女は龍ノ城 琴菜と名乗った。
「れーちゃんつかれた?」
くるりと振り返った先を行く少女は空原 春日。
琥珀色の長いくせっ毛を翻す。
糖蜜色の大きな目と丸みを帯びた輪郭、小柄な体躯のどこにそんな活力があるのかずいぶん歩いたにも関わらず元気よく駆け寄ってくる。

右手に当たる柔らかい感触に目を開けた。木漏れ日の眩しさに目を細めながら起き上がる。右手に当たっていたのは妹のものによく似ただった。
穏やかな茶色の髪の少女の寝息になぜか安堵して、少女の身体越しに長い黒髪の少女を見つけた。
気怠くて、なんとなしに眺めていると黒髪の少女が目を開けた。
色眼鏡を通していない目は、少女の瞳の色に気付いた。片目ずつ色が異なっているのだ。

既視感。いつも首に下げている二つに割れたのであろう水晶球が動きにあわせてチリン、と鳴った。
「大丈夫か?」
目の焦点がなかなか定まらないので声をかける。
「あ…あぁ……確かさっきすれ違いかけたよな?ここでは無いところで」
言われて周囲を見渡すと、そこは明らかに今までいた街ではなく、鬱蒼とした森の中で一カ所だけ拓けた場所。
耳が痛くなるほどの静寂と穏やかな日の光だけがあった。
「とりあえず」
先に立ち上がった黒髪の少女が手を差しのべる。
「私は龍ノ城 琴菜。あんたは?」
「……綾城 澪。オレとすれ違う時、妙な感じはしなかったか?」
「した……気はするな……」
ふぅん、と相づちを打ちながら澪は、すぐ横で眠っていた少女を起こそうとする。
「んぅ~……」
寝ぼけた声と共に糖蜜色の大きな瞳が開いた。
「……あれぇ?ここどこ?」
間の抜けた声に二人共一気に脱力した。

「……わかれば、それにこしたことはない。」
さめた口調で澪は返答した。
「え!?わかんないの!?ここドコ!?」
「お前……名前は?」
「春日!私、空原春日っていうの」
「……ちゃんと姓と名がハッキリしてるし、なんか思いっきり日本人ですって名前だな」
と少し安心したような感じで琴菜がそうつぶやいた。
「で、春日?何処から来たんだ?オレたちと同じ場所からではないだろ?」
「え……?京都っ」
澪がさりげなく少女に聞くと、少女は思い切り微笑んで、答えた。
「京都って……」
「え、ここ京都じゃないの?」
「「……」」
呆れたように二人がため息をつく。
「明らかに違うだろ……」
澪が呆れたように言い放つと、琴菜も同意するように頷きながら呟いた。
「それにしてもココはどこなんだろう?」
「日本ではない気がする。どこか別の……」
まるで風が通り抜けたような声で澪が言った。
周りを見渡してみても、先ほどからの景色に変わりはなかった。唯一変わったものといえばそう……太陽の光が差す位置が少し変わったくらいだった。
それ以外はまったく何の代わりもなく、時間だけが経っていった。
木漏れ日と新緑が目に痛いほど。現実離れした、どこまでも穏やかな空間。
すうっと風が吹き始めたとき。
「あの時感じた気配と何か関係があるのだろうな…多分…」
ぽつりと澪が呟く。
「あの気配を感じたとき、オレは……オレのカンが近づくなといっていた」
「私も私のカンが同じコトを言った。でも私は不思議と無意識のうちに進んでいた」
琴菜が応えるように言う。
「で気が付いたらココにいたって訳だな。オレと同じで」
納得したように頷いた澪が、春日の方へ振り向いた。
「お前は何か感じなかったのか?」
「何の話?」
春日がきょとんと首を傾げる。
「解ってなさそうだな……」
期待していなかったけど、と肩をすくめる琴菜に、春日が気にせず話かけた。
「ねぇ、それよりココから移動しないの?お散歩したい~」
「そうだな……ここにずっといても仕方ないな……でも、どこに行けば……」
独り言のように琴菜が呟く。すると、春日が突然、笑顔である方向を指差した。
「ねぇ、あっちに行こうよ!なにかありそう」
「そっちに……何があるんだ?」
琴菜が訝しげに春日に尋ねる。
「わかんないけど、何となく楽しそうー」
あっけらかんと春日が答えた。
「行ってみても良いんじゃないか?人に会えれば良いんだろ」
澪の一言で一行は、見ず知らずの場所で見ず知らずの道へと進んでいった。


第一章 第二節

穏やかな光がオレンジに染まりだしたころ、朱色の木々の隙間に何かを琴菜が見つけた。
「……城壁?」
忽然とそびえるそれは漆喰が所々はがれているが堅牢な石造りで内部を懸命に守っているかのようにも、外部からの侵入を拒んでいるようにも見えた。
「街だろうな、人がいるはずだ」
微かに安堵した様子で澪が呟く。
「まぁ、住民が友好的とも限らないし、人間ですらないものがいるのかもしれないがな」
「それでも行くしかない、だろう?」
琴菜が城壁を見据えたまま言うと、そのとおりだ、と澪が頷いた。
「おなかすいたなー、ついたらごはん食べたいなぁ……」
春日が二人の空気お構い無しにぽつりと呟いた。

目標が見えると気分も持ち直す。早足にそちらに向かう。
見上げるような城壁には不釣り合いに小さい城門があり、周りを耕して作った畑で男達が農具を振るっているのが遠目からも分かる。多くの布を使い全身を覆った人々の服装や、西洋の農村のような雰囲気から日本では無い事は明らかだった。
「この国の言葉が知ってる言葉ならいいのだが……一応すぐに逃げ出せるようにはしておいたほうがいい」
澪が眉間に軽くしわをよせて呟いた。
不意に近くにいた男達が三人に気付いた。彼らはなにか二、三言交わすと一人は街の中へ、残った三、四人がこちらへと近づいてきた。
人のよさそうな老爺がにこにこと語りかけてくる。
「もし、変わった服装ですが旅のお方ですかな?」
彼の口からでてきたのはその衣装に似合わぬ流暢な日本語だった。
驚いて思わず顔を見合わせる。
「いや、旅のものというか……」
悩む琴菜の声に被さるように澪が
「ああ、どうも道に迷ってしまったらしくてな。ここがどこかお尋ねしたい」
毅然とした口調で言った。
「ふむぅ……」
老爺はしばらく何か考え込む。その間にさっき別れた一人が人を引き連れてやってきた。
引き連れてきた皆人間は少なからず武装している。
「やばい感じか?」
琴菜が澪にぼそっとささやく。
「……好意的ではさっぱり無いな」
澪が苦い顔で返す。考え込んでいた老爺が顔を上げた。
「申し訳ないが、わしらはほいほい人を街に入れられないのじゃよ」
周りの人間が武器を構える。
緊迫した空気の中、
「よかったね!人一杯だね!」
春日だけがにこにこと喜んでいた。

「何処からおいでになったか、お話ねがいましょう」
老爺の側に立つ若い男が警戒心もあらわに言い放つ。
「要請ならともかく、強制されるのは嫌いでね」
無表情だった顔に侮蔑の色を含ませて澪が言い返す。
険悪なムードに琴菜が澪を諌めようとしたとき、人垣の向こうで小さな騒ぎが起こっていることに気付いた。
「誰か、来るね」
春日の言葉通り、人垣をかき分けるように青年が一人、三人の目の前に姿を現した。

細身の長身、蒼白色の髪、浅黒い肌。右の瞳は布と赤い石をあしらった眼帯で隠され、露わになっている左の瞳は濁った金色。
首周りの広い服から覗く右の首筋には火傷だろうか、ケロイド状になった広い範囲の傷痕。右の手のひらには指先だけ空いた手袋をし、左の腰に細く長い剣を下げている。
若草色の上着と薄い黄色のズボン、革のブーツに身を固めた青年は澪達からわずかにずれた位置に視線を合わせていた。
地位のある人間なのか、周りの人間が判断を委ねるように彼を通す。

「……中央からの者では無いようだ、服装もずいぶん異なる」
「しかし……!!」

左の瞳が反論しようとした青年をとらえた。

「武器も防具も身につけず、たった三人で攻撃に来るとも思えないだろう?」
掠れたバリトンが正論らしき物をはいたらしい。
その声をきっかけに人垣が崩れ、武器を降ろした人々は街に帰って行った。

「やはり……この世界の服では無いな……」
「はぁ?」
一人で納得している青年に三人は疑問をぶつける。
「さっきのは何だったんだ?」
「ずいぶんと手荒な歓迎だな」
「ご飯ある?」
一気にぶつけられる質問に動じることなく、青年は少し苦労して澪に視線をあわせた。

「お前達は……ココではないどこかから飛ばされて来たんじゃないか?」

「!?」
「……どうして、そう思う?」
澪の質問に青年は視線をそらした。
「……俺の名はルギネス。……俺が……お前達を呼んだ」
「お前が!?」

第一章 第三節 『隻眼の剣士・兎の乙女』

「ココは、お前達の知る世界では無い。
この国は『スティージェ』。この街は『西の都・ヴェルトロ』。
中央である主都、『王都・インテルミネイ』にいる国王・ルーベルト=スファルシェ=コートレートと、魔神・ジュデッカの悪政に抵抗する地下勢力の一活動拠点でね、皆、外部からの人間に敏感になっている」
淡々と話す、ルギネスと名乗った青年について街に入る。
「で?それと私達に何の関係がある?」
と琴菜が言うと、澪も同感だと言わんばかりに頷く。
「突然招いておいて申し訳ないが……これから起こす『革命』に力を貸して欲しい」
「……関係無いな」
澪は一言で切り捨てる。
「ココはお前達の世界だろう?オレ達には何の関係も無い。突然呼ばれて、手伝えとか言われて。やるわけが無いだろう」
「……確かに、そうだろう。
でも、この革命が終わらない限り、お前達も元の世界には戻れないんだぞ?」

ルギネスの一言に、澪は一瞬、その無表情な面に悔しそうな、不機嫌そうな色を滲ませた。

「……それは、脅しか?」
と、琴菜が冷めた表情で言葉を発した。
「……そう、とらえられてもしかたないとは思う。しかし、事実には変わりない。」
ルギネスは淡々と答える。
琴菜はどこか納得のいかない表情を浮かべた。
「引き受けては……くれないだろうか?」
しばらくの沈黙を破ったのはルギネスだった。
そしてまた、長いようで短い沈黙が続く。
「ルギネス様、わざわざお招きしたお客様とこんなトコロで話すのも何ですし、砦にご案内されては?」
長身のルギネスの背後から突然少女の声がした。
極自然に振り返り「わかった」と言う風に静かに頷くルギネスとは対照的に、三人は思わず目を見開く。
ルギネスの影から姿を現したその少女の姿は、見た目は本当に普通の少女だった……唯一つ頭から出ている兎のような耳を除いては。
色白の頬、大きなブラウンの瞳、薄桃色の長い髪。しなやかでふくよかな女性らしい小さな肢体。
淡い草色のワンピースを二枚重ね、長い袖の上から両手首を細いリボンで飾っている。
そして、その髪の間からは白い兎の耳。瞳や表情にあわせて時々動くそれは明らかに作り物には見えなかった。
見慣れない姿に言葉も失っている三人に、少女はニコッと微笑みかける。
「では、参りましょうか?」
三人はその微笑みにただ従ってしまった。

一行が砦に向かう中、三人はやはりどこか納得のいかない面持ちでいた。
「どこまで、行くんだろうな……?」
「というより、何普通についてきてしまったんだ?」
琴菜に応えるように澪がつぶやく。
「確かに……」
「いいんじゃないかな?付いてきちゃったんだし。それにうさぎさん可愛いねぇ」
相変わらずな明るさの口調で春日が言った。瞳はぴこぴこと動く少女の耳に釘付けになっている。
そう、何で人に兎の耳が生えているのか?有り得ない状況に、ここがやはり自分達の世界ではない事を実感して頭が痛くなる。
周りを見渡してみると、決して多くはないものの彼女のように人とは違う耳が付いていたり、体の一部が違っていたりする人間が稀にいる。
しかし、みるたびに驚いているわけにもいかない。ここでは普通の事なのだろうと無理矢理納得してついて行かざるを得なかった。
日はもう隠れ始めて夜が始まろうとしている。

堅牢な石造りの街並みは日本ではテーマパーク以外で見られる物ではない。
所々で赤い土壁から覗く濃い緑で余計に場違いな気分になる。
赤っぽい漆喰の剥がれかけた土塀で囲われた狭い石畳の路地を抜け、塀の途切れたところから覗く大きな建物へ少女は動きやすそうな革のブーツで歩を進めていく。
「ようこそ、私たちの住まいへ!紹介が遅れました、私はエレン=メイ=フェアリ。
さあ、中へどうぞ!」
三人はまたしても進められるがままにその建物の中へ足を進めていった。

三人が通された一室はこざっぱりとした広めの部屋で、入ってきた扉以外に小さめの扉と幅の狭い窓があり、一角は布で仕切られていた。
大きな木の円卓が部屋の中央に置かれ、その机を囲むように様々な形の椅子が並んでいる。
「さあ、どうぞおかけになって下さい。」
エレンに勧められて、三人は近くの椅子に腰をかけた。
エレンのように三角の耳を髪の間から覗かせた女性が木のカップに冷たい水を注ぎ目の前に並べていく。
少し口に入れるのに躊躇するが、歩き詰めの体は水分を欲している。
戸惑う二人を差し置いて、春日が幸せそうに水を飲み干した。
それを見て穏やかに微笑むエレン達を見やり、二人もおずおずとコップに口をつけた。
しばらくしてルギネスが部屋に入って来た。

「さあ、先ほどの話の返事を聞かせてはくれないか?」
「はっきり言おう。オレ達には関係のないことだ。だから関わる気はない。」
澪は言う。どこまでも、決然として。
「でも、お前たちに、その『革命』とやらに関わらなければ、オレ達は元の世界に帰れないのだろう?」
と、澪は僅かに顔を曇らせて続けた。
「ああ、そうなるな……」
ルギネスは静かに答えた。

空気が張り詰めたような沈黙。少しして、ルギネスがそれを破った。
「考える時間を与えよう……あまりにも突然のことで、すぐに決断するのはきっと無理だと思う。決まるまでここに滞在してくれてかまわない。急かして……悪かった」
「有難いな、このまま野宿になるかと思っていたから」
ホッと息を吐き出すように琴菜が言った。
「今夜三人でどうするか話し合う。それでいいか?」
と澪がルギネスに言った。
「あぁ」
頷きながら、ルギネスは立ち上がる。

「そういえば、名前も聞いていなかったな……お前たちの名前は?」
「オレは澪…綾城澪だ。」
「私は龍之城琴菜。」
「私、春日!空原春日だよ!」
「レイ、コトナ、カスガ……だな。わかった。良い夜を……」
ルギネスは幾らか穏やかな表情でそう言って、部屋を出て行った。
「さあ、三人とも部屋にご案内しましょう」
いつの間にか控えていたエレンが言った。
三人はエレンに案内された部屋に入り、今後のことについてを話し始めた。

第一章 第四節 『赤い瞳の若き指導者』

簡素だが清潔な部屋の中、歩き通しの体に冷たいシーツは心地よく、軽く目を閉じる。
暫くの静寂の後、琴菜が呟いた。
「なぁ、本当にどうする?ルギネスとかいう男の話だと、協力しないと帰れないらしいが、要するにやることは戦争だろう?」
「……そうだな」
澪が答えて頷く。正直荷が重い、という空気をまといながら続ける。
「しかし、もし解決したところで本当に帰れるという保証は無い。第一、なんでオレ達なのかという説明も受けてないしな」
「打破するチカラがあるから、でしょう?」
ため息をかき消すように掛けられた言葉に振り向くと、ベッドに今までうつぶせになっていた春日がいつの間にか腰掛けてにこにことこちらを見ていた。
「……なんの、ことだ?」
澪が目を鋭くして軽く睨みつける。
「え、だってわざわざ呼ぶくらいなんだからそういうなんとかできる力があるんじゃないかなー?って」
きょとん、と首をかしげながら春日が澪に視線を合わせた。
力がある、それは事実だ。
澪は、当人も持て余すほどの『能力』を有している。時に、自己嫌悪に陥るほどの。
しかし、それならば同じく呼び出されたほかの二人にも何か力があるのだろうか。

沈黙する二人に春日が緊張感の無い声で更に語りかける。
「なんだか困ってるみたいだし、力になれることなら少しでも手伝ってみようよ。帰る為に必要なことだし、それで嬉しい人ができたら一石二鳥だよー!」
いや、無理やり呼ばれて巻き込まれただけなんだ、と突っ込みを入れる気力も無い二人に
「それに、手助けしないと帰れない。それは絶対」
笑顔のまま、確信を持った声で追い討ちをかける。

ふぅ、とため息をついて澪と琴菜が視線を交わらせた。
「……とりあえず協力するしかないか」
「ああ、元の世界に戻れるようになるまでの居住地も必要だし仕方が無い」
あきらめたような顔で決断を下した二人に眼を輝かせながら春日が近づく。
「本当に!?わーい、良かった!」
自分も巻き込まれた身でありながら、人の役に立ちたいと思えるというのはいいことなのかもしれない、と二人の手をとってぶんぶんと振り回す少女に澪は思う。
「それで、提案なんだけど!」
きっ、と急に真面目な表情になって春日が言う。

「このあちらにとって嬉しいニュースをもって今からお話に行ったら、なにかごはんくれるんじゃないかしら……!」
「……」
「……」
前言撤回。所詮人間はエゴでしか動けないのだ。
そういえば案内してもらったはいいが、食べ物はもらってなかったな、と澪はぼんやり天井を見上げた。

「じゃ、行って来るねーvv」
とりとめもなくそんなことを考えていた澪と呆然としている琴菜を残し、春日は部屋から出ていった。
「楽天的というか……」
「食い意地がはってるんだろ」
ほんの半日前に会っただけだというのに、気まずさのない沈黙。
琴菜の瞳に感じた既視感は今も変わらない。
「……なぁ」
「ん?」
「前にどっかで……」
澪の問いかけは扉を開く大きな音にかき消された。
「ルーが言ってたのって、あんたら?」
笑みを浮かべ勢いよく扉を開いた青年が二人に問いかける。
切りっぱなしの銀髪に赤い瞳。血色の良い日にやけた肌。
先ほどのルギネスと同じような服を軽く着崩している。
青年の突然の訪問に二人は言葉を失った。
「若ぁ。ダメですよ、突然女性の部屋に入るなんて」
長身である青年の背後から兎の耳が見え隠れする。
青年の後ろには大きなトレイを持ったエレンが困惑した顔で立っていた。
両手に抱えるように持っている大きなトレイには三人分のスープ皿と小さなバスケットに収められた丸いパンがのっている。
透明なスープと数種類の柔らかくなった見覚えのある野菜が暖かい湯気を立てている。添えられたパンは少し固そうにも見えたがこれも焼きたての香ばしい香りが漂っていた。
素朴な夕食は空腹を感じていた琴菜の表情をほんの少し緩めた。
「えっと、レイさん…とコトナさん…でしたよね、夕食をお持ちしましたが……カスガさんはどちらですか?」
「春日なら……ルギネスんとこに……」
「それより……そいつ、誰?」
琴菜の問いにエレンは苦笑して答える。
「不作法で申し訳ありません。こちらは、カサンドラ様。革命軍『テーヴェレ』では『若』とお呼びしてます。一応幹部なのですが……」
「ルーにやらされてるだけだよ、面倒なのにさ」
不満そうにカサンドラは付け足す。
「るー?」
「あぁ、ルギネスのこと。ちっさいころから知ってるからさ」
「ふぅん……」
「呼びにくかったらそう呼んだら?俺も『カース』で良いよ」
親しみやすいカサンドラの笑顔に琴菜はなぜかたじろぐ。
「でもルーもいきなり女三人も連れ込むとはやるなぁー」
あはははは、と楽しそうに笑うカサンドラ。
幹部だという彼もまだ若い。かなり力をもっていそうなルギネスもまた若い。
『テーヴェレ』は若年層中心の組織なのだろうか?と澪はぼんやり考える。

「召し上がらないのですか?」
エレンの微笑みから少し目をそらして澪は食欲が無いとだけ告げると窓枠に腰掛ける。
陽光の名残に照らされ映える濃紺の髪と藍色の瞳。見覚えのない色彩の中に琴菜はなぜか既視感を覚えた。

「……だから言ったろう?」
廊下からルギネスの呆れたような声が聞こえた。
カサンドラが開け放した扉から春日が踊るように飛び込んでくる。
「ごは~ん♪」
「エレン……何とかしておいてくれ」
ぐったりとした表情のルギネスも顔を覗かせた。
「カスガから話は聞いた。引き受けてくれたこと、感謝する。今夜はゆっくり休んでくれ」
それだけ言い、一瞬だけ澪に目を向けると扉から離れていった。
「……なんなんだ?」
視線だけ向けられた澪はわずかに困惑した表情を浮かべた。

第一章 第五節

翌朝、琴菜が目覚めたとき澪はすでに起き出しているらしく窓際の寝台には誰もいなかった。自分の部屋ではないところで目覚めた時点で昨日の出来事は夢ではなかったことは自覚していた。
三つ並んだ寝台の中央で眠っていた春日を叩き起こし、二人は部屋を出る。
昨日は疲れもあってよく周囲を見ることが出来ずにいたがよく眠った体はいつもの観察力を取り戻していた。
この『砦』と呼ばれている建物は普段は集会場のような使い方をされているらしく、広い部屋がいくつもあり、人が生活しているような雰囲気は薄い。
「何かあったときは周辺の住民が逃げ込めるようになってるんだ」
突然背後から声がして二人は勢いよく振り返った。
「びっくりしたぁ。えーっと、若?」
暢気な春日とは対照的に琴菜はわずかに身構えたままカサンドラを見つめる。
「そんなに警戒すんなよ、コトナ?」
「……」
無言のまま琴菜は体勢を元に戻した。
「朝飯、出来たってさ。呼びに言ったら二人ともいねーし、どうしたのかと思ったよ」
人好きのする笑みにやはり琴菜はどこか警戒するような表情を浮かべた。

「れーちゃんは?起きたらいなかったよ?」
食事と聞いて踊るようにカサンドラの後についていく春日が尋ねる。
「エレンといるよ、先に食堂に行ってる」
幅の広い階段を下り、長い廊下を抜け突き当たりの広いスペースに出る。
最初に通された広い部屋と同じような大きな円卓が置かれ、さらに奥の方から食器のぶつかる音やスープの匂いが漂う。
円卓に先に座っていたルギネスは昨夜以上にぼんやりとした視線を三人に向ける。
「……おはよう……」
少しかすれた声がさらにかすれて聞き取りにくい。
「まぁだ目、覚めてねぇの?」
カサンドラがクスクス笑いながら隣に座る。促されて琴菜と春日もルギネスをはさんだ隣に腰掛けた。当のルギネスは無言のまま湯気をたてるカップに口をつける。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
エレンが奥から大きなトレイを持って出てくる。その後ろから、澪も姿を現した。澪の服装に琴菜は目を瞠った。
ゆったりとした立て襟の白に近い淡い青の上着に、顎のラインまで首筋を覆う白いシャツと白の長ズボン。ベルトのように腰に結ばれた髪と同じ濃紺の布の端が膝まで垂れている。
服の合わせ目は全て柔らかい革のベルトで留められ、極端に素肌を隠すようなデザインになっている。
足元は柔らかそうな皮のショートブーツ。
調理のためか短い髪の一部を後頭部で縛り、額に白地に紺のラインを縁取りした布を巻いている。
「……どうしたんだ?それ」
「洗濯するから着替えろって。お前らも食べたら着替えろよ」
言いながら澪はずいぶんと慣れた手つきでエレンと一緒に手際よく料理や食器を並べていく。六人の朝食はゆったりと始まっていた。

六人の朝食もそろそろ終わりを迎えていた。
「ふぅ、お腹いーっぱい!」
一足早く朝食を終えた春日が満足気に笑みを浮かべた。
「三倍…」
食事を終えた春日の隣りであきれたように琴菜が言葉をもらす。
「どういう胃袋してるんだ?オマエ??」
と、カサンドラも琴菜の言葉に加勢する。
「これでも、腹八分目だよ?」
きょとんとした表情で春日は答える。
「腹…八分目…」
あきれたような、見下しているような声調で琴菜がぼやいた。
「こういうヤツなんだろう…」
続けて、ほとんど食べていなかった澪が言った。

食事を終えると、それぞれ思い思いに部屋に戻っていった。
澪、琴菜、春日の三人が部屋に戻ると、2着の服がそれぞれ寝台に置かれていた。
「……これって…」
琴菜がその服に目をやり、ボソッと言った。
「わあ!可愛い服っ」
呆然とする琴菜を尻目に春日が喜びの言葉を発する。
「昨晩から着てらっしゃる服はこちらで洗いますので、代わりにそちらの服を着て下さい。」
と、後ろの方からついてきていたエレンが言った。
「わあ、これ着ていいの!」
エレンの言葉を聞いて真っ先に反応を示した春日が言った。
「はい。どうぞ。皆さんのために用意したものですから」
「これを着るのか…」
澪を見ながら琴菜が言う。
「こっち見ながら言うな…」
「さあ、どうぞ?お召し下さい」
と、エレンはニコニコしながら、その衣類を2人にすすめた。

かなり嫌そうにしていた琴菜も、エレンの笑顔におされてしぶしぶと了承する。
薄い若草色の長袖カットソーに重ねるように深い緑のリボンで合わせ目を留めるような半袖の上着。腰には足首程まで長さのある白の布を巻き、布の合わせ目から覗くしなやかな脚を覆うゆったりと裾の膨らんだ薄緑のズボンと足首までの布のブーツ。
春日にはエレンのものとよく似た二枚重ねのワンピース。草色の上のワンピースの上から、腰の辺りを黄色い布でまとめてある。
気に入ってにこにことしている春日とは対照的に、着替えてからも複雑な顔をしている琴菜。
「大丈夫、そのうち慣れるぞ…多分。」
「わー琴ちゃん可愛い~♪」
「お二人ともよくお似合いですよ」
澪の慰めとご満悦な二人の声に、琴菜はため息をついた。
「まぁ…それで、今日はきちんとした説明をしてくれるんだよな?」
「はい…今までと、これからの状況に関してルギネス様から説明があります」
軽く部屋を整えながらエレンが頷いた。