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Main Story Ⅱ-6

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第二章 第六節


魔物兵達はエレンの鞭に捕らわれて息も絶え絶えの一体を除き斃されたようだ。
エレンの指示で春日が馬車へと救急セットを取りに走り、一人で行かせるのが不安になったらしい琴菜がそれに続いた。
「三人いたけど……だめだ」
近くを軽く見回ったカサンドラが首を振る。
水の無い水路に赤い液体が僅かに溜まっている。
エレンと澪が痛々しげに目を伏せ、ルギネスが悔しさを滲ませて捕らわれた魔物兵を睨み付けた。
「……お前達もここが石精霊の居場所と知って来たんだろう。何処だ?」
魔物兵が赤く濁った視界でルギネスを弱弱しく見上げた。
ルギネスの視線は何処までも冷ややかに魔物兵に向けられている。
「ハッ……シったところで……おマエらにもムリだ……」
精一杯の虚勢をはって魔物兵が悪態をついた。
「無理かどうかは知ってから決める。何処だ?答えろ」
ひゅ、と細剣が空気を薙ぐ。
魔物は逆流する血に咽ながら微かに震えるのみで、目を見開いたまま静かに事切れた。
ルギネスが苛立たしげに舌打ちをする。
「なんか手がかりになるもんもってねーかなあ」
カサンドラがぼやきつつ魔物兵の近くにしゃがみこんだ。
「若あんまり触っちゃダメですよ!あと後で手洗ってくださいね」
商人の腕に家の資材を拝借して作った添え木をあてながらエレンが注意した。
「はいはいわかってますー……お前は俺の母親か」
うっとおしそうにふくれながら相槌をうったカサンドラがふと視線をとめた。
魔物兵の服から落ちたらしい王家紋のついた皮細工が浮いている。
ひょいと摘みあげ、目の高さまで持ち上げる。
王家紋がうっすらと血で滲んでいる。
ぽたぽたと血が垂れて血だまりが波紋を湛えた。
「わ……」
しばらく皮細工を見つめたままのカサンドラにエレンが声をかけかけて躊躇する。
そんなエレンに気づいたカサンドラが皮細工を自分の胸元近くへと移動させた。
「似合う?」
エレンが沈痛な表情を浮かべた。血に塗れた王家紋。まるで今の国のようだ。
その表情を見られないためにか目を伏せ、商人の腕を固定する作業を再開する。
「やめてください。そんな穢れた紋章は、若には似合いません……」
ぽつりと呟いたエレンの声を聞きながら、もう一度目の高さまで紋章をもってくる。
「穢れた、ねぇ」
しばらくぼーっとしたままそれを見つめた後、興味を失ったらしいカサンドラが掌を広げると皮細工はぽちゃん、とあっけない音を立てて再び血の池におちた。


壊れた城門の瓦礫を蹴飛ばしながら二人の少女が駆ける。
「春日っ待て春日!」
脇目もふらず馬車へと駆け出した春日を慌てて追いかけた琴菜が自分より少し小さい春日の肩をつかんだ。
「わわっ……!ことちゃん?どうしたの?」
きょとんと自分を見上げてくる春日に琴菜がため息をつく。
「お前なぁ……まだ魔物兵がいるかもしれないんだぞ、一人で動くな」
ぺち、とおでこをかるく叩く。
「ごめんなさい?」
よくわかっていないであろう声で春日が首を傾げながら謝った。
「とりあえず、あまり物音をたてない事。周りに注意も払えよ」
「はぁい」
さくさくと土を草を踏み分けて歩く。
草が枯れていないと言う事は雨は適度に降り、土に水分も残っているのだろう。
「ヴェルギリウスだけ枯れてるのか……?」
馬車につき、荷物を探す……というよりはひっくりかえしている春日を後ろで眺めながら琴菜は物思いにふける。
……そろそろ止めるべきだろうかと春日に声をかけた瞬間、背後でがさがさと茂みが鳴った。
「春日馬車の中に隠れてろ!」
そう言い放って刀に手をかける。さっき斬った魔物の血で若干重く感じた。
「え?」
姿勢を低くして戦闘体勢をとる。
春日がこちらをふりかえると同時に茂みから人影が現れた。
「……あ?」
琴菜がその姿を目にした瞬間に眉を顰めた。


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