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Main Story Ⅱ-10

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第二章 第十節


結局、カムフラージュになるかと身を覆っていた深い緑色のマントを湿った地面に敷いて一晩を明かした。
すぐそばに魔物兵がいるということもあって春日以外一睡も出来なかった。
しかし、物陰に隠れているとはいえすぐそばにあるはずの陣からは物音一つしていない。
朝日がようやく一条の光を放った頃、大胆にもテントに近づいていったカサンドラは昨日とは打って変わって足音一つ立てずに戻ってきた。
「本隊にしては数が少なかった。町に出払ってんのかな?」
「……いや、奴らの目当てが石精霊なら、わざわざ多数が町にいる必要は無いだろう。何かあったのか?」
「人数は少なかった、って町の人は言ってたよな」
琴菜が呟くとカサンドラはそうだっけ?と惚けてみせる。
「昨日街にいた魔物兵、随分訓練されていた。なぜかはわからないがいるとしたら精鋭だろう」
「それはそれでめんどうだよなー」
カサンドラは癖なのか腰の剣をいじりながらルギネスに問いかけるような視線を送る。
顎に手をかけて考え込んでいたルギネスはふ、と澪に目を向けた。
「昨日の魔法、頼って良いか?」
「……そのために呼んでおいて、何を今更」
無表情なまま、澪は言い返す。
琴菜には、澪の表情が一瞬、嫌悪か何かで歪んだように見えた。

「本当に少ないな」
琴菜が不審気に首をかしげた。
神殿の前にいる見張りの魔物兵は僅かに六体のみ。
その後ろには力任せに破ったのであろうたくさんの瓦礫と、神殿の中へと続く破られた入り口がぽっかりと黒い穴をあけていた。神殿の中の様子はさすがに伺えない。
「中に数がいるかもしれない。注意だけは怠るな」
ルギネスの言葉に全員が頷いた。

息を潜め、気付かれずに近付けるギリギリの岩の陰からそっと様子を伺う。
「中と連絡をとってる様子は今のところないな……」
ルギネスの言うとおり油断しているのか魔物兵達は雑談に興じているようだ。
「なんか聞き取れる?」
岩の裏側で琴菜と共に剣を抜いたカサンドラがルギネスに問い掛ける。
しばらく聞き耳をたてた後、ルギネスが首を振った。
「さすがに遠すぎる。人間と発音も違うし明確には無理だ」
「そっか。どうせ口の動きでもわかんないだろうしなぁ……情報はしゃーないか。で、レイは狙えそう?」
カサンドラが視線を岩の陰ぎりぎりへとむける。
そこには長弓を携え魔物兵達を無表情に見据える澪の姿があった。
目を細めて的との距離を測ると、事も無げに頷いた。
「ここから撃つとなると体勢に無理がでそうだが距離は問題ない……的が動かなければ」

目を細め、少し首を傾げる。
口の中で小さく言霊を紡ぎながら矢を番える。
キリキリと弓がたわんでいく。
清々しい弓弦の音と共に不可視の力を纏った矢が放たれた。

鳴弦に気付いた兵士達が醜悪な顔をこちらに向ける。
その屈強な胸を覆う胸当ての隙間を縫うように放たれた矢が突き刺さった。
次の瞬間、無敗を誇っていたはずの魔物兵が悲鳴をあげて燃え上がる。
鎧と擦れて勢いの弱まった矢は、その分厚い皮膚を貫けなかった。
それでも浅く突き刺さった矢尻から躍り出る火蛇が身の内を焼く。
思いもよらない攻撃に見張りの兵士達が色めき立つ。
その混乱を見て取ったルギネスとカサンドラが岩影から飛び出していく。
剣を抜き後を追うように走りだす琴菜の視界の端で、奇襲の口火を切ったはずの澪が再び矢を番えるのを見えた。

浮足立っていた魔物兵に二人は確実に致命傷を与えていく。
首筋や目、腹部の鎧で覆われていない箇所を狙う。
薙ぎ払ったルギネスの細剣が頑丈な鎧に阻まれて折れる。
咄嗟に有利を感じ取り哄笑する魔物兵の口に折れて半分ほどになった剣をそのまま突き立てて飛びのく。
「お前っまたやったなっ」
背後でカサンドラが悲鳴をあげたが軽く無視して予備に差していた短めの細剣を抜く。
琴菜が魔物兵が手にした警笛をたたき落とし、間髪いれずカサンドラが腹部に剣撃を加える。
澪の奇襲のおかげで有利に思えた戦況は魔物兵が態勢を整えたためか徐々に悪くなっていく。
カサンドラがなかなか倒れない魔物兵達に焦りと苛立ちを覚え始めた時、風を切る鋭い音が側を掠めていった。
足元に突き立てられた矢。
何事かと目を瞠るうちに、突き刺さった地面からわずかずつ水が溢れていく。
さらに風を切る音が二回。
驚愕に固まっているカサンドラの側に琴菜が駆け寄る。
「早くっ」
春日を引きずるようにして駆け抜ける澪を追って神殿へ走る。
なぜか硬直しているカサンドラの腕を掴んで琴菜もあとを追った。
一番神殿の側にいたルギネスを抜いて澪は階段を駆け登る。
いつの間にか姿を表していたジルコンが魔物兵達の足を地面に縫いとめた。
次の瞬間、派手な音とともに突き立てられた矢の先端から大量の水が吹き上がる。
驚愕の唸りをあげる兵士達を尻目に五人は神殿の入口へと階段を駆け上がった。




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