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二章改訂前6

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だれでも歓迎! 編集

水が再び戻ってきた狂喜がやっと落ち着いてきた住人達が、今度は水ではなく澪達を歓声をもって囲んだ。
「魔物兵たちを追い出してくれただけじゃなくて、水まで呼び戻してくれるなんて……!ありがとう!本当にありがとう!」
泣き笑いの表情で住人達がかわるがわる手を握りにきたり肩を叩きにくる。
上がる一方のテンションに困惑気味なのは澪と琴菜だけのようで、春日は嬉しそうに見知らぬ人間と踊り、ルギネスとカサンドラは不思議なほどあたりまえに感謝を受けたり今までの苦労を労ったりしている。
「なんだか凄いな……」
未だ怪我人のためにくるくる働くエレンと拝まれているジルコンとサファイアを目の端に入れながら琴菜がつぶやき、澪が頷いた。
人々の喜びのエネルギーが心地よく、二人はゆったりとあたりを眺めた。

月明かりの下水飛沫が踊り、水路の流れがさらさらと音を奏でる。
ごちそうもなければ派手な衣装もない。おまけに崩れかけた街の片隅。
それでもそこは一瞬にして水の帰還を祝う祭りの会場と化していた。

ふとカサンドラが少し離れたところで騒ぎが落ち着くのを待っている若い男を見つけ、ルギネスと共に彼と合流しなにやら先程までとは違うトーンで話し出した。
おそらく彼が連絡役なのだろう。他にも町の責任者らしい人間たちが集まってきている。
そちらを視界にいれつつ雑談していた澪達を、しばらく辺りを見渡していたルギネスを
見かねたカサンドラが手招きした。
「一応お前らも聞いておけってさ。あれ、カスガは?」
軽く会釈して輪に入ってきた澪と琴菜に小声でカサンドラが伝える。
「春日は……踊りながらどこかへ」
「……まぁいなくてもいいか」
溜息をつくカサンドラに琴菜が苦笑いを返した。
「ああ、お嬢さん方も。今回は本当に有難うございました」
壮年の男が笑顔で頭を下げる。
「いえ、水が戻ってきて何よりです」
澪の返答を待って、ルギネスが続ける。
「この街の方々は我々に全面的に協力してくれるということだ」
「当然ですよ」
男たちが意気込んで激しく主張する。
「あいつら、俺達から散々何もかも奪いやがって」
「国王軍が魔物で編成されてるなんて可笑しいだろ。ここは人間の国なのに……」
「でも」
男達の勢いに押されつつも、女性がしっかりとした口調で言い放った。
「私達、怯えるばかりでなにもできませんでした。あなた達が来てくれたおかげで奪われたもの、少しでも取り戻せるって気づいたんです。……感謝してます」
そうだな、と皆が頷く。
「こちらこそ、あなた達のような頼もしい味方を得ることができて心強い。ありがとう。よろしく頼む」
「若様からそのようなお言葉を賜る日が来るとは……」
カサンドラが笑いながらすこしかしこまって言うと、年長者の数人が目を潤ませた。澪と琴菜がぎょっとするが、ルギネスはなんでもないように淡々と交渉を進めている。
話し合いも祭りも結局終わったのは、朝日がゆっくりと顔を見せる頃だった。

朝日に照らされ、廃墟と化した街が息を吹き返していくのを呆然と眺める。
ひらひらと踊っていたはずの人々も、不安の闇の中に生まれた希望の光に包まれて佇んだ。

「今はまだ、"時"ではない。
今はまだ、満ちていない」
「今はまだ、耐える時。
来たるべき時まで、力を蓄える時」

「「だが……時が満ちれば、必ず」」

静まり返った光の中、ルギネスが声をあげる。
かすかに、しかし確実に。
後を引き継ぐように、カサンドラが宣言する。

新たな仲間の誕生に、祝福を。
来たる日のために、最初の指令を。

まぶしい曙光の中あがった小さな烽火は、湖畔の街を皮切りにこの国全体を包んでいくことになる。
でもそれはまだ、不確かな未来の話。

----二章end


高い天井に子どもの笑い声が響く。
石の壁に跳ね返されたその声はどこか無機質で奇妙な違和感を与えた。
「どっかのバカが一人死んだよ。でも、なかなか面白いものもみつけてくれた。楽しくなりそうだ、ねぇ?」
装飾された椅子の肘掛に浅く腰掛けるようにもたれた少年は、その椅子に深く座った男に口元だけの笑みを向けた。
「あれに、何か影響が?」
年不相応なその笑みを見返す男の瞳はどんよりと曇っている。
「あっけなかった、と思っていたよ。でも、"あいつ"は興味深いものを遺した。見極める必要がある」
「見極める……」
「今度こそ、うまくいくと良いな」
細められた少年の瞳が鈍く光った。


くすぶっていた叛乱の火が、確かに温度を上げていくのを見て取ったルギネスは、休養をとった後の出発を告げる。
出てきた街を拠点に仲間を増やす計画を口にしていたので再びヴェルトロに戻るのだろうと澪は住民に預けられていた馬に鞍を掛けなおし始めていた。
見様見真似で同じように鞍を掛けていた琴菜の手つきをなんとなしに眺めながら湖の中州での出来事を思い返していた。

口にこそ出さなかったが、自らの内側のどこかで嫌悪していた自身の能力を頼られることに抵抗を覚えている。
燃え上がる炎も、吹き上がった水も、今回はかろうじて助けとなったが、いつ裏切られるかわからない両刃の剣であることを澪は知っていた。
だからこそ……

「……澪?どうした?」
突然声をかけられてハッと我に返ると、怪訝そうな表情の琴菜が顔を覗き込んでいた。
「眉間、しわ寄ってる」
人差し指を突きつけられて自然と険しい表情をしていたことに気づく。
「何悩んでるかは聞かない。でも、話したほうが楽なこともあることは言っとく」
困ったようにかすかな笑みを浮かべてそれだけ言うと、それ以上は何も言わずに不慣れな手つきで仕上げた馬具を指し示した。

見てみてほしい、と言う無言の頼みに澪も無言で答える。
締められたベルトに手をかけ緩み具合を感触で確かめていく。
次のベルトに手を伸ばそうとしたとき、遠くからひづめの音が聞こえた気がして顔を上げた。
進む>?

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