ケラプティス研究所跡の資料

+ オーブレプリカに関するレポート-ドラゴサの心臓について
 「CY-35/1/11:オーブの解析進む。それに伴い擬似ジ・オーブ製造計画に着手する。目下の案件は二つ。ヨリシロと内容物である」
 「CY-35/1/13:器の選定、難航する。研究により真作のジ・オーブはグレートワームをも超える年齢段階を持ち、準神格へとすら至ったドラゴンの肉体を用いていることが判明している。現在の私ではそれほどのものを用意することは極めて難しい。無論、かの多次元宇宙に宿る生命体……アボミネーションを使用するという候補はあるが、実際に確保にかかる歳月から考慮すると非常に長期にわたるものと推測される。今はより短期で確保可能なサンプルを捜索することとする」
 「CY-35/1/14:オーブレプリカの内容物については本実験においてはアボミネーションの元となるものであり神格の力の根源の一端、すなわち多次元宇宙の構成要素を用いることとする。また事前に行う予備実験においては簡易版として真作ジ・オーブの力を分譲させることとする。簡易起動実験に関しては数カ月以内の実行を目途とする」
 「CY-35/2/3:かねてよりの案件であった予備実験における器の選定が固まる。この白羽山の北方に居を構えるレッドドラコリッチ、ドラゴサの心臓である。かつては神格ティアマトの愛人であり、かのおぞましき神格のなりそこない"キュス"の力の一端を受けた最初のドラコリッチの心臓はジ・オーブの巨大なパワーにも耐えうるものと推測される。ドラゴサの本来の肉体はティアマトにより封印されており、現在はブラックワームにその身をやつしてはいるが、それでも十分な規格を有していることであろう。以降よりドラゴサおよびその教団を打倒し、心臓を入手する計画を構築してゆく」
 「CY-35/2/7:調査の結果、ドラゴサは単なるドラコリッチをはるかにしのいでおり、ただ経箱を封印しただけではいささかも衰えないことが仮説として導き出された。器としてはまさに最適であることが再確認されたわけではあるが、心臓を奪取して以降のドラゴサの報復を防ぐためにはなんらかの特別な手段を講じなければならないだろう」
 「CY-35/2/9:ドラゴサを不活性化するためのマジックアイテムを作成開始する。名はクラウン・オヴ・モータリティとする。これはドラゴサの絶大なる再生能力を抑え込み、さらに周囲のクリーチャーに死霊術リンクを張り巡らすことを阻害する機能を持ったものである。唯一の欠点としてはこれを稼働させるためには常に何者かがこれをかぶり、ドラゴサの近くに存在していないければならないということである。その肉体のみならず魂すらもドラゴサとクラウンに縛り付けられるため、いけにえとしては突出して私に忠誠を持つものを選ばなければならないだろう」
 「CY-35/2/17:クラウン・オヴ・モータリティの生贄としてはノームのケルシャーが適任だろう。あの者ならばたとえ百年だろうと千年だろうと、ドラゴサを封印し続けるに違いない」
 「CY-35/3/23:クラウン・オヴ・モータリティ、完成する。試運転も上々である。機が熟し次第、ドラゴサの心臓を奪いに行くとしよう」
 「CY-35/5/9:ドラゴサを襲撃し、その心臓を奪取することに成功する。唯一の誤算はドラゴサの力が想定を超えて強大であり、ある程度までドラゴサに接近したクリーチャーには、クラウン・オヴ・モータリティの力をも超えて死霊術リンクを張れたことである。よってドラゴサの住処全体を封印、ドラゴサが眠る大洞窟にも処理を施しておくこととする。これによりあの地は隔絶され、ドラゴサが復活の生贄を手に入れることは非常に困難となるだろう。またかのドラゴンが復活したとしても洞窟の魔法が作動し、大幅にその力をそぐだろう。同時に私はそのことを察知し、かのドラゴンが失った力を回復するまでの期間に十分な対策を講じることが可能となる。これにて器に関する案件も解決された。残るは真作オーブの起動実験と、実践あるのみである」



+ ジ・オーブ、通称ドラゴンオーブに関する概要記録
 「CY-36/9/11:太古より様々な伝説に語り継がれる、かのフェイルーンよりのドラゴンオーブがわが手に入る運びとなった。すでに潰えた前所有者、そしてかつての所有者たちに関する末路をひも解く限り、不用意なアプローチは非常に危険であると考えられる。事前に入念な構造解析を行ったうえで研究と実験にとりかかることとする」
 「CY-36/11/7:ジ・オーブ-レッドの構造解析は一定の進展を見せている」
 「CY-36/12/8:ジ・オーブ-ブラックをエルアカ・サリンドロスより奪取することに成功する。これにより二種のサンプルがそろったこととなった。同一な構造や異質な構造を比較研究することにより解析により大きな進展がみられることが期待される」
 「CY-36/12/28:解析の進むジ・オーブであるが、それを受けて擬似ジ・オーブ、通称オーブレプリカ作成に関する計画を立案する。通常のアーティファクトをすら超えるパワーを持ったジ・オーブを私が模造することにより、さらなる知識と力を手にする足がかりとすることができるだろう」
 「CY-35/1/11:オーブレプリカ作成計画に着手する。伴って、以降本件に関する資料は別途記載するものとする」
 「CY-35/1/20:オーブの持つ機能についての解析が進む。調べれば調べるほど大きな力を持ったアイテムであることが分かる。これほどまでのものをどうやって現出させ、また構成しているのだろうか……」
 「CY-35/2/4:オーブをまとめ上げている魔法が判明する。なるほど単純な調査ではここまでたどり着かないわけである。二つのオーブを比較し、また本来のものに関する知識がなければ到底分らなかったことであろう」
 「CY-35/3/12:オーブの力の源について理解する。よもやこれほどまでに莫大なものであったとは……。しかしても驚嘆すべきはこれを一つの物体として構成せしめたオーブの作成者である。相克しあう複数の強大な力をまとめ上げてこのオーブの形を成すという難事は、メカヌスの歯車全てを利用して一つの装置を作るにも匹敵する神業であっただろう。この私ですらも畏敬の念を抱くに十分すぎる偉業である」
 「CY-35/3/22:オーブの持つ防衛機構に対する防護策の目途が立つ。その力を使用することができる日も近い」
 「CY-35/4/4:オーブの機能を把握することに成功する。これによりオーブレプリカ作成などの実験もつつがなく進行することだろう」
 「CY-35/5/9:オーブレプリカの器の確保に成功する。これより本格的にレプリカ作成計画が稼働してゆくこととなる」
 「CY-35/5/14:ジ・オーブ-ブラックの限定使用に成功する。オーブからの影響効果は完全に遮断されており、後遺症も一切起こらないことが確認された。安全面の問題はこれでクリアされたことだろう。計画されるもろもろの実験を実行に移す段階までもう少しである」
 「CY-35/5/17:ブラックに続き、レッドにおいても限定起動実験が成功する」
 「CY-35/6/3:レプリカオーブ実験の調整が進行している。予定より若干の遅れはあるが、このままいけば7月には実験に取り掛かれるだろう」
 「CY-35/6/25:オーブレプリカ作成実験の実行段階に取り掛かる。万事つつかがなく進行している」
 「CY-35/7/3:オーブレプリカの実験を明日行うこととする。これまでの準備はすでに完了している。残すは、実行のみである……」
 「CY-35/7/4:何ということだ。よもやこれほどまでに我が想定を超えた事態が起こるとは。あの時起こったことを正確にすべて記録するのはほとんど不可能に近いだろう。正しく発生した暴走、見るもおぞましき時空のねじれ、現出した想像を絶する太古の亀裂、オーブレプリカ、われ砕け元来の力へと集約していくブラックオーブ、もれ出でた火花、そして知ったジ・オーブの全ての真実、飲み込まれていく二つのオーブと九つの断片、わが全能力をもって行った封印。全てが終わった後、私が感じたのはかつてない戦慄と興奮と……いや、とうてい記録しきれるものではなかった。あの全てを我が手にしたい。その全てを飲み干し、この上ない知と力を手にしたい。……しかし同時にかのものは扱うべき分際をはるかに超絶したものであるとも理解している。おそらくあのアーティファクトを作成したものはそれを確実に認識した上で、なお作成を行ったのであろう。そのものの理性の苦悩と感情の沸騰は、今まさに私が感じているものと同じだったのだろう」
 「結局のところ、現実問題としてもはや決着はついている。オーブの作成者はとうの昔に滅び、今私もまたオーブを失った。あの次元断裂の先がどこに続いているのか、確かに調べようと思えば調べられるのかもしれない。しかし我が手元に残った、このおぞましき誤った成功作は、私にその調査をすることを思いとどまらせるのに十分すぎる代物である。それを除いたとしても結局のところ、ジ・オーブは私の研究対象の一つにすぎないことを忘れてはならない。名残惜しいのは事実であるが、いまや私の中で重大な事項となっている多次元宇宙に関する案件がある以上、もはやこれ以上のかかわりを持たぬのが賢明であろう。残る私がするべき後始末は、このオーブレプリカとその内容物に関する処遇と、この研究に関する知識をどうするかということである」
 「CY-35/7/7:熟考の結果二つの問題に関する結論が出た。オーブレプリカは現在進めているダンジョン、いずれ起こるであろう、我が多次元宇宙への旅立ちにおいて封印すべきものを葬る遺跡へと眠らせることとする。また真作ジ・オーブに関する知識のもろもろは私の盟友たちにも秘匿することとする。ただし、いつの日にかジ・オーブが解き放たれた時のために、それに関する知識を必要とする者のためにいくつかの手がかりを残しておく。正しくそれらをたどればやがてこの記録にも行きつくことだろう。もしこれを読んでいるのが私以外の者であれば、その者に一つだけ言うべきことがある。かのアーティファクトを超えた神器の力は絶大だ。ゆえに私はこれ以上かかわりを持つことを拒否した。だがあえてジ・オーブに近づかねばならないならば、心するがいい。封印、破壊、善用、悪用、中立に用いる……。そのいずれにせよ、かのオーブを扱うならば生半な覚悟でそれを行っては、決していけない。なぜならそれは我々が想像しうる範囲を超えた力の可能性を秘めているのだから……」



+ フェイルーン由来のジ・オーブ、通称ドラゴンオーブに関する研究レポート
▼ジ・オーブの機能
○ブラック:
  • 次元障壁破砕(潜在)
  • 未来予見
  • 過去計測
  • 正エネルギー、負エネルギーの定量運用
  • インカーナムエネルギー運用、加工など。
  • プライマル・リアクター・コアの召喚
  • アストラル界を経由しない空間歪曲
  • 今だ知られざる色彩の防護障壁。銀、黒、など。
  • エピック呪文提供。儀式補助
  • 未分化形而上力への接続確立(潜在)
  • 現実改変(潜在)
  • 各種対外物理武装の使用

○レッド:
  • 次元障壁破砕(潜在)
  • 未来予見
  • 過去計測
  • 天体の限定操作
  • 大陸規模の気象操作
  • 定命の者と神々の運命へのアクセス
  • プライマル・リアクター・コアの召喚
  • 戦争操作
  • 土からの生命創造
  • 不老不死の妙薬の抽出
  • エピック呪文提供。儀式補助
  • 未分化形而上力への接続確立(潜在)
  • 現実改変(潜在)
  • 各種対外物理武装の使用

▼各オーブの炉心名
ブラック
 ○第一炉心レ・ギ・ド
 ○第二炉心アデルバ
 ○第三炉心テスラテスラ
 ○第四炉心アクリス
 ○第五炉心ベンヌ
 ○第六炉心アミマッド
 ○第七炉心メテオーラ
 ○第八炉心シェセプ・ストゥム
 ○第九炉心アルパカトラ
レッド
 ○第一炉心、ムシュフシュ
 ○第二炉心、アンズー
 ○第三炉心、パルスー
 ○第四炉心、ルゥザルゥト
 ○第五炉心、ザガ・ン・テルミナ
 ○第六炉心、デウカリオン
 ○第七炉心、セカンディネイル
 ○第八炉心、ムシュマッヘ
 ○第九炉心、レ・エム

▼レッド、ブラックオーブ内部動力と反応探査によるライトの推察
 長期にわたるジ・オーブ-レッドおよびブラックの内部構造解析結果、それらには9つの動力炉と核となる制御用コアユニットが存在していることがわかった。
 各々の動力炉は炉心と呼ばれており、実に莫大なエネルギーを供給している。またそれら9つのエネルギーはたがいに相反する性質を持っているものが混交していることも判明した。真に驚嘆すべきは相克する9つのエネルギーを一つにまとめ上げ、アーティファクトとしての機能へと昇華させているコアユニットのプログラムである。強大な準神格ドラゴンの肉体をもって力の受け皿としているのも凄まじい。現在のグレイホークの、そしてフェイルーンの魔法技術をもはるかに超越した業である。オーブの出自に関する調査を要するものとしよう。
 また対鏡反応と遠心分離による測定の副産研究結果として、今は失われたジ・オーブ-ライトについてある程度の情報を得た。それによりライトはレッド、ブラックとは一風変わった作成をされており、内部構造は劇的に異なっているとの推察が導き出された。興味が深まるのは事実だが、現在入手のめどは立っていないためその件に関しては保留の扱いとする。

▼統合ジ・オーブ仮説
 調査を進めていくにつれ、一つの仮説が浮かび上がってきた。レッド、ブラックオーブの双方ともに意図的としか考えられない機能欠落が見られ、そしてその一部は逆側のオーブによって補完されることが可能であると判明したのだ。また当初は二つのオーブを共鳴かなにかさせることにより機能を向上させるためのシステムかと考えられていた他オーブとの外部接続ポートだが、それを解析するにつれ、単なる一時的な接続以上の強固な性質を持っていることがわかった。それこそレッド、ブラックに内在する9つの炉心とコアブロックを結び付けるエピック魔法と同程度の。
 以上のことから、私はこのような仮説を立てた。ジ・オーブとは、グレイホークに存在するジ・オーブ・オヴ・ドラゴンカインドのような複数作られたものなのではなく、元々一つのアーティファクトを作ることを目的とされていたものなのではないか。そしてその過程で9つの炉心とドラゴンの肉体を結びつけることによって三つの原型となるオーブを作成し、最終的にそれらを統合し、ただ一つのアイテムを作成する予定だったのではないか。そしてその過程で何らかの不測の事態が発生し、3つのオーブは統合されることなく分かたれ、それぞれが一つのアーティファクトとして扱われるようになったのではないか……。
 この仮説は想像を絶するに近いものがある。各々が異常なまでのパワーをもっており、その炉心一つですらも並みのアーティファクトにも匹敵する3つのオーブが、実は未完成態であったというのだ。二つ以上のオーブをそろえ、内部構造を綿密に解析でもしなければこのような突飛な説にはとても到達しえないであろう。この絶大な神器、それを三つも統合させて相乗させたアーティファクトがいかなるものになるのか、非常に興味深いものである。

▼ケラプティス十字稜
 来るべき我が多次元宇宙への旅立ちのために、封印すべき存在を葬る墳墓を建造する。これに伴い現在ジ・オーブに関して実際のアプローチを可能とする物品もまたそこへ葬ることとする。具体的にはオーブレプリカ、レプリカに関する重要な資料、ドラゴサの住処への地図とその封印を解く鍵、などである。墳墓には強力な封印と守護者を配することとする。旅立ちの後にはもはや私がこの宇宙へと帰り来ることはないだろうが、これらの物品が世に解き放たれぬに越したことはない……。

▼オーブの構成要素
 二つのオーブ、そして現物との比較調査によってようやく判明した事実である。どうやらかつて、かの悪名高きネザリル帝国が誇っていたエピック呪文ミサラー、その拡張のようなものであるらしい。拡張とは言うが、その実態はもとの呪文は名残しか見てとれず、ほとんど別物の呪文のような構成となっている。ミサラーは術者ではなく、周囲から魔力を蒐集して一つのアイテムへと封じ込める、要するに術者の経験点要素を消費させることなくマジックアイテムを作ることを可能とする呪文であった。
 だがこの拡張ミサラーは従来の呪文をはるかに超えたキャパシティを扱うことを可能としており、また収集する対象を乱雑ではなく特定することが可能となっている。これによりミサラーのような、いわば玉石混交となった状態ではなく、純粋に強力なパワーそのものをアイテムへと注入することを実現しているようだ。どのような秘術者がこの呪文を開発したのかは調査しきれるものではなかったが、おそらくはネザリルに根ざしていた強大な秘術術者の名門の業によるものであろう。そのものがジ・オーブを作成したのか、それとも別の者によるものなのか……今となっては調べることは極めて難しいだろう……。

▼オーブ、および動力炉の作成手法
 先述の通りジ・オーブそのものを構成しているのは拡張ミサラーと呼ぶべきものであることが判明した。それと同時に得られたジ・オーブの作成法について概要を以下に記す。統合仮説にてジ・オーブが元来は単一のアーティファクトを作成する過程で生まれたものであるとの推察があった。この作成法はそれを裏付けるものである。
 オーブを構成するコアユニットと9つの炉心。それらはどれも同一のプロセスによって生み出されている。それは受け皿となる素体へと大きなパワーを宿らせている、というものである。それを九度にわたって繰り返し9つの炉心を作成する。そしてその9つを核となるドラゴンの肉体へと宿らせている。大まかにいえばこのようなことになっている。実際には炉心を作る過程などでさらにいくつかの複合体を作成しているのかもしれない。定着と結合を行っているのがくだんの拡張ミサラーだ。
 また各炉心にはプライマル・リアクターコアなるものが存在するようだ。それらはいずれも何らかのクリーチャーの形態をとるらしい。プライマル、と称されることやオーブそのものがドラゴンによって構成されていることから判ずるに、それらはミッペルテルトなどと同じように、各炉心の中核基盤として存在しているのだろうと推測される。
 ……しかし反応解析を行った結果、それらプライマル・リアクターコアはミッペルテルト、ゲリアキスクとは異なる反応を示した。興味深い結果である。これらを辿ることにより何らかの新たな事実が浮上するかもしれない。以後さらなる研究を進めることとしよう。

▼ジ・オーブの出自
 かくのごときアーティファクトは何処より出現したのか、それを知るために様々な手法をもって調査を行ったが、その結果は芳しいものではなかった。ここ千年ほどの間、さまざまな所有者の手を渡り歩き破滅を振りまいてきた、までは判明するのだがそれ以上の情報が全く得られなかったのである。このアーティファクトが2000年以上前より存在していたことはすでに分かったことだが、その当時よりの文献などを調査しても、出自につながる情報は一向に得られない。もっとも古い情報としても、ある日未知のアーティファクトとして発見された、といったものとなっている。またヴィジョンなどの占術呪文をもちいて伝承を得ようとの試みもおこなったが、得られるのは益体もない近年の動向のみであり、誕生の由来などは杳としてつかめぬままであった。
 結果として今現在ではその出自を探るのは非常に難しいことであると確認された。これ以上の調査を行うためには、フェイルーンよりの、何らかの強力なコネが必要となるだろう……。

▼フェイルーンより来訪したと目される一団について
 上記の、ジ・オーブに関する情報調査を行っていたところ、不自然な動向が確認された。近年になって、ジ・オーブに関する情報がある程度抹消されているのである。それは文献の消去であったり人物の抹殺であったり、ひどく不穏な類のものであった。この件をさらに追跡してみたところ、その情報消去を行っている一団の存在が発覚した。
 どうやらその連中はフェイルーンにてオーブに関する情報を収集すると同時にそれを消去していっているらしい。おそらくはオーブを求める一派であろう。聞くところによれば極めて少人数で構成されているとのことだが、反面各々がエピック級の力を持っているとのことだ。さらにその背後には何らかの強力な存在が後ろ盾となって控えている疑惑もある。
 すでにブラック、レッドのオーブは我が手中より零れおちた後であるが、連中がそれに頓着するかどうかはいささか疑問である。身の安全のためにも何らかの対策を講じることとしよう。

▼"D"
 ジ・オーブの構造内部にて、唯一確認された署名のようなものである。それは単に"D"あるいは"黄金の"と称号を冠されて記されていた。それ以上の情報については頑として解析が不可能である。これがオーブを作成した者の名なのか、組織の名なのか。単一のイニシャルだけでは測りかねるものである。

▼オーブレプリカ計画に関する最終報告
 ありのまま起こったことをここに記そう。
 CY-35/7/4。私は多くの高弟と弟子とともに、オーブレプリカ作成を専用の研究所にて行っていた。素材はパワーの器として始まりのドラコリッチ、ドラゴサの心臓を加工したオーブ素体、器へと注ぐパワーは真作ジ・オーブによる形而上力、それに加えシード:トランスポートなどを補助として用いる。これは本来のジ・オーブの作成手順を簡略化したものであり、ある種の模擬実験であった。
 すべての準備が完了し、儀式の手順も滞りなく進行していた。そしていよいよその時が来た。ジ・オーブ-ブラック、ジ・オーブ-レッドを共に起動させ、相互増幅が始まった。極彩色のスペクトルが入り乱れ、儀式室の次元がねじ曲がってゆく。ついに太古よりの封印が破られ、世界の原初のエネルギーがオーブレプリカへと注ぎ込まれんとしたその瞬間、われらの想定を超えた事態が起こった。まばゆく虹色のオーロラが突如としておぞましき色彩へと染まり、まがまがしい瘴気が立ち込めた。そしてねじ曲がりゆく空間が限界を超え、世界と世界の境界が破砕し想像を絶する暗き虚空の亀裂が生み出された。
 そしてわたしは見た。吹きすさぶ風の吠えたける岩窟とその中にそびえたつ天を衝かんばかりの巨大な塔。その全てが蜘蛛の糸のような絹糸に覆われ、その中では無数の来訪者、人型生物、その他多くのクリーチャーが凍りついている。そして塔の中心に磔にされていたのは蜘蛛のような体、狼のような牙と爪、そして人型生物の上半身を持つおぞましき異形の生物だった。筆舌に尽くしがたき身の毛もよだつような生物であったが、何よりもおぞましかったのはその状態でもそれは生きていた。それは「こちら」を見た。
 その時に私の脳裏に去来したのはかつて見た書物、原初の時代に関する文献にあった記述の知識だった。太古の時代、まだ世界が形成されたばかりのころ、秩序と混沌の叙述史的な戦いの最後の決着となった、ペッシュの野の戦い。アーカのウィンドデュークによるロッド・オヴ・ロウ……今では砕け散りロッド・オヴ・セブン・パーツと呼ばれるアーティファクトがパンデモニウムの異次元牢獄へと封じ込めた、オビリス・ロード混沌の女王の腹心、かつてのプリンス・オヴ・デーモン、もっとも強大なるタナーリ・デーモン"狼蜘蛛"ミスカ。次元の亀裂の先に見えたおぞましき生物は、まさにその混沌の王そのものであったのだ。
 そしてそれから何か、名状しがたきものが立ちあがり、こちらへと這い出てきた。次の瞬間に次元の亀裂は閉じた。しかしおぞましい靄は依然としてこちらに留まっていた。その靄はブラックオーブへと身を乗り出す。オーブの中へと入り込もうとしていたのだ。しかしオーブもまたあらん限りの力でそれを防ごうとした。凄まじきせめぎあいが起こり、永遠にも思える数瞬の後、双方ともに弾き飛ばされた。われらの見る前でブラックオーブはそれを構成する9つの炉心へとわれ砕けた。そして再び耳をつんざくような絶叫とともに次元の亀裂が生じた。9つの炉心とくだけだブラックオーブ、そしてレッドオーブまでもがそれにのまれて消えていった。こうして二つのオーブは私の前から失われたのだ。
 一方黒い靄ははじかれたのち、オーブレプリカへととりついた。おそらくは防衛機構の完備されたブラックオーブよりもはるかにたやすかったのであろう……。それは中身なき空のオーブレプリカへと侵入することに成功した。そしてそれを最後として一連の異変は終わり、跡には静寂のみが残されたのだった……。

 結論を記そう。ジ・オーブ-レッドとブラックは次元の亀裂を通って何処かへと消えた。あの亀裂が事故であったのか自己防衛機構の一部であったのかはわからないが。またブラックオーブはミスカの侵入の試みによって衝撃を受け、統合される以前の9つの炉心とコアユニットに分離したようだ。
 そしてあの時生じた黒い靄は現在ではオーブレプリカへとおさまっている。解析の結果、幸運にも何らかの要因によって休止状態となっていた。私はさらにその上から厳重な封印を施したため、相当の事態のみがあれを再び呼び覚ましうるだろう。そのようなことが起こらぬことを祈るのみである。
 調査を行ったところどうやら黒い靄のようなものは"狼蜘蛛"ミスカのアスペクトに近いものだったようだ。ただ通常のアスペクトと異なる点も多くあり、これはミスカのパーソナルな特性によるものなのかもしれない。現在の状態はデーモンが行うところの物体への憑依に酷似している。普通デーモンは物質界かエーテル界にいなければ憑依を行えないはずであり、また本体は無防備状態で取り残されるはずだが、このアスペクトは本体ごとオーブレプリカにとりついている。そのためかオーブレプリカそのものを破壊することも、ミスカのみを排除することも不可能であった。これもまたミスカかオーブの特質であろう。このオーブの処遇は、我が遺跡へと封印することとしよう。

▼"狼蜘蛛"ミスカ
 原初の時代に白羽山近くで行われたパンデモニウム深層への封印の割れ目が一時的に砕けたために現出した。

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最終更新:2009年12月03日 22:22
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