請願潰し裁判第1審判決(1)(東京地裁立川支部)


平成22年3月17日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官 1名
平成19年(ワ)第2090号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成22年1月13日
判 決

東京都東村山市(以下略)
原告   矢野穂積
東京都東村山市(以下略)
原告   朝木直子
上記2名提訴代理人弁護士 2名

東京都東村山市(以下略)
被告   ○○○○〔請願人代表、ハンドルネーム「ZEN」〕
東京都東村山市(以下略)
被告   薄井政美
東京都東村山市(以下略)
被告   佐藤真和
上記3名提訴代理人弁護士 2名

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。


事実及び理由

第1 請求
1 被告らは、原告矢野穂積(以下「原告矢野」という。)に対し、連帯して、250万円、及びこれに対する、被告○○(以下「被告○○」という。)につき平成19年9月21日から、被告薄井政美(以下「被告薄井」という。)につき同日20日から、被告佐藤真和(以下「被告佐藤」という。)につき同年10月6日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告朝木直子(以下「原告朝木」という。)に対し、連帯して、250万円、及びこれに対する、被告○○につき同年19年9月21日から、被告薄井につき同日20日から、被告佐藤につき同年10月6日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告薄井は、別紙1-1記載の「請願全文」(以下「請願全文」といい、「本件請願」ともいう。)を掲載した別紙1-2の(1)記載のインターネットブログから「請願全文」及び別紙1-3記載のインターネットブログへのリンク表示を削除せよ。
4 被告○○は、請願全文を掲載した別紙1-2の(2)記載のインターネットブログから「請願全文」及び別紙1-3記載のインターネットブログへのリンク表示を削除せよ。
5 被告薄井及び被告○○は、原告らに対し、被告薄井につき別紙2-2記載の条件により、被告○○につき別紙2-1記載の条件により、それぞれが開設するインターネットブログに謝罪広告を掲載せよ。

第2 事案の概要
 本件は、原告らが、被告らによる東村山市議会議長に対する本件請願の提出並びに被告薄井及び被告○○(以下「被告薄井ら両名」という。)によるインターネット上のウェブページへの本件請願の掲載等により、原告らの名誉が毀損されたとして、(1)被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、原告ら各自に対して損害金250万円及び延滞損害金の支払を、(2)被告薄井ら両名に対し、各自のインターネットブログから「請願全文」及びリンク表示を削除すること並びに各自が開設したウェブページに謝罪文を各自掲載することを求めている事案である。
2 前提事実〔争いのない事実、証拠(甲1,2,4の1・2,5の1・2、17、20、21、乙1ないし3,20,23,27,28,30ないし34、38、40ないし44、47、原告矢野、被告○○、被告薄井及び佐藤)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実〕
 (1)原告ら、被告薄井及び被告佐藤は、いずれも、平成19年4月17日告示、同月22日に投票が実施された東村山市議会議員選挙で当選した東村山市議会議員である。東村山市議会において、原告らは「草の根市民クラブ」会派に属し、被告薄井及び被告佐藤(以下「被告両市議」という)は、無所属である。
  また、被告○○は東村山市民である。
 (2)被告薄井は、平成12年から東村山市に居住し、平成16年9月から平成19年3月30日までは出版社に勤務し、雑誌の記者をしていたものであり、同社に勤務中の同年2月から同年3月までの間、18歳未満閲覧禁止のアダルト動画サイト「マンゾクTV」にアナウンサーとして出演していた。
 (3)ウェブサイト(以下「サイト」ということがある。)及びウェブログ(以下「ブログ」という。)について
  [1] 原告らは、「東村山市民新聞」と題するウェブサイト(以下「原告らのサイト」という。)を開設し、インターネット上に公開しているほか、同名の定期刊行物を作成し配布している。なお、同サイトでは、「東村山市民新聞」の発行人が原告矢野であり、編集長が原告朝木である旨の記載があるほか、「東村山市議会議員矢野穂積 同朝木直子」「矢野議員」「朝木議員」などという記載もある。(乙3,23,30)
  [2] 被告薄井は、「好きになろうよ東村山」と題するブログ(以下「被告薄井のブログ」という。別紙1-2の(1)記載のブログ。)を開設し、インターネット上に公開している。
  [3] 被告佐藤は、「なんとかしようよ!東村山」と題するブログ(以下「被告佐藤のブログ」という。)を開設し、インターネット上に公開している。
  [4] インターネット上には、「職業差別を許しません!」と題するウェブサイト(乙20。以下「本件サイト」という。)、「おはら汁」と題するブログ(以下「本件ブログ?」という)、「俺@26歳のオワタ\(^o^)/blog」題するブログ(以下「本件ブログ?」という。)がそれぞれ公開されている。(以下、これらをあわせて「本件サイト等」という。)。そのほか、インターネット上には、「矢野・朝木市議(東村山市)に対する辞職勧告請願の経緯」と題するブログ(以下「本件ブログ?」という。別紙1-2の(2)記載のブログ。)も開設・公開されている。
  [5] ブログとは、ウェブサイトの一種であるが、一人又は数人のブログ運営者が日記形式で記事を掲載するとともに、当該記事中に他のウェブサイト等へのハイパーリンク(以下「リンク」という。)を設定して関連する情報を紹介したり、ブログ運営者や閲覧者などが各記事ごとに設けられたコメント欄にコメントを投稿して意見交換するといった機能が備えられているものである。そして、ブログ運営者らは、記事を掲載したり、コメントを投稿する際に、ハンドルネームと呼称される仮名を使用することがある。
  [6] 被告○○は、「ZEN」というハンドルネームを使用して、被告薄井のブログ及び被告佐藤のブログにコメントを投稿していた(乙40)
 (4)被告薄井に対する原告らサイトの記事、原告朝木らの行動等
  [1] 平成19年4月22日の選挙結果が判明した翌23日、原告らのサイトにおいて、「答えて薄井さん!こんな人が市議に?!市議選第14位で当選した『薄井政美』という人物」との見出しで被告薄井に関する記事が掲載され、その後、同サイトでは、上記アダルト動画サイト「マンゾクTV」のリンクを張ったり、その動画画像を原告らサイトのページに張ったり、被告薄井のことを「セクハラ市議」と表現したりしていた。
  [2] 原告朝木は、同年5月25日、東村山市長に対し、被告薄井が同年2月1日から3月31日までの間ウェブサイトに出演しいてセクハラ発言を繰り返しており、また被告薄井が公衆に表示している情報は東村山市男女共同参画条例14条にも違反するなどのため、同僚として公務を行なうことが著しく精神的苦痛であると主張して、地方自治法100条1項に基づく調査特別委員会の設置又は辞職勧告決議等を行うことを東村山市議会議長に求めるなどの適切な対応をとるよう求める東村山市男女共同参画苦情等申出書を提出した(乙27)。
  [3] 同年5月29日、原告らの編集・発行に係る「東村山市民新聞」の同日号の1面に、「薄井『超セクハラ市議』の登場は有権者にも責任!実名出せますか?『風俗マニア』がグルメで粉飾、市議に 公然と市条例違反の人権侵害行為を、5月以降にも」との見出し記事が掲載された(乙38)。
  [4] 東村山市議会議長に対して、被告薄井に批判的な****《=市民実名》から、同年6月30日付け「薄井氏に対する辞職勧告を求める請願」(乙31)、同年8月20日付け「薄井氏の職業安定法第63条第2号違反(「有害業務」紹介)の疑いに関する事実の究明を求める請願」等(乙33,34)が、同様に中村克(ハンドルネーム「東村山4丁目」。甲17)から、同年6月19日付け「薄井政美市議への辞職勧告についての請願」(乙32)がそれぞれ提出された。これらの請願の紹介議員は原告朝木であった(乙31ないし34)。なお、同年7月9日、東村山市議会政策総務委員会で被告薄井の辞職勧告請願が審査され、不採択となった(乙2,41)
 (5)平成19年6月20日、被告薄井の知り合いでセックスワーカー活動支援グループ「SWASH」の一員が、原告らによる被告薄井に対する批判活動を職業差別であるととらえ、「職業差別を許しません!」と題する本件サイトを立ち上げ、被告薄井を支援する記載が掲載されるようになった。
  本件サイトには、同年7月21日、原告らに対する「抗議文」と題する文章が掲載された(以下「本件抗議文」という。)。本件抗議文の趣旨は、概ね、原告らが被告薄井に対し、同人が東村山市議に当選する以前に風俗情報誌の記者として行った仕事等を理由に辞職を要求したり、東村山市長に対し被告薄井の辞職勧告措置を求める文章を提出したことが職業差別であるなどとして、上記文章を取り下げることを求めるものである。本件サイトには、「抗議文賛同呼びかけ団体」として「SWASH」と称する団体が、「賛同人」として熊谷清治の氏名を含む多数の者の氏名又はハンドルネーム等が記載されている。(乙2,28)
 (6)被告○○は、平成19年8月21日、東村山市議会議長に対し、「矢野穂積・朝木直子両市議に対する辞職勧告を求める請願」と題する本件請願(甲1)を提出した。本件請願の紹介議員は、被告両市議である。なお、本件請願は、同月28日、東村山市議会議員及び東村山市の課長以上の職員に対し配布された。
 (7)被告薄井は、平成19年8月25日、被告薄井のブログに、「12件の請願の中で、すでに内容がネット上に公開されているモノがある。一番最後の『矢野穂積・朝木直子両市議に対する辞職勧告を求める請願』だ。以下のサイトで紹介されているので、興味ある方は見てください。」との文章に続けて、本件サイト等の題名が記載された記事を掲載し、本件サイト、本件ブログ[1]及び本件ブログ[2]へのリンクを設定した(以下「8月25日付け記事」という。)
 (8)本件ブログ[3]には、平成19年8月29日、本件請願の全文が掲載された(以下「8月29日付け記事」という。)。
 (9)被告薄井は、平成19年9月19日、被告薄井のブログに、本件請願の全文を掲載した(以下「9月19日付け記事」といい、上記(7)及び(8)の各記事と併せて「本件記事等」という。)。
 (10)本件請願の不採択
  [1] 被告○○は、請願代表人との肩書で、平成19年9月18日、東村山市議会議会運営委員会の委員に対し、積極的な討議を求める旨の意見書を提出した(乙1)。
  [2] 本件請願は、東村山市議会平成19年9月定例会において、「19請願第23号」として議会運営委員会に付託され、同委員会において、同月20日に議題とされた。
  同日開催の同委員会では、原告らから説明を聞くため、原告らに対し出席要請をした上で、本件請願全文を朗読して議事に入ったが、原告らは同委員会に出席せず、原告らから提出された通知書(乙44)が読み上げられた。上記通知書の内容は、本件請願は原告らの名誉を毀損するものであるのですでに提訴を提起しており口頭弁論期日も決定されていて係争中であること、何人にあっても、本件請願全文を市議会議会運営委員会にて読み上げ、または同請願全文を会議録等に記載して不特定多数の閲覧に供するなどすることは、原告らに対する名誉毀損行為をさらに重ねることになるので容認できないことの各理由から、出席しないというものだった。
  その後、被告両市議から、紹介議員になった経緯及び本件請願に対する意見などが述べられたが、原告らが出席していないため、これ以上の質疑ができないとして継続審議となった。(甲1、乙41)。
  [3] 本件請願は、平成20年2月4日、上記議会運営委員会において、委員による討議を経て不採択とされたが、討議においては、請願対象者の原告らが弁明の場を与えられたのにこれを拒否したこと、原告らが請願者や紹介議員を提出したことに対して批判的な討論が相次いでされた(乙41、43)
 (11)なお、東村山市では、平成20年分から、市のホームページ上で、請願の全文を公開するようになった(被告薄井)。
3 争点
 (1) 被告らによる本件請願の提出等が原告の名誉を毀損するものか
 (2) 被告らに違法性及び責任の各阻却事由が認められるか
 (3) 損害及び謝罪広告の必要性
4 争点に対する当事者の主張
 (1) 争点(1)(被告らによる本件請願の提出等が原告らの名誉を毀損するものか)について
【原告らの主張】
  [1] 本件請願の内容は、原告らの社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものである。
  [2] 被告らは、本件請願が公表されることを知りながら、東村山市議会議長に対し、本件請願を提出した。その後、本件請願は、平成19年8月28日、東村山市議会議員及び東村山市の課長以上の職員に対し配布された。
  [3] 被告らは、平成19年8月25日までに、本件請願の内容を本件サイト等の運営者に告知し、その結果、本件請願の全文が本件サイト等に掲載された。
  [4] 被告薄井は、被告薄井のブログに、8月25日付け記事を掲載して不特定多数人が本件サイト等にアクセスすることを容易にし、また、9月19日付け記事を掲載して本件請願の全文をインターネット上に公開した。
  [5] 被告○○は本件ブログ?に8月29日付け記事を掲載して本件請願の全文をインターネット上に公開した。
  [6] 以上のとおり、被告らは本件請願を提出したことにつき、被告薄井ら両名は、本件請願の全文をインターネットに掲載したことにつき、また、被告薄井は本件請願の全文が掲載された本件サイト等へのリンクを被告薄井のブログに設定したことにつき、それぞれ不法行為責任を負う。
【被告らの主張】
  [1] 原告らの主張[1]は争う。
  [2] 同[2]は争う。本件請願の提出者は被告○○であり、被告両市議は本件請願の紹介議員にすぎない。
  [3] 同[3]は否認する。
  [4] 同[4]は認める。
  [5] 同[5]は否認する。被告○○は本件ブログ[3]の開設者ではなく、本件ブログ[3]に8月29日付け記事を掲載していない。
  [6] 同[6]は争う。
 (2)争点(2)(被告らに違法性及び責任の各阻却事由が認められるか)について
【被告らの主張】
  [1] 本件請願の各表現は一定の事実を前提にした意見ないし評論の表明に属する。そして、国民は、公務員の罷免を求めて平穏に請願する権利を有し、それによりいかなる差別待遇も受けないことを保証されている(憲法16条、地方自治法124条)。請願県が国民主権・民主主義の原則に関わる基本的な権利であることからすれば、これを意見評論の表明と同様に手厚く保証する必要があり、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合、請願の趣旨が前提としている事実の重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし評論としての域を逸脱したものでない限り違法性が阻却されると解すべきである。
  [2] 公共性及び公益性
    本件請願の各表現は、原告らの市議としての適格性を問題とするものであるから、公共性及び公益性があることは明らかである。
  [3] 真実性又は相当性
    本件請願に記載された請願理由(1)ないし(5)(以下それぞれを「請願理由(1)」ないし「請願理由(5)」という。)の論評部分が前提としている事実の重要部分は、後記[4]ないし[8]のとおり、真実であるから違法性がない。
    仮にそうでないとしても、原告らのサイトの記載内容からすれば、被告らが上記重要部分を真実と信じたことには相当な理由があるから、責任がない。
  [4] 請願理由(1)について
    原告らは原告らのサイトにおいて、「性風俗(有害業務)=売春及び売春類似行為肯定の薄井支持者(東村山市内)」と大書した上、熊谷清治の実名のほか、匿名又は実名か否かが確認できない者として7名のハンドルネーム等を掲載し、「薄井さん及びあなた方を違法な売春の支持者又は反社会的『特殊性風俗(売春類似業)』の支持者として市民新聞本紙で徹底追及していきます」「売春も特殊性風俗(有害業務=売春類似行為)を肯定したわけではないという方は、直ちに賛同署名の撤回を」などと掲載した。
    したがって、請願理由(1)が前提としている事実の重要部分である、「賛同者の一覧から東村山市内在住と思われる者の名前だけを抜き出し、抗議文の趣旨をねじまげて「性風俗=売春」肯定論者などと決めつけ」「さらし者のような形で掲載するとともに」「賛同署名を撤回するよう要求し」たことは、事実である。
  [5] 請願理由(2)について
    原告らは、原告らのサイトにおいて、「性風俗も売春も同じもの」「『売春』は日本では法律が禁止してますから、『禁止』の対象をいくら『職業』と叫んでも、違法であることはかわりがなく、存在自体が許されていません」「批判、差別されるのがいやなら、その『性風俗=売春』業をやめればいいだけの話です」などと掲載した。
    したがって、請願理由(2)が前提としている事実の重要部分である、原告らが「『性風俗はすべて違法』と決めつけ、『違法な職業は存在を許されておらず、差別されても当然』『差別されるのがいやならやめればいいだけ』などと」繰り返し発言し、「性風俗で働くのは『職業』であると主張すること、あるいはこれを『職業』として認めるよう要求することが自体が『違法な主張』と主張している」ことは、事実である。
  [6] 請願理由(3)について
    原告らは、原告らのサイトにおいて、上記?のとおり、「あなた方を違法な売春の支持者・・・として市民新聞本紙で徹底追及していきます」と掲載し、また、「おはら汁こと荒井に下記脅迫記事・脅迫投稿を1週間以内に削除し謝罪するように求める」などと掲載した。
    したがって、請願理由(3)が前提としている事実の重要部分である、原告らが「ネット上で」原告らを「批判した一般市民に対し、脅迫にはとうてい当たらない記事・コメントを『脅迫記事・投稿』と決めつけ、『警告』等の表現を用いて削除・謝罪を請求し」たことは、真実である。
  [7] 請願理由(4)について
    原告らは、原告らのサイトにおいて、「薄井・佐藤支持『ネット政治集団』リスト」との表題のもと、他のウェブサイトやブログにおける投稿のハンドルネームを取り上げ、「脅迫投稿「名誉毀損」「人権感覚麻痺者」などと掲載したり、「薄井さんの仲間の売春肯定論者」との表題のもと、これらハンドルネーム使用者を「セクハラ支持ネットオタク」と呼称したり、ブログ上での模擬対話は「怪文書配布類似行為」であるなどと主張したり、「殺害予告投稿をした者を、徹底的に追及します」などと掲載した。
    したがって、請願理由(4)が前提としている事実の重要部分である、原告らが「一般市民によるネット上での発言を・・・明確な根拠も示さないまま、『脅迫投稿』『名誉毀損』『人権感覚麻痺者』」などと「罵倒し」、それ以外にも原告らを「批判した一般市民を『売春肯定論者』『セクハラ支持ネットオタク』などと罵倒」したことは、真実である。
  [8] 請願理由(5)について
    原告らは、原告らのサイトにおいて、「薄井・佐藤支持『ネット政治集団』リスト」との表題のもと、「zen」と称する者が逮捕された痴漢の被害者の写真をインターネット上に公開したと記載していたが、その後、上記「ZEN」と称する者の指摘を受け、「zen」を「てつ」に変更したものの、謝罪は行わなかった。また、原告らは、原告らのサイトにおいて、被告佐藤のブログに投稿したに過ぎない妊婦である「eri」と称する者に対し、「まるで被害者のような口ぶり、責任という概念がない子供と同じ発想の人」などと記載した。
    したがって、請願理由(5)が前提としている事実の重要部分である、原告らが「ハンドルネームと取り違えて『逮捕された痴漢の被害者の写真をネット公開』とする誤報を犯しておきながら、訂正請求を受けても誠意ある対応を見せ」ず、「被害者のなかには妊婦も存在し」「そのことが判明してもなお矢野・朝木両市議は攻撃の手をゆるめず、それどころか『まるで被害者のような口ぶり』などと攻撃をエスカレートさせ」たことは、真実である。
【原告らの主張】
    被告らの主張は争う。本件請願の各表現は、特定の人に関する事実を適示するものであり、適示された事実について、真実性及び相当性はない。また、特定事実を前提としての論評であるとしても、その前提となる重要な事実に真実性及び相当性はない。このことは、次の事情から明らかであり、本件請願の各表現の違法性及び責任は阻却されないから、本件請願及び本件記事等はいずれも違法かつ有責である。
   [1] 原告らは、市議会議員の議員活動として原告らのサイトを開設・運営していないから、原告らが市議という立場を悪用したことはない。そもそもハンドルネームとは、一人又は複数の人がインターネットにおいて匿名で情報を発信する際に使用するものであり、ハンドルネームによってその使用者を特定することはできないのであるから、仮に原告らがハンドルネームの社会的評価を低下させたとしても、ハンドルネーム使用者の社会的評価が低下することはなく、したがって、原告らがハンドルネームを使用している一般市民の名誉を棄損した事実はない。
   [2] 本件抗議文に賛同署名者として記載されていた者については、氏名や住所が記載されていないから、実在の特定人か否かすら明らかでなく、これらの者に名誉権等人格権はない。したがって、原告らが、これらの賛同署名者の名誉を毀損することはあり得ない。また、原告らは、上記賛同署名者に対し、売春を肯定する立場か否かを質したに過ぎず、原告らが名誉棄損、脅迫又は恫喝をした事実はない。
   [3] 特殊性風俗が「公衆道徳上有害な業務」(職業安定法63条1号)であり、これら特殊性風俗に関わる職業に就くことが職業選択の自由(憲法22条)により保証されないものであることは判例上確立している(最判昭和29年3月11日刑集8巻3号240頁、神戸地裁平成14年7月16日など。)。したがって、原告が、特殊性風俗従事者への差別的発言を繰り返して職業差別をしたり、言論の自由さえ否定する非民主主義的行為を行ったりした事実はない。
   [4] 本件ブログ[2]の管理者は、原告矢野に対し、同ブログにおいて、原告矢野が現実社会で転落事故に遭うなどとする記事を掲載した。そこで、原告らは、同管理者に対し、上記記載が脅迫に当たると指摘した上で、1週間の期限を設定して、同管理者の実名・住所の開示及び上記記載の削除・謝罪を要求したに過ぎず、自分に対する批判的言論を脅迫・恫喝と見なして手段を選ばず潰して回った事実はない。
   [5] 原告らは、原告らのサイトにおいて、ハンドルネーム使用者らが行ったそれぞれの表現行為を掲載した上、その問題点を指摘しているのであるから、原告らが明確な証拠も示さず脅迫投稿などと罵倒した事実はない。
   [6] また、原告らは、平成19年7月21日、「ZEN」と称する者から原告らのサイトの誤りについて指摘を受けたことから、同日中に、「zen」を「てつ」と訂正しており、また、ハンドルネームによってその使用者を特定できないことは上記のとおりであり、原告らの言論によってハンドルネーム使用者に何らかの被害等が生じることはあり得ないのであるから、原告がハンドルネーム使用者の人格に対する不当な攻撃をした事実はない。
 (3) 争点(3)(損害及び謝罪広告の必要性)について
【原告らの主張】
   [1] 原告らは、本件請願の公表により、その社会的評価を低下させられ、精神的苦痛を被った。慰謝料としては、それぞれ250万円が相当である。
   [2] 原告らは、本件請願の公表により、現在に至るまで、社会的評価を著しく低下させられ、重大な精神的苦痛を受け続けているので、本件請願の全文が掲載された本件ブログ[3]の8月25日付け記事の本件サイト等に対するリンクを削除する必要がある。
   [3] また、被告らは名誉棄損行為を正当化し、悪質であるので、原告らの失われた名誉を回復するためには、被告薄井のブログに別紙2-2記載の、被告○○が開設した本件ブログ[3]に別紙2-1記載の各謝罪文を掲載する必要がある。
【被告らの主張】
   争う。なお、被告○○は、本件ブログ[3]の開設者ではない。

→ 請願潰し裁判第1審判決(2)(第3 当裁判所の判断)



2010年3月24日:ページ作成。
最終更新:2010年03月24日 12:19