請願潰し裁判第1審判決(2)(東京地裁立川支部)


第3  当裁判所の判断
  事実関係について検討するに、前提事実、前提証拠、証拠(甲1、7、8、11、12、13の1~4、14、15、16の1、18、乙4、6、8ないし14、17、22、36、37)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
 (1)平成19年4月22日の選挙の翌23日以降、原告らのサイトにおいて、被告薄井に批判的記事が掲載され、同サイトに、アダルト動画サイト「マンゾクTV」のリンクを張ったり、動画画像を張ったり、被告薄井のことを「セクハラ市議」と表現したりするようになった。
 (2)原告朝木は、平成19年5月25日、東村山市長に対し、被告薄井がウェブサイトに出演してセクハラ発言を繰り返してるなどと主張して、地方自治法100条1項に基づく調査特別委員会の設置又は辞職勧告決議等を行うことを東村山市議会議長に求めるなどの適切な対応をとるよう求める旨の東村山市男女共同参画苦情等申出書を提出し、また、東村山市議会議長に対して各提出された****《=市民実名》からの同年6月30日付け「薄井氏に対する辞職勧告を求める請願」、中村克からの同月19日付け「薄井政美市議への辞職勧告についての請願」の紹介議員になった。(前提事実(4)[2]、[4])。
 これに対して、東村山市長は、同年12月27日、被告薄井の行為が東村山市男女共同参画条例13条2項、14条に違反していないとして、上記原告朝木の請求に応じなかった(乙27)。
 (3)原告らのサイトにおいて、原告らは、被告薄井が「人妻はカラダをほめろ」「オマタのバリアフリー」などと発言したことがあり、女性や障害者を蔑視するセクシャル・ハラスメントを公然と肯定する人物であって、そのような発言をインターネット上に現在も公表し続けてるから、市議としての適格性はないなどと主張し、「一刻もはやく、辞職されることをお勧めいたします。」と被告薄井の辞職を求める記事を掲載している(乙22)。
 (4)被告佐藤のブログに掲載されたコメント等について
  [1] 被告佐藤は、平成19年6月27日、被告佐藤のブログに、「2007年6月27日に思う。」と題して、記事を掲載した(乙37)
  [2] 上記記事等に対する「eri」などのハンドルネームを用いた者らの投稿したコメントは、概ね別紙3記載のとおりである(甲8,11,12,14,15,18、乙37)。
 (5)原告矢野と被告○○との間では、次のとおり、メールのやりとりがあったが、このハンドルネームの誤記に関して、原告らからの謝罪はなかった(被告○○)。
  [1] 原告らのサイトには、「zen」と称する者が「逮捕された痴漢の被害者の写真をネット公開」した旨の記事が掲載されていた(乙11,36)。
  [2] 被告○○は、ハンドルネーム「ZEN」と名乗って、原告矢野に対し、平成19年7月18日には、上記?記載の記事が誤りであるとしてその削除を求める内容のメールを送信し、同月21日には、上記記事の削除と謝罪を求めるとともに、原告矢野が上記誤りを削除しない理由を質問した(甲13の1)。
  [3] 原告矢野は、同月21日、「ZEN」と名乗っていた被告○○に対し、誤りの具体的内容、実名及び住所等を回答するよう求めるとともに、回答がない場合は匿名の嫌がらせと判断する旨のメールを返信した(甲13の2)。
  [4] 被告○○は、同日、原告矢野に対し、誤りの具体的内容を回答するとともに、実名及び住所を明らかにすることを拒否する内容のメールを送信した(甲13の3)。
  [5] 原告矢野は、同日、被告○○に対し、「すでに予め通知したとおりです」と返信した(甲13の4)。その後、原告矢野は、上記[1]のうち、「zen」とあるのを「てつ」に変更した。
 (6)平成19年7月21日、原告らが被告薄井に対し、同人が東村山市議に当選する以前に風俗情報誌の記者として行った仕事等を理由に辞職を要求したり、東村山市長に対し被告薄井の辞職勧告措置を求める文章を提出したことが職業差別であるなどとして、上記文章を取り下げることを求める本件抗議文が本件サイトに掲載された(前提事実(5))。
 (7)本件ブログ[1]について
  [1] 原告らは、平成19年6月26日、「荒井禎雄」と名乗る本件ブログ[1]の運営者に対し、同ブログに掲載された同日付けの記事につき、1週間以内に、住所及び実名を明らかにした上で、見解を明らかにするよう求めた(甲7、16の1)
  [2] 本件ブログ[1]には、同年7月24日、「朝木直子議員、自らが出した申出書のヒアリングに応じず謎の牛歩戦術=逃げる気満々」と題し、「矢野っちが今の姿勢を改めず、今後も議員や一般人に対して恫喝や誹謗中傷を続けるのであれば、ネットで叩かれるだけでは済まなくなるよ。次のステージは現実社会ってことになるよ?」などという記事が掲載された。
  なお、同記事に対しては、「キン」と名乗る者が、「諭してる(笑)次は謎の転落事故かな」というコメントを投稿した(乙8)。
  [3] 東京地方裁判所は、平成20年9月5日、原告らが株式会社サイバーエージェントを相手方とし、同社の提供するブログサービスを利用して開設された本件ブログ?に掲載された記事が原告らの名誉を毀損するものであるとして、同ブログ開設者の住所、氏名等の開示などを求めて提訴した訴訟(同庁平成19年(ワ)第23067号発信者情報開示等請求事件)において、同社に対し、同ブログに掲載された記事が極端な揶揄や誹謗に及んでおり、意見ないし論評の域を逸脱したものであるなどとして、同ブログ開設者の氏名等を開示することなどを命じる判決をした。なお、上記訴訟において、原告らが名誉毀損であると主張していた記事は、上記[2]とは別の記事である。(甲7)
 (8)原告らのサイトについて
   原告らのサイトには、別紙4記載のとおりの記事等が記載されており(乙4,6,8ないし10,12ないし14,17,23)、次の[1]ないし[5]の記載部分がある。
  [1] 同サイト中の「性風俗(有害業務)=売春及び売春類似行為肯定の薄井指示署名者(東村山市内)」と題する部分では、「『前職』を含めて薄井さんを支持するのは、『特殊性風俗(有害業務=実質売春及び売春類似行為)を肯定する方々です。』、「今後、市内では、薄井さん及びあなた方を違法な売春の支持者また反社会的『特殊性風俗(売春類似業)』の支持者として市民新聞本紙で、徹底追及していきます。乞うご期待!(※売春も特殊性風俗(有害業務=売春類似行為)を肯定したわけではないという方は、直ちに賛同署名撤回を。)」などと記載されるとともに、匿名の者及び実名か否か確認できない者の名前と実名と確認できる者の名前が記載されている。
  [2]「薄井応援団の主張の核心」と題する部分では、「『薄井支持者』らは、どうしても『性風俗=有害業務(実質売春及び売春類似行為)』は否定できないのです。」などと記載されている。
  [3]「薄井・佐藤支持『ネット政治集団』リスト」と題する部分では、「たまこ」というハンドルネームの投稿者について「無責任の典型、あきれます。『ネット政治集団』の中心人物の1人。」などと、「てつ」というハンドルネームの投稿者については、「逮捕された痴漢の被害者女性の写真をネット公開する人権感覚麻痺者」と、「4丁目ウォッチャー」というハンドルネームの投稿者について、「『東村山4丁目』を排除せよ、と叫ぶ批判拒否体質者、多重HNの典型です。」と、「eri」というハンドルネームの投稿者について、「謝罪請求されると、まるで被害者のような口ぶり、責任という概念がない子どもと同じ発想の人物」などと、それぞれ記載されている。
  [4]「薄井さんの仲間の売春肯定論者ら」と題する部分では、「てつURL」や「zen」等のハンドルネームの投稿者について、「セクハラ支持ネットオタク」等と記載されている。
  [5]「薄井問題の中間総括集」と題する部分では、「『職業差別』論に対する矢野議員、朝木議員の公式見解」という表題の下に、「薄井『市議』は公職候補になって以降一貫して売春である『ソープ』そして売春類似行為=特殊性風俗に言及し、宣伝してきました。薄井『市議』を擁護するあなた方の言う『職業』というのはソープ(売春)はもちろん公共の福祉に反する『特殊性風俗(有害業務)』をさしています。」などと記載されている。このように、原告らのサイトにおいて、原告らは、被告薄井及びその支持者と原告らが判断する者を誹謗し、揶揄する表現を多数用いている。
 (9)被告○○(ハンドルネーム「ZEN」)は、原告らが原告らのサイトで主張するような、セクハラを支持するものでも、ネットオタクでも、売春肯定論者でもないが、被告薄井の活動に共感し、同人を支持していたところ、原告らのサイト等において、被告薄井に対する批判がされ、また、被告両市議の各ブログ等に書き込まれた記事を原告らのサイトに転記して「ネット政治集団」、「セクハラ支持ネットオタク」「売春肯定論者」等の一方的決めつけ記事が掲載され、さらには、被告○○(「ZEN」)自身も批判されるに及んで、驚くと共に、閲覧者が反論を記載したりする場所が設けられていないため、これに反論したり、訂正を求めたりすることもできない原告らのサイトを運営している原告らに対して怒りすら感じ、同様な意見をもつものらと相談してその対応を検討した。
   被告○○は、平成19年7月ごろ、原告らのサイト上の記載の削除ないし訂正ができないか、市議の被告佐藤に相談したが、被告佐藤からその実現は非常に難しいとの見込みを聞き、その後、被告○○の行動を支持する者らとも相談し、公人である原告らによる上記のような市民に対する一方的な批判を防止する1つの手段として、原告らの議員辞職の勧告を求める本件請願をすることにより、市議会内において十分に議論してもらう必要があると考え、本件請願を提出することとした。
   被告佐藤は、上記のとおり、被告○○らからの相談を受け、本件請願の目的や意向等を十分に確認し、その内容も妥当と考え、インターネット上での公人である原告らの言動で苦しんでいる市民の意思(請願)を市議会に伝える必要があると判断し、本件請願の紹介議員となったものであり、被告薄井も本件請願のない様に共感し、その紹介議員になったものである。(乙1、40ないし42、被告○○、被告薄井、被告佐藤)
 2 本件争点(1)(被告らによる本件請願の提出等が原告らの名誉を毀損するものか)について
 (1)本件請願は、「矢野穂積・朝木直子両市議に対する辞職勧告を求める請願」と題するもので、請願の趣旨及び請願理由の項で構成されているものである。
   本件請願の全文は、別紙1-1記載のとおりであるが、その各表現の内容は次のとおりである。
  [1] 原告らにおいて、被告薄井への辞職勧告請求等に対する抗議文に賛同する者を「性風俗=売春」肯定論者などとして、実名の者も含めて原告らのサイトに掲載し、そのように思われたくなければ賛同署名を撤回するよう要求しているとの事実を指摘した上で、原告らの行為が、「明らかな名誉毀損であるとともに、市議という立場を悪用した、市民に対する恫喝と受け取れる。」と記載されている。
  [2] 原告らにおいて、「性風俗はすべて違法」「違法な職業は存在を許されておらず、差別されても当然」「差別されるのがいやならやめればいいだけ」などとの発言を上記サイトにおいて繰り返し、性風俗で働くのは職業であると主張すること自体違法である旨主張している事実を指摘した上、これは「明らかな「職業差別」であるとともに、「言論の自由」さえ否定しようとする非民主主義的行為である。」と記載されている。
  [3] 原告らにおいて、ネット上で原告らを批判した者に対し、1週間以内に住所と実名を教えるよう要求したり、批判的な記事等を脅迫記事等として、「警告」等の表現を用いて削除・謝罪を要求している事実を指摘した上、原告らによるこのような要求自体が脅迫に相当する可能性があり、言論の自由を否定する非民主主義的行為であると記載されている。
  [4] 原告らにおいて、上記サイト上に掲載している「薄井・佐藤支持『ネット政治集団』リスト」等には、一般市民によるネット上での発言を抜き出してハンドルネームと共に列挙し、「脅迫投稿」「名誉毀損」「人権感覚麻痺者」「呆れた発想の持ち主」などと批判し、同リストには前文として「殺害予告をした者を徹底的に追求します」などと記載されている事実を指摘した上、「これらも、自分に対して批判的な人間に対し、裏付けも根拠もなく犯罪者呼ばわりして威嚇するという、『言論・表現の自由』を否定する弾圧行為と呼べる。」と記載されている。
  [5] 原告らにおいて、上記サイト上において、逮捕された痴漢の被害者の写真をネット上で公開した者としてある市民のハンドルネームを誤って記載したが、訂正請求を受けても誠意ある対応を見せず、訂正後も誤報に対する謝罪の意を表明していないとの事実を指摘している。
  [6] 上記[1]ないし[5]に続き、以上のような原告らの表現行為は、一定期間特定のハンドルネームを用いている者の有する人格に対する不当な攻撃であると記載され、さらに、そのような攻撃を受けた者の中には恐怖を感じ、呼吸困難等の身体的症状さえ出た者もいるなどとして、このような攻撃が続けば、愛着のあるハンドルネームを放棄しなければならない事態も生じうると記載されている。そして、最後に、「このような行為は市民による自由な発言を委縮させ、市政に関する開かれた議論を妨げるものである。」として、原告らが市議としての適格性を欠いていることは明らかであるなどと記載されている。
 (2)上記のとおり、本件請願の各表現は、原告らのサイトにおいて、原告らが一定の発言を繰り返していることを前提に、その発言が、一般市民に対する脅迫的、名誉毀損的なもので、市政に関する開かれた議論を妨げているものであるから、原告らは市議としての適格性を欠く人物である旨の意見を表明したものと認められ、原告らの社会的評価を低下させ、原告らの名誉を毀損するものと認めることができる。
 (3)被告らの行為について
    前提事実、上記認定事実によれば、[1]被告○○が本件請願を提出し、被告両市議が本件請願の紹介議員になり、その結果、本件請願が市議会議員等に配布されるとともに、市議会議会運営委員会に付託され、朗読されるなどしたこと、[2]被告薄井が被告薄井のブログに8月25日付け記事を掲載して不特定多数人が本件サイト等にアクセスすることを容易にし、また、9月19日付け記事を掲載して本件請願全文をインターネット上に公開したことが認められる。
    ところで、原告らは、被告らが本件請願の内容を本件サイト等の運営者に告知し、その結果本件請願の全文が本件サイト等に掲載された、また、被告○○が本件ブログ[3]に8月29日付け記事を掲載して本件請願の全文をインターネット上に公開した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 3 争点(2)(被告らに違法性及び責任の各阻却事由が認められるかについて)
 (1)ところで、事実を適示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることに遭った場合に、適示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意または過失は否定される。一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉棄損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定されると解すべきである(最判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁、最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁、最判平成16年7月15日民集58巻5号1615頁参照)。
  上記のとおり、問題とされている表現が、事実を適示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範疇に属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を適示するものと解するのが相当である。そして、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである。このように、事実を適示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とで不法行為責任の成否に関する要件を異にし、意見ないし論評については、その内容の正当性や合理性を特に問うことなく、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは、意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し、これを手厚く保証する趣旨によるものである(上記最判平成16年7月15日参照)。
 (2)事実を適示するものか、意見ないし論評の表明かについて
  前記認定事実によれば、本件請願の各表現は、原告らのサイト等における原告らの一定の表現の存在等を前提として、それらが、原告らに批判的な一般市民に対する名誉毀損、恫喝、脅迫、威嚇、あるいは、性風俗で働く者に対する職業差別に該当し、言論の自由を否定する非民主主義的なもので、一定期間特定のハンドルネームを用いている者の有する人格に対する不当な攻撃であって、市民による自由な発言を委縮させ、市政に関する開かれた議論を妨げるとして、このような発言を繰り返す原告らは市議としての適格性を欠いているとの見解を表明するものである。そして、このような原告らの表現に関する批評やそれに基づく原告らの市議としての適格性に関する見解(以下「原告らの表現に関する批評等」という。)の正当性それ自体は、証拠等による証明になじまないものであり、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということはできないから、原告らの表現に関する批評等は、意見ないし論評の表明に当たると認められる。
 (3)違法性阻害事由の有無について
  [1] 前記認定事実によれば、本件請願の各表現は、原告らの市議としての適格性を問うものであるから、公共の利害に関する事実に係るものであり、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。
  [2] 前記認定事実によれば、本件請願の各表現の前提となる上記各事実のうち重要な部分、すなわち、ア 原告らは、被告薄井への辞職勧告請求等に対する本件抗議文に賛同する者を「性風俗=売春」肯定論者などとして、実名の者も含めて原告らのサイトに掲載し、そのように思われたくなければ賛同署名を撤回するよう要求しているとの事実、イ 原告らは、性風俗は有害業務であって、その実態は違法行為であり、これを職業として肯定する主張自体違法である旨繰り返し述べている事実、ウ 原告らは、ネット上で原告らを批判した者に対し、住所と実名を教えるよう要求したり、批判的な記事等を脅迫記事等として「警告」等の表現を用いて削除・謝罪を要求している事実、エ 原告らが、原告らのサイト上に掲載している「薄井・佐藤支持『ネット政治集団』リスト」と題する部分等には、一般市民によるネット上での発言を抜き出してハンドルネームと共に列挙し、「脅迫投稿」「名誉毀損」「人権感覚麻痺者」「呆れた発想の持ち主」「批判拒否体質者」などと批判し、同リストには前文として「殺害予告投稿をした者を、徹底的に追求します」などと記載されている事実、オ 原告らは、原告らのサイト上において、逮捕された痴漢の被害者の写真をネット上で公開した者としてある者のハンドルネームをほかのハンドルネームと取り違えて記載したが、訂正請求を受けて訂正はしたものの、謝罪の意を表明していないとの事実等は、いずれも真実であるというべきである。
  [3] また、本件請願の各表現は、原告らに対する人身攻撃に及ぶものとはいえない上、市議会において市議会議員に対する辞職勧告を請願するという表現行為の性質からは、必然的に批判的表現とならざるを得ないものであること、これに対して、原告らには市議会の場で弁明の機会が与えられていること、他方、原告らは、原告らのサイト上等において、被告薄井及びその支持者らを厳しく批判しており、その表現中には、被告薄井及びその支持者らを誹謗し、揶揄するような表現が多数見られることなどの諸事情に鑑みると、本件請願の各表現は、原告らの表現行為等に対する反論等として、意見ないし論評の域を逸脱したものということはできない。
  そうすると、本件請願の各表現につき、違法性は阻却されるものと解するのが相当である。
  [4] この点につき、原告らは、第2の4(2)【原告らの主張】[1]ないし[6]のとおり主張する。
  しかしながら、上記原告らの主張は、ハンドルネームの使用者ないし本件抗議文の賛同署名者に対する名誉棄損が成立するか否か、ハンドルネームの使用者に被害を受けるべき人格権があるか否か、特殊性風俗が職業として法的に保障されたものか否かなどに関するものであるが、これらの点については、いずれについてもこれを肯定し又は否定する見解等があり得るものであるから、結局、各意見ないし論評の内容の正当性や合理性を問題にするものにすぎず、上記認定判断の妨げになるものとは認められない。したがって、上記原告らの主張は、採用できない。
  [5] また、被告薄井において、本件請願の全文を被告薄井のブログに記載したり、本件サイト等にリンクをしていることが認められるが、上記認定事実によれば、上記行為は、あくまでも本件請願が市議会に提出されたものとして、掲載されたりしているものとして、掲載されたりしているものであり、その目的や態様において社会的相当性を欠くものとも認められず、これが不法行為を構成するものとは認められないというべきである。
  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
  よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条,65条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所立川支部民事第1部
裁判長裁判官  1名
   裁判官  2名



2010年3月24日:ページ作成。
最終更新:2010年03月24日 12:20