対創価学会街宣名誉毀損裁判東京地裁判決(平成22年7月30日判決言渡)抜粋

主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して110万円及びこれに対する平成21年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、別紙1禁止行為目録記載の行為をしてはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを20分し、その1を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。
5 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
別紙1 禁止行為目録
自ら若しくは補助者又は第三者をして、
(1)別紙東京都東村山市内図面1、同東京都東大和市内図面2、同東京都東大和市内図面3の赤線で囲まれた区域内において、拡声機若しくは街頭宣伝車等の車両を用いて演説を行い、原告の宗教活動等の業務を妨害し、その名誉を毀損し、誹謗中傷したりする一切の行為
(2)東京都東村山市及び東大和市内において、拡声機若しくは街頭宣伝車等の車両を用いて別紙2記載の趣旨の演説を行い、原告の名誉を毀損し、誹謗中傷したりする一切の行為

事実及び理由

第1 請求(略)

第2 事案の概要(略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告らの発言態様)について
 本件街宣活動(1)及び(5)ないし(9)が、大音量であったかについて検討すると、証拠(甲1、甲12)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件街宣車に取り付けられている拡声器は、一見して区役所等が広報宣伝活動に用いる軽自動車等に取り付けている拡声器よりも高性能なものであること、本件街宣活動は本件街宣活動(8)を除き、本件街宣車に取り付けられている拡声器又は手持ち式の拡声器を用いて行われていたことの事実が認められる。また、被告槇は、本件街宣活動(2)ないし(4)については、大音量で行ったことについて、争うことを明らかにしていないところ、被告らは、本件街宣活動(1)、(5)ないし(7)及び(9)については、その態様について何らかの配慮をしたとの状況を特に主張してもいない。
 そうすると、有る程度は捉え方や表現の問題というところがあるにせよ、甲12が述べるように本件街宣活動(1)及び(5)ないし(7)は、拡声器を用いて大音量でなされたものであり、本件街宣活動(9)についても、拡声器を用いてかなりの音量でなされたものと認められる。
 他方、甲12にも、本件街宣活動(8)が拡声器を用いてなされたものであることや大音量でなされたことの記載はなく、これらの事実を認めるに足りる証拠は他にもない。したがって、本件街宣活動(8)については、近隣に住宅があることを配慮し、極力音量を絞り、ハンドスピーカーを川上宅の方にのみ向けたとの被告槇の主張は、否定されず、そのような程度にあったものと認められる。
2 争点(2)(被告らの共謀)について
(1)被告らが、原告に対する誹謗中傷を内容とした本件街宣活動を行うことを共謀したかについて検討すると、本件街宣活動における被告槇と被告黒田の発言、行動等は前提事実でみたとおりであり、これによれば、被告黒田は、自身が一番初めてであったと主張する本件街宣活動(2)の際から、被告槇の発言に対し呼応する発言、行動をし、その後の街頭宣伝活動においても、被告槇の発言内容を認識した上でこれに呼応する発言をやめることはなく、行動を共にし続けたこと、被告黒田は、本件街宣活動(1)の本件テープの内容を認識しつつ、本件街宣車内において、本件テープの内容に合わせて「許さない」などと復唱を繰り返したこと、被告黒田自身の演説においても、「数々の嫌がらせ、犯罪行為をやってきた、創価学会」、「創価学会の犯罪」、「創価学会による殺人」などと、被告槇と同様、原告による犯罪行為の存在を前提とした発言をしたこと、被告槇が、被告黒田の発言に対してもこれに呼応する発言をしたことが認められる。
 そして、これらの事実に照らせば、被告槇と被告黒田とは、その主張をお互いに認識した上で、他方の行為を自己の行為として利用する意思のもと、本件街宣活動に及び、かつ、これを継続したものと認められるから、被告槇と被告黒田とは、遅くとも本件街宣活動を開始したころまでには、相手方が行う発言内容等を理解した上で、これらを内容とした本件街宣活動(なお、その具体的内容等については、3項において検討する。)を行うことについて共謀したものと認められる。
 なお、被告黒田は、本件においては共謀関係等の立証に関し特に厳密な立証を要する、被告黒田の発言はいわゆる「合いの手」であり、聴衆の注意を引き、演説者の心理的緊張を和らげ、演説者と参加者の一体感を演出するために行われる技法的なルーティンワークでしかなく、それ自体が演説内容への当否又は同意の意味合いをもつことはないなどとして、被告らの共謀を争うが、被告黒田の上記主張によっても自己の発言が聴衆や演説者に一定の効果を及ぼすとの認識がありながら、これを行ったとの状況が認められるところであるから、上記認定は、左右されない。
3 争点(3)(被告らの街宣活動による名誉毀損の成否)について
(1) 本件街宣活動の摘示事実及び社会的評価の低下
ア 被告槇は、朝木市議が原告により殺害されたとの事実について、本件街宣活動において直接摘示したことを争う。
 しかしながら、本件テープの内容は、「今こそ創価学会の犯罪をあばき」、「殺人罪の時効まで後1年。14年前の朝木明代市議会議員の転落死は自殺ではありません。」などといったものであること、
 そして、被告槇は、本件街宣活動(2)において、「女性市議会議員が転落死いたしました。」、「これは明らかに創価学会による犯罪なんです。」及び「これが創価学会の狡猾なやり方なんです。」旨、
 本件街宣活動(3)において、「朝木明代市議が、駅前のビルから突き落とされて殺されました。殺人罪の時効、当時、あと1年で時効になります。いまこそ、この薄汚い創価学会の犯罪に対し、我々、国民が、市民が、糾弾の声、鉄槌を下していかねばなりません。」、「創価学会の犯罪を許すなー。」及び「創価学会は殺人をやめろー。」旨、
 本件街宣活動(4)において、「女性市議会議員が転落死致しました。」、「これは明らかに創価学会による犯罪なんです。」旨、
 本件街宣活動(5)において、「殺人事件の時効まであと1年。朝木市議は自殺ではない。カルト教団創価学会が事件に関与している。」旨、
 本件街宣活動(6)において、「平成7年に、・・・殺害されました東村山市議、朝木明代さん。その事件が、あと1年で時効になろうとしております。殺人事件の時効まであと1年。この、創価学会による、謀略」旨、
 本件街宣活動(7)において、「創価学会によって殺害された朝木明代さん」旨、
 本件街宣活動(8)において、「創価学会というのは、犯罪者の集団。殺人部隊さえ持った集団だ。暴力団も持ってるし、創価学会は右翼の街宣車だって自由に動かせるんだ。」旨、
 本件街宣活動(9)において、「公明党・創価学会の不正というものを糾弾しておりました女性市議会議員が転落死致しました。この事件を担当、東村山警察署は、単なる自殺というふうに片づけましたが、これは明らかに創価学会による犯罪なんです。」旨を各発言したものであることは、前提事実(2)にみたとおりである。
 また、本件街宣車には、赤色の文字で、「殺人罪の時効まであと1年」及び「創価学会の犯罪を許さない」旨が、また、黒色の文字で、「朝木明代市議は自殺じゃない」旨が各記載された白地の横断幕が取り付けられていたことも、前提事実(2)にみたとおりである。
 以上の認定事実を総合すれば、被告らの本件街宣活動(1)ないし(9)が、いずれも、本件テープの内容、あるいは当該街頭宣伝活動場所に停車していた本件街宣車の横断幕の記載とも相まって、原告が朝木市議を殺害したとの事実を摘示するものであることは、社会通念に照らし明らかである。
 そして、被告らの本件街宣活動(1)ないし(9)は、いずれも、一般人に対し、原告が朝木市議を殺害したとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
イ なお、被告黒田は、本件テープの内容が何ら具体的事実を摘示するものではないと主張するが、前記アのとおり、本件テープの内容が、原告が朝木市議を殺害したとの具体的事実を摘示するものであることは社会通念に照らし明らかである。
 また、被告黒田は、原告には保護すべき社会的評価がない、原告の社会的評価の低下は社会通念上の受忍限度の範囲内のものであるとも主張する。
 しかしながら、本件全証拠によっても、原告について、原告が朝木市議を殺害したとの社会的評価が定着していたなどという事実は認められないし、また、被告らの本件街宣活動による社会的評価の低下を原告が受忍すべき根拠もない。
ウ したがって、被告らの本件街宣活動は、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
(2) 真実性の抗弁ないし相当性の抗弁の成否
ア 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、適示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
 そして、被告らは、本件街宣活動につき、原告が朝木市議を殺害したことは真実である、あるいは、原告が朝木市議を殺害したことについて真実と信ずるに足りる相当な理由がある旨主張するので、これらの点につき検討する。
イ 真実性
(ア) 括弧内に記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 朝木市議は、平成7年9月1日午後10時ころ、東京都東村山市本町のマンション5階付近の階段踊り場から転落し、胸を強打して間もなく死亡した(甲3。以下「本件事件」という。)。
b 東京地方検察庁八王子支部検察官は、東京慈恵会医科大学法医学教室の医学博士2名に対し、同月2日、朝木市議の死因、創傷の部位、程度、凶器の種類、その用法、死後の経過時間、血液型、その他参考事項などについて鑑定を嘱託した。
 同医学博士らは、朝木市議の死因として、多発性外傷に基づく出血性ショックを主体とする外傷性ショックと思われること、創傷の部位、程度として、朝木市議の遺体の胸腹部、左右上肢、左右下肢には表皮剥脱、皮下及び筋肉内出血を認め、内部において、胸腔内出血、多発性肋骨骨折、肺損傷、外傷性クモ膜下出血、頸椎損傷、左脛骨及びはい(肉付き排)骨骨折、右はい骨骨折を認めること、凶器の種類、その用法として、朝木市議の遺体に認められる上記創傷はいずれも鈍体による打撲、圧迫、擦過等により形成されたと思われる、同遺体の胸部及び左右下肢には外力が強力に作用したものと思われる、これらの部に作用した当該凶器の性状を明らかにするのは困難であるなどとする鑑定をした(甲10。以下「法医鑑定」という。)。
c 東京地方検察庁次席検事は、平成16年4月14日、本件事件に関して、「目撃者は『朝木さんは打ち沈んだ様子だった』と証言した。断定できないものの自殺の疑いは濃い。他殺の証拠は得られなかった」と述べて、捜査を終結したことを明らかにした(甲3)。
(略)
 鈴木意見書については、法医鑑定においては、朝木市議の遺体に認められる創傷はいずれも鈍体による打撲、圧迫、擦過等により形成されたと思われる、これらの部に作用した当該凶器の性状を明らかにするのは困難であるとされているにとどまり、また、上記創傷がいかなる凶器等により形成されたのかを特定するに足りる証拠もないのにもかかわらず、上記皮下出血が手指によるものであるとしている点においてそもそも疑問があるものであって、合理的な根拠を欠くといわざるを得ないものである。
(略)
 同書〔引用者注/『東村山の闇』〕自体としても、ようやく朝木市議が何者かによって殺害された事実を確認することができたとする部分がある一方、原告関係者の関与やその可能性を言明した部分はなく、これを示唆する記載にとどまるものであって、同書に述べられた朝木市議の活動などから本件事件に対する原告やその会員の関与を推認しうるものではない。
(略)
〔いわゆる「暗殺以来密会ビデオ」に関する報道について〕それらの信用性にはいずれも疑問があるばかりではなく、その記載内容としても、(中略)いずれも朝木市議に関しては何らの言及がなく、(中略)「某団体」として原告の名称自体も明確に記載していない上、暗殺対象者についても「すでに死亡(自殺?)しているA氏」と記載しているのみであって朝木市議と明確にしているものでもないから、原告が朝木市議を殺害したことを証するものではない。
(略)
(ウ)その他本件全証拠を併せ検討しても、朝木市議の死が、そもそも他殺によるものであるとも、また、原告の会員が朝木市議の死に関係したとの事実も認められないところであって、原告が朝木市議を殺害したとの事実は、これを認めることができない。
ウ 相当性
(略)
 これらの記述〔引用者注/『憚りながら』〕には、本件事件との関係を窺わせる部分はないから、その真否以前の問題として、これらをもって、被告らにおいて、原告が朝木市議を殺害したとの事実について、これを真実と信ずる相当の理由があったとする根拠とはなしえない。
(略)
〔いわゆる「検察官発言」について〕その文面からも別件で担当検察官と話をしていた際、たまたま原告側代理人からかかってきた電話に同検察官が対応するのを耳にしたというものであり、同検察官の発言がどのようなやりとりの中でなされたものであるかが不明なものであり、また、上記記述の後には、そのような会話があったことを否定する原告側代理人の陳述書の引用がある上、仮に疑いが否定できないとの発言がなされたとしても、それをもって本件事件に対する原告の関与が肯定されるものでもないから、被告らにおいて、原告が朝木市議を殺害したとの事実を信ずるについて相当の理由があったということはできない。
(略)
(ウ)その他本件全証拠によっても、被告らにおいて、原告が朝木市議を殺害したと信ずるについて相当の理由を認めることも、また、これを窺うこともできないところである。
4 争点(4)(損害等)について
(略)
 原告施設前における被告らの本件街宣活動に対して、原告の会員ら複数名が対応を余儀なくされたことは明らかであるから、宗教法人である原告の礼拝等の宗教活動が妨げられたと評価するには十分であり、具体的に恐怖感まで抱いたか否かは結論を左右しない。
(略)
 1日の間に原告施設だけで3カ所を回っている本件街宣活動は執拗なものと評価せざるを得ず、原告がこれを受忍するべき事情は本件証拠によっても認められない。
(略)
 弁護士に委任しており、その費用は前記(1)の損害額の10パーセントである10万円と認めるのが相当である。
(略)
 被告らの本件街宣活動は、原告の名誉を毀損し、その平穏に宗教活動を行う権利を侵害するものであるところ、その態様において、1日の間で少なくとも9回にわたり街頭宣伝活動を繰り返すという執拗なものであったほか、……被告らは、平成21年9月1日ころ、東村山駅前において、本件街宣活動と同趣旨の内容の街頭宣伝活動を行ったことも認められるところである。
 被告らは、将来も請求の趣旨第2項記載の行為を繰り返す高度の蓋然性があり、原告には、被告らに対し、人格権に基づき上記街宣活動のような街頭宣伝活動の差しとめを求めることができるものと認められることになる。
(後略)


2011年1月20日:ページ作成。
最終更新:2011年01月20日 22:30