上腕部の皮膚変色痕(アザ)と司法解剖鑑定書・意見書に関する裁判例


 前記(3)イで認定した現場の状況,亡明代の死亡直前の言動,死体の状況及び関係者の供述を総合考慮すると,亡明代が自殺したことを裏付ける事情が存在することは確かである。
 しかしながら,他方で,証拠(甲5,25,乙44)及び弁論の全趣旨によれば,司法解剖の結果,亡明代の左右上腕内側部に皮膚変色が認められた……ことが認められ,これらの事実に照らせば,なお亡明代が自殺したと断じるにはなお疑問が残るところであり,上記亡明代が自殺したことを裏付ける事情をもって,自殺を推認するに足らず,他に亡明代が自殺したと認めるに足りる証拠はない。
 そして,本件放送で摘示された事実の重要な部分は,(1)アザがあったこと,(2)それが他殺を疑わせる証拠となるようなものであること,(3)控訴人〔千葉英司氏〕は,そのような〔他殺を疑わせるような〕アザはないと言い続けたこと,であるところ,控訴人がそのようなアザがあることを終始否定する発言をしていたことは当事者間に争いがない。また,乙2(死体解剖鑑定書)によれば,解剖の結果,朝木議員の左右上腕部内側部に皮膚変色部……があったことが認められるのである。また,乙13によれば,上腕内側は,一般に,その位置関係からして,転落による外力などが作用しにくい箇所であること,他人ともみ合い,上腕を強くつかまれたような場合には,上記箇所に皮膚変色部(皮下出血)が生ずる可能性があるという事実が認められる。
 そうすると,本件では,摘示された事実の重要な部分である(1)(3)については真実であることの証明があるし,(2)の「アザが他殺を疑わせる証拠となるようなものであること」についても,上記の「上腕内側は,一般に,その位置関係からして,転落による外力などが作用しにくい箇所であること」,「他人ともみ合い,上腕を強くつかまれたような場合には,上記箇所に皮膚変色部(皮下出血)が生ずる可能性があること」という事実に照らすと,少なくとも被控訴人〔矢野穂積氏〕が本件のアザが他殺を疑わせる証拠となるようなものであると信じたことについては相当の理由があるというべきである。したがって,被控訴人の故意又は過失は否定され,不法行為は成立しないというべきである。
 本件記載及び本件記載朗読は、朝木市議の遺体の上腕内側部に変色痕が存在していたのに、被控訴人(千葉氏)が、別訴証人尋問において、変色痕がなかったとウソを言い続けたということを内容とするものであるところ、被控訴人の別訴証人尋問における供述内容は、基本的には朝木市議の遺体の上腕内側部に変色痕は存在していたが、これを第三者と争ったものではないと判断したというものであることも上記のとおりであるから、本件記載及び本件記載朗読の内容は真実ではない。
……
 控訴人朝木が、(雑誌「フォーラム21」において)被控訴人の別訴証人尋問における証言内容を、皮膚変色部があっても争った跡とは判断しないと証言したものと要約する発言をしていることが認められる。
(2)真実性について
 前示のとおり,本件記述1~3は,原告が本件窃盗被疑事件について真実に反して明代を書類送検し,また,本件転落死が殺人事件であるにもかかわらず,それを知りながら捜査で判明した事実を意図的に偽るなどして,本件転落死を自殺扱いするなど公正な捜査・広報を行わなかったとの事実を摘示しているところ,証拠(甲13,31,乙6~9,17~19,25)及び弁論の全趣旨によれば,……本件転落死につき明代の遺体を司法解剖した医師による鑑定書は平成10年7月21日に作成されたが,その中に,上肢に認められる損傷として,左上腕部内側下1/3の部に上下7cm,幅3cmの皮下出血,右上腕部内側,腋窩の高さの下方11cmの部を中心に,上下に5cm,幅9.5cmの皮下出血がある旨の記載があり,これについて,上腕を強くつかまれた際の圧迫によって生じたものと推認することができ,救急隊員が明代を担架に乗せる際に明代が既に心肺停止状態であったとすると,血圧が零で,つかまれても出血しないので,転落の前に他人と揉み合った可能性も推認できるとの医師の意見書が作成されていること(ただし,上記の皮下出血がいつ生じたかについては,これを正確に認定するに足りる証拠はなく,他人と揉み合うという状況以外に自分以外の者から腕を強くつかまれるという事態が一切生じたことがなかったと認めるに足りる証拠もなく,また,上記意見書は,皮下出血の位置が自分の手の届く範囲内にあることを前提として,それが生じた原因となる事態の可能性については言及していない。)が認められる。
 しかし,上記認定の事実によっても,原告が本件窃盗被疑事件について真実に反して明代を書類送検し,また,本件転落死が殺人事件であるにもかかわらず,それを知りながら,捜査で判明した事実を意図的に偽るなどして,本件転落死を自殺扱いするなど公正な捜査・広報を行わなかったとの事実までは認めることができず,他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって,本件記述1~3について,その重要な部分において真実であることの証明があったとは認めることはできない。
(3)相当性について
 前記認定のとおり,本件転落死時,明代の上腕内側部に誰かに強くつかまれたことによりできた可能性があるアザ(淡赤紫色及び淡赤褐色皮膚変色部・皮下出血あり)が存在していたこと……が認められるが,……上記認定の事実によって,原告が本件窃盗被疑事件について真実に反して明代を書類送検し,また,本件転落死が殺人事件であるにもかかわらず,それを知りながら捜査で判明した事実を意図的に偽るなどして,本件転落死を自殺扱いするなど公正な捜査・広報を行わなかったと被告らが信じたことに相当の理由があると認めるのは躊躇せざるを得ないのであり,他に上記事実が真実であると信じるのが相当であると認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はなく,結局,被告らが,本件記述1~3で摘示した事実が真実であると信じるにつき相当な理由があったとまでは認め難いといわざるを得ない。
(4)したがって,本件記述1~3について名誉毀損阻却事由は認められないこととなる。
b 本件転落死が殺人事件(他殺)であることについて
 (a)真実性について
 控訴人らは、司法解剖鑑定書記載の本件損傷の存在により本件転落死が他殺であることが推認されると主張する。
 しかしながら、司法解剖鑑定書には、本件損傷が他人と争ってできた可能性があることをうかがわせる記載はなく、本件損傷の存在からは、S医師の意見書に記載されているとおり、その生成原因として、明代が他人ともみ合って上腕を強くつかまれた可能性があることが認められるだけであり、明代が他人に突き落とされて本件転落死したことまで推認できるものでないことは明らかである。また、S医師が控訴人らの鑑定蠣託を受けて作成した鑑定書には、本件損傷が生じた原因について、「自分で強く掴むとか、救急隊員が搬送する際に強く掴むとか、落下の際、手すりにより生じたことも、落下の途中で排水縦パイプに衝突して生じたこととか、落下して地面のフェンスとか、排気口との衝突で生じたこともあり得ず、従って、他人と揉み合った際に生じたことが最も考え易い。」とされているところ、「自分で強く掴む」ことがあり得ないことは、「正常の人なら」そのような事態が生じることはあり得ないとするものであるが、明代が正常な状態でなければ(明代が自殺したとすれば、正常な状態でなかったということができる。)、そのような事態が生じることがあることを否定していないと考えられ、また、他の可能性を否定する根拠も十分なものでないといわざるを得ず(S医師が控訴人らから提供されて検討したとする証拠類によって、他の可能性を否定することはできない。)、S医師の鑑定書の上記記載は採用することができない。
 そして、司法解剖鑑定書の記載に加えて、前記(ア)b認定の明代の転落前後の状況(明代が転落前に人と争った気配はないこと、明代が転落後に意識があるのに、救助を求めていないこと、明代が落ちたことを否定したこと、明代が転落箇所から真下に落下していること等)を併せ考慮すると、明代が他人に突き落とされたもの(他殺)ではないことがうかがわれる。
 以上によれば、本件転落死が殺人事件であると認めることは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 (b)相当性について
 控訴人らは、本件損傷の存在、さらには、S医師の意見書及び鑑定書の記載により、本件転落死が他殺であると信じるについて相当の理由があったと主張するものと解される。
 ところで、本件記事1に係る名誉毀損行為は、その平成12年4月1日付け東村山新聞を平成15年2月19日にインターネットホームページ「創価問題新聞」(旧新聞)に掲載したことであるから、相当性の判断は、同日を基準としてされるべきものであるところ、S医師の意見書及び鑑定書は、平成18年8月20日及び平成20年5月26日に作成されたものであるから、同各書面は、控訴人らの相当性判断の証拠資料とすることはできない。
 そして、控訴人らは、S医師の意見を求める前の上記掲載当時、本件損傷のような皮下出血が人に上腕部を強くつかまれることにより生じる可能性があることを知っていたことから、本件損傷の存在から、これが加害者ともみ合うなどして争った際についたものであり、本件転落死は他殺であると信じたものと認められるが、本件損傷の存在からは、前記(a)説示のとおり、その生成原因として、明代が他人ともみ合って上腕を強くつかまれた可能性があることが認められるだけであるところ、控訴人らは、明代の転落前後の状況として、その提起した前記(ア)e、g等の別件訴訟の結果により、同bの事実を知っていたのであるから、これらの事実を無視又は等閑視して、本件損傷の存在から、本件転落死が他殺であると信じるについて相当の理由があったということはできない。
……
d 別件訴訟における判断について
 控訴人らは、別件訴訟のいわゆる潮事件判決及びいわゆるFM放送事件判決によっても、真実性又は相当性が認められると主張するものと解される。
 しかしながら、……いわゆるFM放送事件判決(前記(ア)j)は、アザ(本件損傷)が他殺を疑わせる証拠となるようなものであることについての相当性について判断しただけであり、その真実性については判断しておらず、まして、本件転落死が殺人事件である(明代の死因が他殺である)としたものでないことが明らかである。
 また、相当性が肯定されるということは、事実を摘示して名誉毀損行為をした者が当該摘示された事実を真実であると信じるについて相当の理由があるということであるところ、……いわゆるFM放送事件判決は、上記のとおり、アザ(本件損傷)が他殺を疑わせる証拠となるようなものであることについての相当性について判断したものであり、本件転落死が殺人事件である(明代の死因が他殺である)ことについての相当性について判断したものではないから、同判決を基に本件において相当性があるということはできない。
ウ ……関係証拠及び弁論の全趣旨によると、次のとおりの事実が認められる。
(ア)明代の司法解剖鑑定書には、「左上腕部後面、肘頭部の上左方4cmの部を中心に、2×2.5cmの紫青色皮膚変色部。左上腕部内側下1/3の部に、上下に7cm、幅3cmの淡赤紫色及び淡赤褐色皮膚変色部。加割すると皮下出血を認める。右上腕部内部、腋窩の高さの下方11cmの部を中心に、上下に5cm、幅9. 5cmの皮膚変色部を認める。加割すると皮下出血を認める」と記載されている(乙42)。上記司法解剖鑑定書は、平成11年4月、控訴人朝木〔直子〕が東京都を被告として提起した別件訴訟(東京地裁平成10年(ワ)第19793号)において東京都から提出され、控訴人〔矢野穂積・朝木直子氏〕らの知るところとなった。なお、他人と揉み合いになったような場合、上腕内側部分に痕跡が残ることが多いといわれている(乙1、25、26の1、乙55の1参照)。
〔中略〕
エ 以上によると、本件転落死については、(1)明代の司法解剖鑑定書には他人と揉み合った際に生じることがある上腕内側の皮膚変色部が存在したことが記載されている(ウ(ア))、……という点が指摘できる。これらの点を総合すると、控訴人らが本件転落死につき他殺の可能性を示す証拠があると信ずるについて相当の理由がなかったとはいえないというべきである。
(イ) 亡明代が自殺したのではなく、計画的に殺害されたものであること(前記ア(1))について
(1)本件上腕部内側の皮膚変色部について
a 本件司法解剖鑑定書には、前記のとおり、本件上腕部内側の皮下変色部の記載があるが、これが他人と揉み合ってできた可能性があることを示唆する記載はされていない。
b 鈴木教授作成の本件鑑定補充書は、本件上腕部内側の皮膚変色部について、「その生成原因として、明代が他人ともみ合って上腕を強くつかまれた可能性があることが認められるだけであり、明代が他人に突き落とされて本件転落死したことまで推認できるものでないことは明らかである。」とした東京高等裁判所平成21年1月29日付け判決に反論しているが、鈴木教授は、本件上腕部内側の皮膚変色部について、従前、同人の平成18年8月20日付け意見書(以下「平成18年8月20日付け意見書」という。)において、「転落現場で救急隊により担架に乗せられる際、両腕を揉まれた可能性の他、他人と揉み合って上腕を強く揉まれた可能性も推認できる。」旨の意見を述べていたところ、同人の平成20年5月26日付け鑑定書においては、「左右上腕の皮下出血部は、その位置は、いずれも、自分の手の届く範囲であるが、正常の人なら、自分の上腕内側を自分で皮下出血が生ずるほど強く掴まなければならない様な事態が生ずることはあり得ない。」などと述べ、さらに本件鑑定補充書においては、「朝木明代殿が仮に自殺しようとして、正常な状態でなかったとしても、この左右上腕の皮下出血は自分で掴んで生じた可能性はない。」などと述べるに至ったものであるから、鈴木教授の意見の内容には変遷があり、しかもその変遷に合理的理由があるとは認められない(なお、平成18年8月20日付け意見書及び平成20年5月26日付け鑑定書は、いずれも本件において証拠として提出されていない。)。
 また、本件鑑定補充書によっても、自殺をしようとして正常な状態でなくなっている人の自傷行為が自殺に結びつくような合目的的な行為に限定される理由が明らかでなく、かえって正常な状態にないのであれば、自殺に結びつかない不合理な行動をとったとしても不自然とはいえないのであるから、本件上腕部内側の皮下変色部が亡明代と他人が争った際に生じたことが最も考えやすいとする本件鑑定補充書の記載は採用することができない。
c 加えて、前記認定のとおり、亡明代が転落したと考えられる本件マンションの5階から6階の間の非常階段の手すりに残された手指痕跡の増したで鉄製フェンスが折れ曲がっており、亡明代が転落時に同フェンスに衝突したことがうかがえること、警察官の聞き込み捜査では、転落当時悲鳴及び墜落音を聞いたという本件マンションの住人がその際に人が争う気配はなかったと供述していることなどに照らせば、本件鑑定補充書を全面的に採用することはできず、本件上腕部内側の皮膚変色部は、亡明代が他人と揉み合ったことにより生じたとしても矛盾しないという程度の証拠力を有するにとどまるといわざるを得ない。
d ちなみに、別件訴訟の東京高等裁判所平成21年3月25日付け判決書(乙33)も矢野及び直子らが本件転落死事件につき「他殺の可能性を示す証拠があると信ずるについて相当の理由がなかったとはいえないというべきである。」とするにとどまり、他殺の可能性を示す証拠があることが真実である旨認定するものではないし、本件上腕部内側の皮膚変色部については、「明代の市報解剖鑑定書には他人と揉み合った際に生じることがある上腕内側の皮膚変色部が存在したことが記載されている」と記載するにとどまる(なお、同平成21年3月25日付け判決書及び本件鑑定補充書は、平成21年1月29日付け判決に係る上告受理申立ての際に提出されたが[甲17]、上告不受理決定がされている。)。また、別件訴訟の東京高等裁判所平成19年6月20日付け判決(乙37)も、本件上腕部内側の皮膚変色部が「他殺を疑わせる証拠となるようなものであること」を信じたことについては「相当の理由があるというべきである。」とされたにとどまる。
〔中略〕
(3)小括
 以上によれば、被告の主張するその余の点を考慮しても、亡明代が殺害されたことや、これが計画的なものであったことを認めることはできない。
〔中略〕
(3)ア ……東京高等裁判所平成21年3月25日付け判決書及び本件鑑定補充書も、被告の本件各表現当時の相当性の判断の一資料として考慮するに、これを考慮に入れても、本件上腕部内側の皮膚変色部は、客観的には、亡明代が他人と揉み合ったことにより生じたとしても矛盾しないという程度の証拠力を有するにとどまることは前記のとおりである。
イ 証拠(乙46,被告本人)によれば、本件演説及び本件記事発表当時、被告が主としてその前提事実の重要な部分の根拠として直接把握していたものは、本件司法解剖鑑定書(ただし、添付写真を除く。)、本件音声鑑定書、国会議事録(乙30)等のほかは、主として、乙骨正生著に係る「怪死」と題する書籍(乙28)、本件書籍(乙32)、週刊文春(乙21)等の週刊誌等の記事であったことが認められる。
 なお、被告は、被告本人尋問において、鈴木教授の意見を確認した旨供述するが、被告が本件各表現をした後に本件鑑定補充書を確認したことは認められるものの、平成18年8月20日付け意見書及び平成20年5月26日付け鑑定書については、本件において証拠として提出されておらず、被告がこれらの意見書等を本件各表現以前に確認していたとの上記記述はにわかに採用できない。
〔中略〕
エ 上記認定によれば、被告が参考にした上記資料には、左上腕部後面等に皮下出血を伴う皮膚変色部があること、……などが記載されているにすぎないのに、被告は、原告が本件転落死事件につき早々に本件被疑事件を苦にした自殺説を打ち出して他殺の証拠を無視したなどと記載されている本件書籍〔引用者中/『東村山の闇』〕等を前提とし、これに沿うように上記資料を解釈して、本件各表現を行ったものと認められ、これらの事情に照らすと、被告が報道等に携わる者ではないことを考慮しても、裏付け調査を十分にしたとはいえず、本件各表現当時、亡明代が自殺したのではなく、計画的に殺害されたものであること(前記2(3)ア(1))を被告が信じるについて相当の理由があったと認めることはできない。ましてや、本件において、原告が同(1)の事実を知りながら、あえてこれを自殺事件に仕立て上げ、またはこれを断定して、隠蔽しようとしたこと(前記2(3)ア(2))、創価学会が亡明代の謀殺事件に関わっており、原告は、創価学会の学会員である検察官2名と結託して上記隠蔽に加担する不正を行ったこと(前記2(3)ア(3))、原告がその隠蔽工作として亡明代が万引きをしたという虚偽の事実をねつ造したこと(前記2(3)ア(4))は、被告の推測にすぎず、本件各表現当時、これらの事実を被告が信じるについて相当の理由があったと認めることはできず本件各表現の意見ないし論評が公正な論評として許容される範囲内であるともいえない。
 鈴木意見書については、法医鑑定においては、朝木市議の遺体に認められる創傷はいずれも鈍体による打撲、圧迫、擦過等により形成されたと思われる、これらの部に作用した当該凶器の性状を明らかにするのは困難であるとされているにとどまり、また、上記創傷がいかなる凶器等により形成されたのかを特定するに足りる証拠もないのにもかかわらず、上記皮下出血が手指によるものであるとしている点においてそもそも疑問があるものであって、合理的な根拠を欠くといわざるを得ないものである。
 ……上記(ア)に摘示した、(マル1)亡明代の上腕内側の皮下出血に関する鈴木教授の意見については、亡明代の転落状況について上記の程度には想定できるものの、本件外階段の5階と6階の間の踊り場に設置されたコンクリート製手すりに外側から手をかける形でぶら下がり、その状態から手を離して落下し、地面に衝突する直前で右胸部が金属製フェンスに衝突し、その直後に左右足部が排気口、そして、地面に衝突し、ゴミ置き場に転倒したとの経過の中で、亡明代の両上肢がどのような態様で何に接触し、又は衝突したかを確定する証拠は一切ないのであるから、このような証拠関係において、鈴木教授の意見をそのまま採用するのは困難といわざるを得ず、……上記(ア)に摘示した証拠をもって、亡明代は計画的に殺害されたものであるとの事実を認めることはできず、結局、本件において、亡明代は計画的に殺害されたものであるとの事実の真実性の証明はないというべきである。上記判断に反する控訴人の主張(当審における主張を含む。)は、証拠に基づかない主張か、証拠に反する主張であって、採用することはできない。
〔中略〕
ウ したがって、上記説示のとおり、本件各表現で摘示又は前提とされた事実の重要な部分のうち、被控訴人が、亡明代は計画的に殺害されたものである事実を知りながら、これを自殺事件に仕立て上げて隠ぺいしようとしたこと(上記ア(ア)(マル2)の事実)、創価学会が亡明代の謀殺事件にかかわっており、被控訴人は創価学会の学会員である検察官2人と結託して上記隠ぺいに加担する不正を行ったものであり、学会員である検察官と同類のものであること(上記ア(ア)(マル3)の事実)の各事実についても、真実性の証明はないという結論になる(なお、付言するに、本件全証拠によるも、創価学会が本件転落死事件にかかわっている事実及び被控訴人が創価学会の学会員である検察官2人と同類のものであることも認められず、真実性の証明はない。)。
〔相当性については東京地裁(平成22年4月28日)判決と同旨〕


2011年1月21日:上腕部の皮膚変色痕(アザ)と司法解剖鑑定書から独立させる形でページ作成。
最終更新:2011年01月21日 05:53