「御用ライター」裁判資料


第2次「御用ライター」裁判・第1審判決

平成21年11月16日判決言渡 同日原本領収 
平成21年(ワ)第758号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成21年10月19日

判決

原告 宇留嶋瑞郎
被告 黒田大輔

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成21年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告に対し、被告が開設、運営するインターネット上の「行政書士、社労士のぼやき」と題するブログの平成21年6月6日付け記事(※URL)に掲載された「宇留嶋氏は元々『月刊タイムス』の社員で、その『月刊タイムス社』に在籍していた頃に、創価学会の『平塚広広報部長』――『井上聖志広報部長』ラインに取り入って、『創価学会の御用記者』すなわち創価学会のために都合のよい記事を書く『便利屋』になった人です。」との文言を削除せよ。
(3) 被告は、原告に対し、被告が開設、運営するインターネットブログ「行政書士、社労士のぼやき」トップページにおいて、別紙1記載の謝罪広告を別紙2記載の条件にて1週間掲示せよ。
(4) 訴訟費用は、被告の負担とする。
(5) 前記(1)につき仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
ア 本件訴えを却下する。
イ 訴訟費用は、原告の負担とする。
(2) 本案についての答弁
 主文と同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告は、自ら開設、運営するインターネット上の「行政書士、社労士のぼやき」と題するブログにおいて、平成21年6月6日付け記事中に、「宇留嶋氏は元々『月刊タイムス』の社員で、その『月刊タイムス社』に在籍していた頃に、創価学会の『平塚広報部長』―『井上聖志広報部長』ラインに取り入って、『創価学会の御用記者』すなわち創価学会のために都合のよい記事を書く『便利屋』になった人です。」と記載し(以下この記載を「本件記事1」という。)、そのまま掲載し続けている。
また、被告は、同ブログにおいて、同年7月14日付け記事中に、「創価御用ライター宇留嶋瑞郎」と記載し(以下この記載を「本件記事2」という。)、そのまま掲載し続けている。
(2)「御用記者」、「御用ライター」とは、不偏不党、中立、公平であるべきジャーナリズムの倫理に反して、「報道の名の下にプロパガンダや情報操作をすることによって特定勢力を支援するような記事を書く者」、「中立性を欠いて一定勢力を利するような記事を書く者」という意味で広く一般に理解され、浸透している用語である。
原告は、フリーのライターとして雑誌等に寄稿している者であるが、本件記事1及び2は、原告が「創価学会の御用記者」であるという事実を適示するものである。そして、本件記事1又は2を読んだ一般読者は、原告が「創価学会の御用記者」であり、創価学会擁護を旨とする中立性、公平性を欠いた記者であると容易に理解し、原告がそのような偏向的ライターであると認識するものである。
しかるに、原告は、これまで充分な取材と客観的根拠に基づいた記事を執筆してきたものであり、創価学会擁護を目的とした偏向記事を執筆したことは一度もなく、原告が「創価学会の御用記者」であるという事実は存在しない。
したがって、被告が自己のブログに本件記事1及び2を掲載し続けている行為は、原告の社会的信用を毀損するものであって、違法性を有する。
(3) 原告は、事実無根の本件記事1及び2によって社会的信用を著しく低下させられたのみならず、原告の今後の取材範囲が著しく狭められるおそれを生じさせたものであって、本件記事1及び2によって原告が被った損害を金銭に換算すれば、100万円を下らない。
また、本件記事1及び2によって低下させられた原告の社会的信用を回復させるには、本件記事1を削除させるとおもに、同ブログのトップページにおいて別紙1の謝罪広告を別紙2の条件で一定期間掲示させる必要がある。
(4) よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき100万円及びこれに対する不法行為日である平成21年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、本件記事1の削除及び謝罪広告の掲載を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める。
(2) 同(2)は否認する。
(3) 同(3)は否認する。
3 本案前の主張
(1) 原告は、自己が訴外矢野穂積及び同朝木直子を被告として提訴した東京地方裁判所立川支部平成20年(ワ)第710号事件(以下「別件訴訟」という。)において、平成21年7月31日、「『創価御用ライター』との記載は、原告宇留嶋の名誉を毀損するものではない」との条項を含む訴訟上の和解を成立させている。したがって、原告は、自己を「創価御用ライター」と記載することが名誉毀損に当たらないことを自認しているものであるから、原告は、本件請求について訴えの利益を有しない。
(2) また、別件訴訟においては、平成21年7月3日における口頭弁論期日において、同月31日に和解期日が指定されていたのであり、そのような経過に照らせば、原告は、本訴を提起した同月22日の時点において、本訴について勝訴の見込みがないことを予見し得た状況にあったといえる。原告はそれにもかかわらず、本訴を提起したものであるから、本訴提起行為は濫訴に該当するというべきである。
4 本案前の主張に対する認否
 争う。
第3 証拠
 証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由
1 本案前の主張について
(1) 別件訴訟の和解条項第1項は、「被告らは、原告に対し、被告らが掲載した(中略)各記事における原告について『創価御用ライター』との記載は、原告の名誉を毀損するものではないが、必ずしも適切な表現ではなかったことは認め、遺憾の意を表する。」というものであり、この和解条項は、訴外矢野穂積らの側において、「創価御用ライター」との記載をしたことにつき遺憾の意を表することを示すにすぎず、原告の側において、「創価御用ライター」の記載が原告の名誉を毀損するものではないことを明確に認めたことを示すものではない。したがって、原告が別件訴訟において和解を成立させたことをもって、本訴における訴えの利益を有しないとの結論を導くことはできない。
(2) また、別件訴訟において「『創価御用ライター』との記載は、原告宇留嶋の名誉を毀損するものではない」との条項を含む訴訟上の和解が成立したからといって、必ずしも、別件訴訟を担当した裁判官が「創価御用ライター」との記載が原告の名誉を毀損するものではないとの判断をしたとはいえないから、原告が、平成21年7月22日の時点において、別件訴訟で敗訴することを予見し得たとは到底認め難く、したがって、本訴提起行為が濫訴に該当するとはいえない。
(3) よって、被告による本案前の主張は、いずれも理由がない。
2 請求原因について
(1) 請求原因(1)は、当事者間に争いがない。
(2) ア 同(2)について検討するに、「御用記者」及び「御用ライター」との記載は、具体的事実を適示するものとはいえない。
本件記事1及び2は、原告が創価学会からいかなる方法をもってプロパガンダや情報操作の指示を受け、どのような記事を執筆するよう指示されたのかについて、何ら具体的事実を明らかにしているものではなく、本件記事1及び2を閲読した者は、被告が、原告の執筆したものは創価学会の主張に近い傾向を有するという評価を下しているということを認識するにとどまるというべきである。換言すれば、本件記事1及び2は、読者に対し、原告が具体的に創価学会から命を受けてその指示に従って記事を執筆しているものと認識させるような内容を有するものではない。
イ ジャーナリストの執筆したものは、他のジャーナリストや一般の読者から評価される運命にあるというべきであって、結果的に、執筆者の意向とは関係なく、対立する複数勢力のうちの特定の側を支持する傾向にある執筆内容であると評価されてしまうことも珍しくなく、また、そのような事態が生じてしまうことは、ジャーナリストという職種にとっていわゆる「宿命」ともいうべきものである。そして、執筆者が、自己の執筆内容について、自己の意に反する評価を受けた際にそれを改めたいと思えば、新たな執筆活動によって他のジャーナリストや一般の読者に働き掛け、自己に対する評価を変えていくよう努めるべきである。
ウ 本件記事1及び2の内容からすれば、被告がこれらの記事に原告に対するある種の悪意的な感情を含めたことはうかがえる。この意味で、被告が記載した本件記事1及び2の内容には、いささか不穏当な部分があることは否定できないが、本件記事1及び2が原告の社会的評価を低下させるものであり、かつ、それらの執筆行為が不法行為の要件である違法性を具備していると認めることは、困難といわざるを得ない。
エ したがって、請求原因(2)については、主張自体失当という外はない。
(3) よって、請求原因(3)については、判断を要しない。
3 結語
以上の事実によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

さいたま地方裁判所川越支部第2部
裁判官 柴崎哲夫

別紙1
謝罪広告
 本ブログの発行人である黒田大輔は、平成21年6月6日と同年7月14日、フリーライターの宇留嶋瑞郎氏について、同氏が「創価学会の御用記者(ライター)」であるとの記事を掲載しました。
 しかし、宇留嶋氏が「創価学会の御用記者(ライター)」であるとの記載はまったくの事実無根でした。よって宇留嶋氏に対する同趣旨の記載をすべて取り消すとともに、宇留嶋氏に対して心よりお詫び申し上げます。
 平成 年 月 日
 黒田大輔
 以上
別紙2
(掲載方法)
「謝罪広告」の4文字は20ポイント、その他は12ポイントで、トップページ題字の真下に囲み記事として掲示すること。
 以上


2009年12月27日:ページ作成。
最終更新:2009年12月27日 00:46