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「文化祭、か」
 男は、前日に枝島校長から配られたチラシを
 裏返したり、蛍光灯に透かしてみたりして、弄んでいる。
 他の教員がいない職員室に、紙の擦れる音がいやに響く。

「文化的さを競い合う、ねえ……」
 チラシを事務机に置き直した白衣の教師は、
 入れ替えるように、机に座っていた
 球体関節人形の少女を膝に乗せた。

「で、お前んとこは何すんだ」
 白衣の教師は、目の前に立っている黒い学ランを着た青年に聞いた。
「どうするって、まだ何も決まってないんじゃないかな」
「要領を得ない回答だな」
「だって、まだ始まったばかりだよ」
「……それもそうか」

 白衣の教師と青年の顔立ちは、
 気味が悪いほど――いや、同じと言っていいくらいに、そっくりだった。

 学生服の青年は、眉間に皺を寄せながら呟く。
「……面倒くさい。
このまま、逃げ切れたらいいのに」
 教師は、くつくつと笑った。
「お前らしいな、悪くない」
「笑い事じゃないよ」
青年の眉間の皺が深くなる。

 職員室の前から、元気な――を少し通り越した、力強い足音が聞こえる。
「……あーあ、見つかっちゃったかな」
 青年は諦めた声で、そう呟いた。
 勢いよく開かれたドアの先には、快活そうな女子生徒が立っている。
 彼女こそ文化祭企画のリーダーに選ばれた学級委員、その人だった。
「伊丹くん、また勝手にどっか行って!
出し物の相談、できないじゃないかッ」
 学級委員さんは、よく通る声で青年を責め立てる。
「……別に、僕がいなくても
出し物の話し合いくらい成り立つだろう。
僕のことは放っておいてくれ」
 青年は学級委員から視線を外して、まるで興味のないように言う。
「そういうわけにはいかない!
今回の文化祭はチーム戦だ! つまり戦いだ、
私たちは勝たなきゃいけないんだ!
頭数は多いほうがいい。わかるだろう?
さあ来い、私たちは勝利のためのプロジェクトを練らねばならない」
 青年は大きなため息と諦めとともに、わかった、と渋々承諾する。

 出口へと足を進めるふたりの後ろから声がかかった。
「ああ、今年こそ卒業できるといいな」
白衣の教師はにやにやと笑いながら、青年に向かって言う。
「……うるさいよ」
喉の奥から絞り出した、苦い声だった。

 学級委員の少女と、青年が職員室を出たあと、
「なかなか面白そうじゃないか、なあ。
……楽しいものに、なるといいな」
 教師はひとり――いや、彼にとっては、"ふたりきり"の部屋で呟く。
 その言葉と微笑みは、膝の上の、人形の少女に向けられていた。

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 登場キャラクター

 学級委員さん(Aクラス)
 伊丹(生徒)
 伊丹(教師)

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 初稿 : 2015/3/22 帽子屋

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最終更新:2015年03月22日 19:04