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「でね、出るわけよ……」
「うっそマジー?」
「こーわーいー」
 放課後の教室、お喋りに興じるモブ三人娘に近づく影があった。
「――何の話?」
 影、もとい青年は、どこか赤みがかった癖毛が特徴的で、整った顔立ちをしている。だが、どこか人を馬鹿にしたような雰囲気があった。
「m304さん!」
 訂正しよう。最大の特徴は名前かもしれない。どこか歓声めいた声をあげた娘に、柔らかく微笑みかけ、m304は改めて疑問を切り出した。
「で、何の話だったのかな? 怖いとか、出るとか……」
「今、噂の幽霊です!」
「幽霊?」
 ええ、と三人揃って神妙な顔つきになると、口々に話し始めた。
「放課後、教室に一人で残ってると、学生服を着た男子が出て……」
「誘うんですよ。”百物語をしよう”って……」
「そして、その誘いに乗ると……」
 ほう、と浅く頷いたm304に向かって、三人娘は声までも揃えて言う。
「どこか異次元に連れて行かれちゃうんです!」
 怖いでしょう? と目で訴えかける三人娘に、m304はにこやかに言の葉をかけた。
「で、異次元に連れて行かれた人はどうやってその話を伝えたのかな?」
 ぶち壊しである。あっけにとられた三人娘は、言葉をつまらせる。空気が途端に緩んでしまった。
 その様子に、m304が吹き出す。微笑みは絶やさないまま、一人の肩に手をかけて
「ごめんごめん、意地悪だったね」
 あっけらかんと謝罪した。その言葉に安心を覚えたのか三人娘は笑い出す。
「もー、ひどーいm304さん」
「でもそうだよね。なーんだ」
「だから私言ったじゃーん。ただの噂だって」
 だよね、と全員で笑い合う。それはたわいもない、ありふれた放課後の光景だった。

「……幽霊、ねえ……」
 娘たちも解散し、誰もいなくなった教室において、机の縁をなぞってm304はひとりごちる。
「面白そうじゃないか」
と、彼は笑んだ。



 黒髪の少女が廊下を走っている。普段ならば止める教師がいるのだろうが、周囲には人気のない教室が不気味に並んでいるだけだ。今は放課後、それも夕暮れが薄闇に差し掛かろうといった時間である。
 少女――m310は、通りがかった同クラスの少年に声をかける。
「ミハエル。m304兄さんを見なかった?」
「ああ、あの……見てない」
「……そう」
 あの、の間には女たらしとか不良とかそういう言葉なのだろうが、今は気にしている場合ではない。
 少女には両親がいない。いるのは兄、m304一人だった。どんなに性根が腐っていても自分にとってはたった一人のきょうだいだ。少女は焦っていた。

 ――兄が失踪した。

 荷物をおいていることを不審に思い、迎えに行けば教室には影も形もなかった。妙に不安になった。無断外泊はしょっちゅうなのだが、今回は様子がおかしい。財布も置きっぱなしだ。立ち止まってあたりを見渡す。いない。
「待って」
 ミハエルが声をかけながら追い付いてくる。
「……どうしたの」
 少し間を開けて、m310は答えた。
「いなくなったんだ。どこにも……見つからなくて」
 少女は言葉少なに答える。表情は冷静に見えながらも、混乱していた。髪も制服のリボンも乱れている。
「……探すよ」
 その様子に、少年は思わず言ってしまった。
「……いいの?」
「暗くなるまでなら」
 まあ、しっかり条件はつけたのだが。

+++

 登場キャラクター

 モブ三人娘(Bクラス)
 m304(生徒/3年)
 m310(生徒/1年)
 ミハエル(生徒)
 ???(噂話)

+++

 初稿 : 2015/3/23 池永マサモト

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最終更新:2015年03月23日 19:10