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網野善彦

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異形の王権

481 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2005/11/09(水) 01:35:06
「異形の王権」網野善彦 平凡社

絵巻に残る異様な服装・小物から「神と人のあいだに立つ者」の姿を構想した「異形の風景」
婆娑羅、覆面姿の非人、乞食と乞食坊主、猟師、猿引き、童形、市女傘、扇、
「神の民」が「道道の者」となり「まつろわぬ者」と化してゆくさまを網野善彦はあざやかに注視する。
ジブリ「もののけ姫」がいかに多くの中世日本ガジェットで成り立っていたかを知った。

引き続きミノ・カサ・ハチマキなど異形の衣裳を考察する「異形の力」
一揆に加わる者が「神と人のあいだに立つ者」となる過程に注目し、
考察は飛礫(つぶて)を兵器とする「印地打ち/石打ち」へと進む。
一揆の印地、祭りの印地、京白河の印地戦団、島原の乱、戦前朝鮮の石戦(トルサム)などに言及するが、
それ以上の追求がないのが惜しい。飛礫を扱った和風ファンタジーなどあればぜひ読みたいところ。

そして網野善彦の筆はいよいよ冴え、ついに終章「異形の王権」へと突入。
「皇族以外が天皇位につくかもしれない」古代以来最悪の状況に達した王権のゆるみ。
東国及び九州をがっちり把握し、西国にも支配の手をのばす幕府の攻勢。
14世紀はじめ、天皇家は未曾有の危機にあった。
これに対し後醍醐帝は、日本を絶対的な天皇専制国家と化して対抗することを決意。
悪党武士団、非人集団、貿易力、無数の綸旨(りんじ)、神仏、悪魔調伏、タントラ秘法、
まさに動員できるあらゆる諸力を動員して立ちあがった!

だが後醍醐帝の賭は失敗に終わる。
そして彼が動員した諸力は天皇の権威とともに失墜し、
その失墜の結果は今なお現代日本を色濃く覆っているのだ……というお話でした。
和風ファンタジーを書こうという人間なら読んでおいて損のない一冊。9点
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