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グラント・ネイラー

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zgok0079

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宇宙船レッド・ドワーフ号

416 名前:名無しは無慈悲な夜の女王[sage] 投稿日:2007/07/04(水) 02:26:19
『宇宙船レッド・ドワーフ号 1』 グラント・ネイラー 河出書房新社

イギリスで放送されたコメディーを、脚本家自らがノベライズしたもの。

TVで見た人は承知の通り、救いのない設定とは裏腹に、とても馬鹿げた話だ。
でっかい船で男とシミュレート人格と人工知能と猫人が繰り広げるドタバタ劇。
溢れる下ネタ、ブラックジョーク、SFガジェット、テンポのよい会話……全くもって素晴らしい。
だけど根底に深く流れているのは、失ったものを無理だとわかっていながらも追い求めてしまう
人間の情、切なさ、やりきれなさだと思う。リスターは故郷と恋人を、リマーは肉体を、
ホリーは知性を、クライテンは存在意義を、キャットは……まあ猫は猫だ。

正直泣いた。そんなアホなと思うかもしれないが、通しで読んでボロ泣きしてしまった。
登場人物にリマーという馬鹿で無能でヘタレで嫌味な人格破綻者がいて、
そいつの引き起こす数々の阿呆やらどうしようもない過去やらが、いちいち自分と重なったからだ。
最初はなんて嫌な野郎だと思っていたが、読み進むうちに他人とは思えなくなった。
つまり自分は嫌な野郎なんだ。それに気づいた時のリマーの内省は、涙なしでは読めない。
その後のガスパチョスープのエピソードがまたやるせない。

だけど主人公のリスターは、そんなことはなんてことないんだと笑い飛ばしてくれた。
そこで救われた。すごく安心した気分になった。

で、問題のあのラスト。おいおい、作者、そりゃないよ。あんまりだ。
銀河ヒッチハイクガイドの5巻ラストを読んだ時のような、ひどく虚無的な読後感に襲われた。

でも希望はある。なぜなら続きがあるからだ。これはもう読むしかない。

426 名前:名無しは無慈悲な夜の女王[sage] 投稿日:2007/07/06(金) 01:07:11
『宇宙船レッド・ドワーフ号 2』 グラント・ネイラー 河出書房新社刊

前作未読の人は初っ端から状況理解に苦しむと思うので、必ず前作を読もう。

物語の始まりは「ベター・ザン・ライフ」。接続した人間の願望を仮想世界に反映させる
サイバーゲームだ。一度没入したら二度と抜け出せない。ゲームは「人生よりも素晴らしい」。
接続した人はこれが本物の人生だと思うようになる、というのがゲームの仕様なのだが、
登場人物たちはこれがゲームであることを知っている。あえてゲームに没入している。
外にあるのは厳しい現実。人類は死に絶え、300万年が経過し、船の外は無限の虚空。
そして宇宙には人類以外の生命体は存在しない……。現実の身体は衰弱していくが、それがどうしたというのか。

そこでリマーの登場だ。彼の腐りきった性根によって、栄光に満ち溢れたゲームが
ことごとくぶち壊されていく過程は爆笑必至。ばらばらに見えていたエピソードがぴたりとはまり、
壮大なボケとなる様は非常に心地いい。ゲームを抜け出た後も迫りくる危機また危機。一気に読み進んだ。

本書は「帰る」物語なのだと個人的に思う。全てが収まりゆく話。
かつて失った存在を、何か別の行為、別の存在によって埋めていこうとする彼らの
姿は時におかしく、痛々しく、切なく、美しい。
リスターが交わした地球との契約、ホリーの知性復活、クライテンの存在意義、
リマーの(時々見られる)人間的成長、そして最大のSF大仕掛け、時間遡行。
キャットは相変わらずキャットで、新キャラのトーキートースターとともにいい味を出している。

滅茶苦茶にぶっとんでいる内容だが、テーマは人の内をじっくりと見すえたものになっている。
ラストはとても感動的だ。涙腺の弱い自分はかなりきた。
リスターの未だ来ぬ過去が明るいものであることを、仲間と再びあえることを、
そして地球が無事に時間を遡っていくことを、祈らずにはいられなかった。
(地球にとっては未来より過去の方がいいのだ。理由は読めばわかる)

とにかく拍手喝采の一冊。ありがとう、グラント・ネイラー

10点

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