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マーガレット・アトウッド

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匿名ユーザー

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侍女の物語

610 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2005/05/04(水) 01:05:25
マーガレット・アトウッド「侍女の物語」 8点

福音主義勢力がクーデター起こした未来?のアメリカの話。
1985年執筆だから、作中の時代もそれくらいか?
男は「司令官」(指導者)、「天使」(軍人)、「保護者」(軍人補)にわかれて全てを司り、
女は「妻」「娘」「女中」「侍女」のいずれかとして男たちに奉仕する、暗い雰囲気の社会。
主人公は侍女オブフレッド。「フレッドのもの」という意味。
妻がうまずめの場合(正統教義では男は不妊の責任を負わない)、司令官・天使は侍女を与えられる。
生物学的なクライシス直後らしくて、出生率はガタ落ちで、奇形児誕生率も四分の一。
この神権国家ギレアデにおいてはすべてが出産のためにできているらしい。
クライシス直後の「非常措置」だったのが、知らず知らずのうちに定常化してしまったようだ。
この辺のなしくずし感がヤバイ感じに出てます。

オブフレッドはクーデター前の学生時代、新婚時代を覚えている世代。(四十歳くらい?)
回想シーンがひたすら痛い。
三人目の男の家に配属されてきたオブフレッドは、そこで前の侍女が自殺したことを知る。
同居する妻との抜き差しならぬ関係が読ませる。
男の読者として、司令官の「そういうのじゃなくて」「真剣なキスを」
ていう台詞がむっちゃリアルだった。
リアルといえば、バターを盗んでクリーム代わりに使うエピソードは秀逸。

開かれたエンディングには異論もあるだろうけど、俺はまああれでいいかなと思うクチ。
そんかわり巻末の「歴史的背景に関する注釈」は蛇足だと思った。
「イランをモデルに、米福音主義勢力でもって外挿してみましたー」ってネタバレしてるし。
「結局イランorムスリムに対する伝統的偏見が根にあるんじゃん?」っていう嫌な感じも受けた。

あと斎藤英治の解説はよかったけど、落合恵子の解説イラネ
マーガレット・アトウッドのことなんかどうでもよくて、
この作品ダシに自分の言いたいこと言ってるだけの駄文に読めた。
フェミニズム的匂いのする作品を忌み嫌い、矮小化することが特異な文学の世界で、
これだけ緻密にしてスリリングで深い作品を完成させたアトウッドは、
いまこの時代をどう読み解くのだろう。
とあるけど、
まさにうちらが愛してるSFはこのフェミニズムの分野で大きな貢献をなしとげてきたし、
(アーシュラ・K・ルグィン、エリザベス・リン、アン・マキャフリイなどなど)
そうした先達や同時代作家をまるで無視してアトウッドを評価する姿勢には大いに疑問あり。
んでもって「フェミニズム的匂いのする作品を忌み嫌」われたくないなら、
まず自分のそういう中途半端フェミニストぶりに眼をやってほしいと思った。
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