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虹村那由多の奇妙な日常-第4編

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orisuta

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私はショコラーデ・フォン・シュトロハイム。M県S市杜王町のぶどうが丘高校に通うドイツからの留学生。
今、私は地元のレストラン『トラサルディー』で、お友達の虹村那由多ちゃんと一緒にウェイトレスのアルバイトをしている。
異文化の中での生活は大変だけど、それでも毎日がとっても楽しい。今日は、そんな毎日のある一コマをお話しするね。

**

「俺の娘は今日も世界一可愛いじゃねぇかよォ~!」
「ああもぉ、父さんは早く食べて帰ってってばぁ!」
今日も那由多ちゃんはお店に来たお父さんを怒鳴りつけている。
とはいうものの、無理やり追い出したりするどころか、冗談でも手を出したりなんかはしないで、文句を言うだけなんだよね。
それどころか、こっそりトニオさんに頼んでお水やおかずの量をサービスしてもらったり、受け取る値段を微妙に安くして、その分をお給料から天引きしてもらってたりする。
お父さんは毎日来るから、結構バカにならない出費なんだよね。それでもやってるんだもの、口ではなんだかんだ言いつつ、仲は良いんだよね。やっぱり、親子だからなのかな?

「あー、まったく父さんはなんでああなのかな……。娘の私の方が大人びている気がするぞ」
もう店仕舞いの時間だ。私が、自分のスタンドで机をきれいにしている後ろを、トレイを下げながら那由多ちゃんがぼやいてる。疲れてきてるのか、大きく息を吐きながら、肩をトントン叩いてる。
「お疲れさまー。それにしても、那由多ちゃんって、お父さんと仲がいいよね」
「!!?」
あ、那由多ちゃんがトレイを落としかけてあたふたしてる。乗っけてる皿やコップが今にも床に落下しそうだ。
ドジョウ掬いみたいな動きをした挙句、何とか皿を割らずに済ませた那由多ちゃんは、
「ん、んな訳あるかァッ!!!」
と照れていた。
「照れてない! だから、どうしてそうなる!」
「えー? だって、なんだかんだ言って那由多ちゃんはお父さんに優しいじゃない」
私が、いくつか例をあげていくと、那由多ちゃんの顔は面白いくらいに青くなったり赤くなったりを繰り返す。どうやら、図星みたい。
「ほら、こんなに証拠があるんだから、ごまかせないよ? 口ではツンツンして、裏ではデレデレしてるけど、もしかして、『パパのお嫁さんになるのが夢なの』とか?」
「誰にでもある、ちっちゃい頃の黒歴史を高校生になってまで引きずる訳ないから!」
……ちっちゃい頃の夢だったのは否定しないんだ。
「……こほん。私はな、別にツンデレな訳じゃないんだぞ。ただ、単に素直になれないお年頃だけど、親に感謝しているだけなんだからな!」
世間的には、それをツンデレというんだけどな。
「だから、ツンデレじゃない! 私が、こういう風にやってるのにはちゃんとした理由があるの!」
そう言って、那由多ちゃんは問われもせぬままに語り出した。……パパ自慢を。
 
 
 




**

「弓道具一式は8~90000もするのかー……。『トラサルディー』でバイトをすることにしたけど、きついなぁ」
私は、部活見学を終えて足早に歩いていた。入学したばかりだから、今日は早く帰れる。
弓道部に入部するつもりではあるが、道具が結構高いのが悩みの種だ。3人姉弟の学費で大変な親にはあまり負担はかけたくないから、自分でどうにかしたいけど、厳しいかもしれない。
「一つ一つ買っていくしかないかなぁ……んん?」
ぼやいていた私は、家路の途中で、見覚えのある作業服姿が公園のベンチに座って酒をあおっているのを目にした。
間違いない、あれは父さんだ。人が、お金の問題で悩んでいるというのに、真昼間から仕事をさぼって飲酒かよ。
これは、ちょっとばかしお仕置きせねばいかんだろう。
「リトル・ミス・サンシャイン投手、大きく振りかぶって……投げたァッ!」
私は、発現させたスタンドの持つ太陽電池を投げつけた。もちろん、出力は最低にまで抑え込んでるから、火傷もしないだろうけど、驚かすには十分だろう。
「うおっ! あぢぢぢぢぢぢっ!」
よし、顔面に命中! ベンチから父さんは転がり落ちた。さて、詰問してやんないと!
「熱いじゃないわよ! 真昼間から何やってんのよ、父さんは!」
物陰から姿を現した私に、父さんは最初はきょとんとした目を向けたが、見る見るうちにその顔がしょぼくれていく。
「とうとう見つかっちまったか……。なあ、那由多。父さんよぉ、実は3ヶ月前に勤めていた工場をクビになっちまってなぁ……。
『あんたには学歴がない、頭も悪い。この不景気にはそんな人まで抱える余裕はない』だとよ……」
私は、自分の表情が引きつり、顔が青ざめていくのを覚えた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなそぶり、家じゃ全く見せなかったじゃない!」
「いんや、かあちゃんや恒河沙は気づいてたみたいだぜ?」
……そう言えば、最近母や姉が父さんに普段以上に優しく接していたような気がする。
「で、でも、生活費はどうしたのよ! 特に、お金を切り詰めてる感じはなかったじゃない!」
「おお、そっちは心配いんねーんだ。SPW財団の仕事を引き受けて、金を払ってもらってるからよォ。笑えねぇ話だぜ、クビになってから却って収入が増えたってのはよォ。
でもなぁ、そいつも毎日あるってわけじゃねぇ。だから、仕事がねぇ時はここで一日時間を潰してたんだよ……」
「…………」
私は、何も言えなかった。父さんの苦労を知らないで、入りたい部活の事ばかり考えてた自分に腹が立った。
 
 
 




「あの、さ……。父さん、私、部活入るの、やめるよ。バイト代、ちょっとは家計の足しにしたいし」
「心配はすんな。親子5人を食わせるくらいの金は、このままでも稼げるからよォ。オメーは、自分のしたい事をやれや。
でもな、那由多。これだけはいっとくぞ。オメーは俺みてぇなバカじゃねぇ。むしろ、頭はいい方だ。
だから、ちゃんと勉強して、いい大学に入れ。で、政治家になれ。なって、いい生活をしろ。
政治家ってのは、何やってんのかしんねーけど、『鳩の頭を取り付けたり』、『削減したり』、『ランボーを呼び出したり』とか、すげえスタンドを持ってるやつらがなれるんだからよ。
オメーのスタンドなら見込みはあると思うぜ。いいか、那由多。平穏な生活ほどありがてぇもんはねぇんだからな?」
途中ものすごい勘違いをしていたが、私はそれを突っ込もうとはしなかった。父さんの言ってることは、あまりにも正しく感じられたからだ。
「平穏な生活ってのはよぉ、つまんなく思えるようだけどな、死ぬほど大変な目に遭えば、その大切さが身にしみてくるもんなんだぞ?
俺はよォ、実のところ工場で働く方が、給料は安いけど今の生活よりもよっぽどいいって思ってるぜ」
「…………、父さん。さっきは、ごめん」
気にしてねーよ、父さんが手を振ったその時だった。
「おい、億泰ゥ! 探したぜぇ、オメーを雇ってくれるところが見つかったぞ!」
「金属加工の工場を経営しているおじいさんなんだけどさ、丁寧に金属を削れるスタンド使いが欲しかったんだって!」
私にとっても顔なじみの、父さんの昔からの友達が息せき切って駆け付けたのは。

**

「……とまぁ、そういうわけで私は父さんにあんまり強く出ることが出来なくなったのよ」
話を終えた那由多ちゃんは、どことなく誇らしそうだった。ただ、それに自分でも気がついたのか、顔をちょっと赤くして足早に歩いていく。
「さて、と。片づけを早く済ませないと。私はいいかげん帰りたくなったぞ」
そんなことを言いながら。
私は、那由多ちゃんの背中に目を向け、ニコニコしながらこう呟いた。
「素直じゃないなぁ、那由多ちゃんは」
 
 
 



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