テスト中

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

譲 04/08/13

  席を譲られたなら速やかに座りたまえ。

  バスは嫌いだからあまり乗らないのだが、電車は割に活用する。根拠のない大荷物を抱えた傍若無人な中年を見ても何とも思わないが、妊婦や子供連れには出来得る限り席を譲るようにしている。通常混雑していなければ容赦なく座席の端に座るのだが、大抵は無理して座らず昇降口近辺に凭れ掛かって何かを読んでいるのであって、つまり座っている時はほぼ必ず座席の端に居る。

  昇降口のすぐ横であるから何処かの駅で新しく乗ってきた人が乳母車でも押していたならば、譲ったと思わせないよう立ち上がり何処かへ移動するのであって、しかしある程度込んでいる場合は移動叶わずその辺りに所在無く立ちつつ「まあ座れや」の意味で軽く頷いてみせると、何度か会釈しながらなかなか座ろうとしない。

  座れ。ええからはよ座れや。席を譲られた際には速やかに座ることが譲った者に対する最高の返礼なのだから、照れか遠慮か周囲への困惑か知らないが座ろうとせずに立ったままでいられてはこちらが当惑するのであり、譲り甲斐のなさを身に染みさせられると以降譲ろうとする気持ちが萎むのだ。

  譲られて当然といった風情でどかりと座られても困るのだが、今のところ平均的日本人にそのような馬鹿のいないことは喜ばしい。喜ばしいが過剰な遠慮は譲る側も譲られる側も見ている側もそれぞれ靄々とした感情が鬱積するのだから、他意のない素朴な厚意を気兼ねすることなく受け取りなさい。そして別の機会に別の誰かに素朴な厚意を返せばよいだけの話だ。厚意の鎖を喰い止めるなど人として許されないことだよ。

  腹を一時的に大きくしている女性の場合、そのあたりの呼吸は馴れたもので「譲る者起立して会釈、譲られる者会釈して着席」の洗練された一連の美しい流れが構成される。これを一度でも目にしたことがあるならば、是非思い出して譲った者に対する礼儀として速やかに座りなさい。目の前にきた老人が杖を持っていたならば逃げるように立つが、杖を持たない老人が目の前にいた場合譲らないのであって、その理由は「健康なら長生き出来るだろうから」と長寿を祈る優しさを持っているからだ。
 
TOTAL ACCESS: -  Today: -  Yesterday: -
LAST UPDATED 2024-05-06 00:15:10 (Mon)
 
記事メニュー
人気記事ランキング
目安箱バナー