お伽さんは囃し立てられたい

『お伽さんは囃し立てられたい』


お伽さんには、願望がある

目覚ましのベルで目を覚まし、「あと5分だけ・・・」と著しく低下した思考能力でぼんやりと睡眠のおかわりを要求する

偉大なる母が作ってくれる朝ごはんを口に運び、もうちょっとましな立地条件で建設しようという優しさはなかったのか?と疑問に感じながら我が学び舎へと足を進める

教室に入れば、すごくどうでもいい話を延々と振ってくる慈しむべき旧友たち


「ねえねえ、昨日のドラマ見た? 久々に当たりの月9だよね~ 視聴率もすっごくいいらしいよ!」


知らん お伽さんは視聴率などというまるで親しみのない数値に興味は無い

そうこうしている内に始業の鐘が鳴る

我々学生の大切なお仕事、勉強だ

授業は実に退屈である 退屈であるが、授業中に寝るのは必死に授業を進めてくださる先生方に失礼無礼というもの

礼節をわきまえた紳士なお伽さんは、「授業を聞いているふりをして別世界に飛んでる系男子」を演じる

「あいつ真面目なのに、テストの点は意外と低いよな」

このような評定を受ける生徒は、概ねこの「別世界に飛んでる系」に属しているといって間違いない

外部から目に見えない分、素行不良な生徒よりも悪質だろう

まあ誰にも迷惑をかけていないし、自己責任という言葉もあるので大目に見て頂きたいものだ

そんなこんなで終業の鐘が鳴り響き、途端にこの建物は騒がしくなる

足早に帰路につく者、部活動という学生の真っ当な任務をこなす者、ちゃらちゃらといちゃいちゃと青春を謳歌する者

お伽さんも例に漏れず、足早に故郷の我が家へと歩を進める

お伽さんの貴重な一日はこんな具合に過ぎていく

変化も、驚きも、変貌も無い

ただただ同じ事を繰り返す毎日・・・

さて、冒頭にも述べたがお伽さんには願望がある

 

『お伽さんは囃し立てられたい』

 

 

第一話 『日常』


人狼高校は今日もすこぶる平和で安寧だ

今日発売された週刊少年誌では、どのページを開いても刺激的で退屈しない世界が広がっている

この紙とこの世界にはどれほどの隔たりがあるのだろう・・・

つまりお伽さんは何を望んでいるのかというと、『非日常な体験』がしたいのだ

世界の物理法則をねじまげて、悪の秘密結社と手に汗握る戦闘がしたいのだ

たくさんの美少女に囲まれて、ハーレム生活を送ってみたいのだ


「なんとかなりませんかねえ」


「分かるンゴwww ワイもそういう妄想を寝る前とかにするンゴゴwww」


ンゴンゴ言ってるコイツは「鬼寺(おにでら)」 下の名前は一回耳にした事があったような無かったような


「けど、仮に“非日常”へ連れ去られたとして・・・その時にお伽君は思うンゴ」


コイツと付き合って(恋愛感情的なアレではないぞ)1年近くになるが、語尾が語尾なだけに会話のテンションがよく分からない


「ああ、やっぱり“日常”がいいンゴ・・・(ばたりンゴ)」


勝手に旧友を殺さないでくれ それと擬音語はンゴンゴ言わないと思うぞ


「えー じゃあお伽君は超能力とか宇宙人とか信じちゃうタイプの人なのー?(・ω・)」


長くて真っすぐな黒い髪を三角筋の辺り(どんな形容語句だ)まで伸ばした彼女の声が頭一つ分下の位置から聞こえた

じっと吸い込まれそうな大きな瞳・・・いわゆる「美しい」よりは「可愛い」、「妖艶」よりは「華奢」なのだろう

ちょっと褒めすぎたか “まあまあ可愛い”ぐらいにランクダウンしておこう

別にオカルトマニアではないが、いたら面白いだろうなー とは思うし、そういう代物をテーマに扱った漫画やアニメは好物だ


「ふーん(・ω・)」


感情の起伏が読み取りづらいその顔をやめてくれ


「もしもさあ、この学園中が超能力に目覚めたらお伽君は真っ先にやられるタイプだよね(・ω・)」


どういう因果で小馬鹿にされているのか

まあ確かに、主人公なタイプではないだろう

お伽さんはアレだ 仮に学園中が超能力に目覚めて悪の組織との戦いの幕が切って落とされる事になったらその戦いに巻き込まれるチョイキャラだ

アンパンマンでいうカバオ君的ポジションだ

別段目立つ訳ではないが、物語のアクセントとして必要な存在・・・直接被害を被らない分、都合がいいというものだ

いや、流石にカバオ君はチョイキャラすぎないだろうか? もうちょっと背伸びしても傲慢ではない気がする


「このクラスを題材にするなら・・・主人公は“あの人”ンゴねえ」


ンゴンゴ言ってるコイツは、“いい奴なんだけど、終盤になると空気化してる”キャラだろうなあ

と割と失礼な事を思いながら、「そうだなあ」と相槌を打った


容姿端麗、頭脳明晰、運動万能・・・絵に描いたような“完璧人間”ってリアルで結構いたりするよな?

お伽さん達が“主人公”と銘打った彼は、所謂“完璧人間”だった


・・・いや、解説しただけで会話に入ってはこないけどね 席遠いし


キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン


他愛もない会話に身を委ねていると、安息の終わりを告げる号砲が鳴り響いた

次の授業「LWになった際の戦術と心得」の時間だ

これはしっかり板書しとかないとな・・・もうお伽さんの頭の中には、超能力とかキャラ付けとか主人公とかカバオ君とか、

そんな記憶はどこにも残って無かった

どれだけ強く望んでも、全く望まなくても“日常”は変わらない

さあ、今日も これからも “日常”を歩いていこう――――――――――――

 


「あれ? 私の名前紹介しそびれた!?(・ω・)」

 

 

第二話 『接触』

 

「┌(^o^┐)┐ホモォ...」


お伽さんの思考回路は急速に縮小し、やがて止まった

と同時に、時も止まった

再び時が動き出した時、その場は何とも形容し難い雰囲気に包まれていた


「リアクションが欲しいよねwwww」


盛大に草を生やしながら笑いかける彼女

今、お伽さんの周囲では圧倒的な情報不足の波が渦巻いている


「1つずつ状況を整理するンゴ」


・放課後の教室

・いつもの愉快なメンバー ワイ鬼寺、お伽、林ちゃん

・談笑を楽しむワイらの目の前に突如現れた┌(^o^┐)┐

 

「箇条書き 有能(・ω・)」


その箇条書きでさらっと名前を紹介されたが、それでいいのか林

 


「ご紹介に預かりました、新キャラの詩音です┌(^o^┐)┐」


困ったな これは手に余るタイプのキャラだ


「詩音ちゃんは同じクラスやから、新キャラというのもおかしな話ンゴねえ」


何ということか 今まで知らなかったぞ、おい

4月も終わりに差し掛かってるのに・・・


「実はね、今日ここに来たのは“ある目的”があるからなんだ┌(^o^┐)┐」


何だろう すごく怖い


「・・・お伽君┌(^o^┐)┐」


まさかのご指名 嘘だと言ってくれ


パチパチパチ


そこの二人、拍手をやめたまえ


「というわけで・・・来てもらうよ、お伽君!┌(^o^┐)┐」


えっ


シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


慌ただしく扉が閉められ、教室は静寂に包まれた・・・のだろう

知らん お伽さんは絶賛拉致られ中だ


「四足歩行って速いね(・ω・)」


「青春やなあ(すっとぼけ)」

 

廊下を疾走し、階段を落下しながら校舎を駆け巡る一組の男女

周囲には何とも奇怪に見えたことだろう

どこに向かっているのかと思ったが、どうやら今は使われていない旧校舎を目指しているようだ

 


「任意同行、感謝します┌(^o^┐)┐」


一応否定しておこう 決して任意ではない 強制だ


いきなりでごめんだけど・・・と詩音と名乗る彼女は改まった顔つきで向かい合った

どうやら本題に入るようだ


「実は私・・・ホモなんです┌(^o^┐)┐」


うん 知ってた


「ちょっとwwww ここ笑う所だよwwww」


お伽さんが通勤ラッシュの電車で窓の外を眺めるやつれた中年サラリーマンの如き表情で彼女を見つめていた為、二人の温度差が大きく開いている


「実は私・・・超能力者なんです」


ホモの構え(→┌(^o^┐)┐)をしてない所を見ると、どうやら本気らしい

断じて信じないが


「それで、君にも超能力の素質があるんだよね いや、私は知らないけど“上の人”があるっていうから・・・」


ひとまず黙って話を聞く事にした


「というのも、私たち超能力者は世界中にいるんだよね 実際どのくらいいるかは私も知らないんだけど」


「大体の超能力者たちは“ある組織”に所属してるんだけどね」


「所属してるというか、組織からスカウトされるんだ you、超能力やっちゃいなよ! みたいな つまり今の君がおかれている状況だよ」


「まあ中には個人で勝手に覚醒、その後も1人で活動する超能力者もいるんだけどねー」


「その組織ってやつも複数あって・・・実は互いに対立してんだよね」


「だから“新しい超能力者”は各組織で奪い合いってわけ 君の所にもその内他組織からスカウト来るかもね」


よく喋る人だなあ と思いながら、改めて詩音と名乗る彼女を観察してみた

整った顔立ち、サバサバした性格 異性からも同性からも好かれそうな、そんな印象だ

ホモホモしいのと、超能力とか口走らなきゃ絶対モテるんだろうな

所謂「ちょっと残念な人」ってやつ?


「・・・聞いてる?」


聞いてない 正直聞いてない


「その反応だと、信じてないでしょ 私の事~」


草むらから飛び出した野生のポケモンみたいな「ホモモンスター」を信じる奴などいるものか

ましてここは「人狼高校」だぞ


「まーファーストコンタクトとしては合格点かなっ」


何をどう判断すれば合格点を与えられるのか


「これから長い付き合いになると思うから・・・よろしくねっ┌(^o^┐)┐」


丁重にお断りしたかったが・・・笑顔で笑いかける彼女を見てると、とても断る事は出来なかった


何だろう 多分いい奴なんだろうな ・・・多分

 

 

 

 


第三話 『変化』

 


退屈な授業が今日も終わり、後はマイホームにリバースするだけのミッションだ

だが、今日のお伽さんにはもう1ミッション残されていたようで・・・


「ねえねえ、君 お伽っていうんでしょ?」


校舎の下駄箱、すなわち玄関口で不意に声をかけられ振り返ると、初対面の女性がにやりと笑いながらこちらを見ていた

何か悪だくみを考えているような、小悪魔チックな笑顔

これは男をたぶらかすタイプの女だな・・・と思いながら、極めて平静を装い「ああ」と気のない返事で出迎えた

何となく、嫌な予感がしたからだ

そしてその予感は見事に的中する事となる


「ちょっと2人きりで話したいんだけどさぁ」


告白・・・って感じの雰囲気は醸し出してないな

まあお伽さんが見ず知らずの女性に突然告白されるはずもないが


「告白ンゴ?www」


「にやにや(・ω・)」


予想を微動だに外さないリアクションに感謝すべきなのだろうか

取り敢えず先に帰ってくれ また明日


流石に空気を読んだのか、そそくさとその場を離れる二人の後ろ姿を見てため息をつく

そんなんじゃないんだろ? と目で訴えかけると


「★」


ウインクで応えてくれた

可愛いってのは罪だなあ


何でも他人に聞かれたらまずいと言うので、場所を移すことにした

念には念を、今はもう使われていない旧校舎で話をする事となった

 


それから数分後、掻い摘んで説明すると


1、私の名前はキノ

2、私は超能力者

3、私が所属する組織「白ノ会」に加わって欲しい


つまり昨日の怪しい宗教勧誘と全く同じ展開という訳だ

ああ、時間がもったいない


「お伽君には超能力の素質がある・・・君は選ばれし“勇者”なんだよ!?」


その台詞、24時間前にも聞いたぞ

上の空で話を聞くお伽さんを目にしても、なお諦める事無く説得を試みる

意外と根性のある奴だ

 

「超能力ですよ?」


最近の流行みたいなノリで使うもんじゃないぞ、その言葉は


「人類は海に潜り、空を飛び、目に見えない現象を解き明かし、想像の力を創造の力に変えてこれまで“進化”してきたんですよ? どうして超能力だけ信じないんですか?」


その後十数分、お伽さんは三角関数の公式の関係性を誰もが知ってる常識であるかのように、延々と説明する数学教諭の如き彼女の言葉に耳を傾ける羽目となった


「・・・どぅーゆーあんだーすたん?」


オー アイドンッノゥ とでも言えばいいのか?

常識ある日本男児であるお伽さんには理解の範疇を超えたお話のようだ


「実際に見せれば信じるのかなあ」


実演出来るのならば初めからそうして頂きたい

彼女には百聞は一見にしかず との諺を贈り捧げたい


「じゃあいきますね~」


そういえば、昨日のホモモンスターは自らが超能力者である“証拠”を見せなかったな

実際に見れば、男お伽 不可思議なる超現象も認めざるを得ないだろう

今、お伽さんは歴史の生き証人となるのだ・・・

不安と期待が入り交じり・・・


「あれ~? 何してるの二人とも~?(・ω・)」


もどかしいほどいいタイミング、いやお伽さんにとってはグッドタイミングというべきか

ぴょこぴょこと廊下を歩く彼女の姿を確認すると、自称超能力者は軽くため息をつき


(また今度・・・ね)


とお伽さんの耳元で囁くと、後はもうそれっきりだった


「ねえねえ、告白されたの?(・ω・)」


としつこく食い下がる彼女の問答をさらりとかわしながら家に帰る


ようやく分かれ道だ


「明日詳しく教えてね!(・ω・)」


そう言って手を振りながら遠ざかる彼女を見つめ、ふと思った


あれ? なんでグッドタイミングガールは“あの場所”にいたんだ・・・?

 

 

 

第四話 『現実』


寝れない 不眠症だろうか

冷静になって考えれば、おかしい事に変わりない

いや、冷静になるべく頭を冷やさなくともおかしな状況に変わりはなかったはずだ

勿論、お伽さんは例の自称超能力者たちの妄言をこれっぽっちも信じちゃいない

信じちゃいないんだが・・・

 

 

「こんばんはー」

 

お伽さんは時計に目をやる 「2:30」

妖怪も眠る深夜だ

お伽さんは瞼を閉じ、快眠の誘いへと・・・

 

「こんばんはー」

 

誰だ!!?

 

「あ、やっと気づいてくれましたねw よかったですw」

 

お伽さんの家で、お伽さんの部屋

お伽さん家は一軒家 お伽さんの部屋は二階

「住居不法侵入」という言葉が脳裏に浮かんだ次の瞬間・・・


「会いたかったです・・・ずっと、ずっと」


人違いだろうか というか言葉のキャッチボールを要求する


「あっ 自己紹介がまだでしたねw 私は桜っていいます!」


成程 私はお伽というんです それでは失礼します


「えーと、色々質問はあると思うんですが・・・」


ナチュラルにお伽さんの意見を無視していくスタイルのようだ


「超能力って信じます?」


ここからの流れは割愛させて頂こう

 

 

 


「あ~ 私が最後だったんですねw」


桜と名乗る彼女の話によると、超能力者を有する組織は大きく分けて「3つ」あるという

ホモモンスター、小悪魔、そしてこの桜・・・

どうやらそれぞれの組織の使い手が3日連続で接触してきたらしい

この上ない迷惑だ


「私がお伽さんの部屋に侵入出来たのも“私の超能力”なんですよ~」


なるほど・・・これは説得力あるな

流石の男お伽も超能力たる不可思議な現象を否応なしに否定出来なくなってきたぞ

要件は大体分かったが、なんでこんな真夜中に接触してきたんだ?

寝付けなかったからちょうど良かったといえば良かったんだが


「えーと、その・・・人狼してて・・・組織の接触任務を忘れてて・・・気付いたらもう時間なくて、みたいなw」


意外と天然なようだ

・・・ん? お伽さんの頭には「人狼」のキーワードが引っかかる

もしかして・・・


「えっ お伽さんも人狼高校なんですか!?」


顔つきが幼かったから年下かと思いきや、まさかの同級

クラスが違ったのが不幸中の幸い、といった所か


深夜に女の子との密会が親にばれたら、その後のお伽さんの家庭内社会的地位が危うくなるのでひとまずお帰り頂いた

気付けば時計の針は3時を回っていた

精神的な徒労がいい感じに睡魔を呼び覚ます

うつらうつらと眠りの門を叩く寸前、残された限りない思考領域でぼんやりと考えた

 

『日常・・・か』

 

そして、この日を境にお伽さんはありふれた日常に別れを告げる事となる

 

 


囃し立てられたいお伽さんが魅力的な女性たちと繰り広げる非日常系学園超能力ハーレムラブストーリー!

そして次週、遂に「女神」がお伽さんの前に現れて―――――――――!?