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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】単発-VeryBadEnd

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orisuta

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~桜色の立法府にて~

「…………ッ!!!」
激痛に、発現させていたスタンドが薄れていく。床に膝をついた彼女は、肩口から広がる灼熱の感覚に、顔を歪め、掌に力を込めた。付け根から切断された片腕の傷口を押さえつける指と指との間から、噴き出す血液が滝を成していた。
「声も出ないほど痛いのか? その苦痛を、君は他人に与えてきたんだぜ? どこぞの拝金弁護士どもが議論するTV番組でも、4人どころか司会までが『正当防衛』と太鼓判を押してくれるほどさ」
女の腕を切り落とした張本人の表情は、ザリガニ釣りの餌にするために生きたまま皮をひん剥いたカエルを見る田舎の幼子のそれであった。
これっぽっちも罪悪感など持ち合わせていない、自分は何一つ悪いことなどしていない。そう言いたげな目つきをしていた。冷酷にして残忍、それが男を現す唯一の表現であった。
しかし、状況をとってみれば、確かに彼は間違っていないのである。
現在、歯を食いしばって、声を噛み殺している女は、実は殺人者なのである。東洋のこの国からしてみれば完全に異質となる容姿からすると、どうやら外国からわざわざ雇われた暗殺者らしい。誰が、何の目的で雇ったのかまでは判るものではないのだが。
いかなる手段を以てしてか、警戒厳重なこの建物へと、見咎められぬまま白昼に侵入したこの西欧人は、更に人目を盗んで数名の重要人物を暗殺してのけたのだが、最後の目標を始末する段になって気が緩んだのか、目標をバラした瞬間を男に見られてしまったのである。
殺人の目撃者は消去しなければならない。躊躇せずに、己がスタンドを以て男の命を奪おうとした女性であったが、不運は列を成してやってくるものらしい。
相手もスタンド使いである可能性を考えなかったことが、彼女の第二の失策となり……、現在に至る訳である。
だが、苦痛に顔を歪ませながらも、彼女は腕を吹き飛ばされた瞬間を精密に思い返していた。
(腕の切断など、大したことじゃないわ。むしろ、自身の慢心を削除し、更に相手の能力を推測する機会となったのだから、費用対効果は十分だわ……)
 
 
 




それにしても、先ほどの攻防は実に奇妙であった。出会い頭の相手へと、スタンドを発現して突進した時点では、確実に喉を掻っ切る予測が出来ていた。
それが、スタンドの手刀が目撃者の喉へと触れる直前になって、突如自分の身動きが鈍り、それと相反する形で相手が加速し、こちらの手刀を回避した上で、逆に切断してのけたのである。
この攻防から推測できる事は一つしかなかった。
「貴方、時を……。時を、『作り出した』のね……?」
「へぇ、まんざら馬鹿じゃないようだね。あれだけのことで僕の能力を見抜くだなんて」
男は、心底驚いた、というかのように目を見張った。彼女の推測は当っていた、男の能力は『時間を作り出す』ことだったのだ。
「その通り。『時間を生み出す』事が僕の能力だ。お前のような下賤な愚民には想像もつかない、哲学的にして崇高なる能力だ。
どんな能力だか知らないが、誰であろうと僕に立ち向かおうとするのは、カトンボが殺虫剤を持った千手如来に突っ込んでいくよりも愚かな行為でしかない。
なんといっても、僕はこの国の政界のトップになるべくして生まれた人間なんだからな。アッハハハ!」
天井を仰ぎ、男は高らかな笑いを放つ。余裕を見せつける行為に、女は内心鼻で笑いながら、切り落とされた腕を、自らのスタンドに拾わせた。
この行動こそが、自分に勝利をもたらす唯一の方策だ。その意味を悟らせてはならない。
腕を拾い上げ、冷ややかな目で見つめてくる女の様子など、男は歯牙にもかけずに軽口を叩いた。
「君には判らないだろうな。時は、血液だということを」
「……何ですって?」
「世界は、一個の人体なんだよ。時間が血液の流れで、酸素をあちこちに汗水たらして運ぶ赤血球は、税金を支払う国民ども。僕たち政治家は、人体を動かす脳細胞なのさ。そして、お前は血液を汚す汚らわしい病原菌だ……。
そして、この汚れた血液に、清純なる一滴の血を輸血するのが僕のスタンドだ! この『サルヴェ・レジーナ』がもたらす純粋な一雫の『時間』に、ウイルス風情がこれ以上関わる事さえ許さないッ!!」
悪魔の顔と天使の体を併せ持つスタンドが、再び男の背後から姿を現す。その瞬間、女は自身の動作が再び阻害されていくのを感じた。
今この時、生み出された『時間』が、正常な時の流れに割り込んでいく。敵は、今度こそ勝負をつけるつもりらしい。彼女も同じ気持ちだった。完全に『時』が入り込む前の今こそ、自分に与えられた最初で最後の、そして最大のチャンスだ!
「……生きる苦しみに縁遠いボンボン風情が、調子に乗ってくれるわね! 私に同じ手は通じないのよ!」
乱暴に吐き捨てて、女のスタンドが切断されていた腕を投擲する。傷口から血液を飛ばし、『腕』はまるで生き物のように男の顔面へと襲いかかる。が、本来流れるべき時間の速度が、割り込まれた異物の為に鈍っている以上、それが当たる事など望むべくもなかった。割り込んだ『時間』の中で平常通りに動ける唯一無二の存在にとって、高々飛来する腕など紙屑程の脅威も感じない。軽く頭を下げたその上を通って、腕は壁へと叩きつけられる。そして、男のスタンドの拳は、女の肋骨を粉砕し、その背中へと突き抜けていた。心臓の位置を貫いた以上、女の息は直に絶えるだろう。そう判断し、男が能力を解除した直後、微かな風切り音を前触れとして、男の両腕が付け根から斬り落とされた。
 
 
 




突然の激痛に驚愕し、振り返った男が見たモノは、落下したはずの女の片腕から伸びた二本の白刃が、自身の腕を切断した勢いを借りて宙に跳ね上がり、自身の頭へと飛び乗っていく瞬間であった。そして、背後から声が聞こえた。
「言ったでしょう? 私に同じ手は通じない、って」
ゆっくりと流れる時間が終わりを告げる中、彼に回答を与えたのは、心臓をぶち抜かれたはずの女の口からであった。乱れのないその言葉遣いは、死に瀕する人間の声だとはとても思えなかった。
「貴方が切り落とした腕、実は私の『植えつける』能力ならいつでもつなげ直せたのよね。
けど、あえてそうしなかったのは、その能力で攻撃をされた際に、私の脳と心臓、そして肺を、切り落とされた方の腕に『植えつける』為だったのよ。
目くらましに腕を投擲してみせた時には、既に『本体』として最低限必要な機能をそっちに移してたのよ。貴方が貫いた肉体は、内臓が残っているだけのタダの人形でしかなかったってこと」
言葉と同時に、女の腕が彼の頭をがっしりと掴み取る。両腕を斬り落とされただけに、今の彼には女の腕に手も足も出ない。自身の自負を完全に叩き折られたことで、今更になって逃げ出さなかったことへの後悔と恐怖を感じ始めたのか、男の足がガクガクと震え、スーツの股間は臭気と湯気を伴って湿り気を帯びていく。その様に、女は冷笑した。
「ホント、くだらない。自分の能力こそ最強などという顔をするのよね、あなたたち『時』を操るスタンド使いって人種は。
……ま、思い上がりに気がついた頃には既に手遅れなんだけど。私が以前仕留めた時間系のスタンド使いも、こんな風にして、私の『インハリット・スターズ』に膝を屈したのよ。
そう、こんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にこんな風にぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
二本の骨刃が、頭蓋骨の縫合線に突き刺さっていく。そして、骨と骨とのつなぎ目を力づくでこじ開けて、湯気を立てる柔らかそうな脳味噌を外気へと露出させる。頭が冷気に晒される不気味な感覚に、男は獣の様な絶叫を上げた。
「『サルヴェ・レジーナ』ッ! こいつを、止めさせろォォォォォォォッ!」
本体の命令に応じ、両腕を失ったスタンドが再び時間を『割り込ませ』ようとする。が、もはや遅かった。『時間』を作り出す為のインターバルは、女が勝利を掴む上で十分すぎる『時間』となったのだ。
 
 
 




「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャッ……!
 
 
 




まるで、ヌカ床をかき混ぜるかの如き光景だった。突き立てられたスタンドの鋭い手刀が、音を立てて彼の脳味噌をかき混ぜた。掌が動く度に空気が混ざりこんで、まるで味噌色をしたメレンゲのように泡立った。大脳と小脳が境を失くすにつれ、衝撃が波及したのか、彼の眼球は飛び出していき、鼻の穴から一筋の鮮血が流れ落ちた。
「ゲフッ……」
既に、思考どころか生命機能の一欠片すら維持できていなかったのだろう。彼の体は、肺に残る空気が漏れていく際の微かな反動にさえ耐えきれずに倒れこんだ。無様な痙攣だけが続いていたが、それもすぐに止んだ。

本体名―大泉S次郎(殺人の目撃者)
スタンド名―サルヴェ・レジーナ(脳味噌をグチャグチャにかき混ぜられて死亡)

完全に命を失った抜け殻を見下ろし、元通りに自身の腕を繋げ直した女はにんまりと呟いた。
「予定外の殺し……。フフッ、悪くはなかったわね。昔は、殺すのがあんなにも厭だったのに、今じゃまるで嘘みたいだわ」
ジョルナータ・ジョイエッロ、それが彼女の名前であった。女は、死体にそれ以上の興味を失ったのか、足音も立てず密やかにその場を立ち去った。




使用させていただいたスタンド


No.570
【スタンド名】 インハリット・スターズ
【本体】 ジョルナータ・ジョイエッロ
【能力】 『肉体』と『精神』を与え、また与えられる

No.944
【スタンド名】 サルヴェ・レジーナ(幸いなるかな女王)
【本体】 大泉S次郎
【能力】 時間を数秒作り出して、本来の時間の流れに割り込ませ、自由に動ける




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