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琴音

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愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ

617 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2005/12/28(水) 10:19:57
琴音「愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ」
自殺した元恋人の部屋で「私」は地図の描かれたメモを見つける。地図を頼りに辿り着いたのは、
都心のスラム街にある一軒のアパート。住人たちが職業としているのは、客の「告白を聞く」という商売だった。
聞き屋となった私は、住人のひとり葉(イップ)との恋に落ちる。しかし甘い生活は長くは続かない。
街には葬列、追いかけてくる過去、恋人の秘密。数々の謎はある夜に起きた爆弾テロに収束し、物語はクライマックスを迎える。

フーガ音楽の形式をプロットとして採用し、起承転結の形をとらない。幾組もの恋愛関係が、模倣的に展開され、その間に、
嬉遊部が挟まれる。この部分は、削りに削った「告白」からなり、その独創的な内容は、読む者を飽きさせない。
アパートは核に守られた擬似日本をイメージしていることは明らかであり、また、信仰的な問題とコンピューターへの言及も多い。
しかし、このような政治的、宗教的要素を作者は、意図して背後に追いやり、私と葉の恋愛を、筆力の限りに書ききる。
魅力的なキャラクターや多くの解けない謎など、読者を楽しませる要素には事欠かない。
だが、この小説は、第一義的に、究極の恋愛を書いた小説であり、読者を独自の世界に引き込むため、エンターの手法が多用されている。
ここ10年ほど、遡って考えても、ここまで壮大かつ緻密な作品には出会っていない。海外小説の傑作に比肩すると思われる。
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