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カレル・チャペック

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zgok0079

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カレル・チャペックの愛の手紙

730 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/08/06(日) 21:39:25
田才益夫訳「カレル・チャペックの愛の手紙」
  • 点(ノンフィクション;書簡集なので。てゅかタイトル恥ずかしすぎ。)
「ロボット」「山椒魚戦争」でおなじみ、ジャーナリスト作家の
妻への19年に渡る手紙を一挙翻訳刊行。本文二段組450p.
これを訳す方も訳す方なら、そもそも19年分の手紙を取っとく方も
取っとく方だと思う。ただし1931年の丸一年含め欠落も少なくないとか。
最初の方はとにかくひたすらタワゴトの羅列で、30男が18歳の女優
(てゅか同僚の娘だったりする)に熱烈なラヴレター送り続けてる時点で
うわ、どうしようって感じだけど、どうしようも無いまま読み続けてくと、
作品執筆当時の事情とかが垣間見られたりしつつ、最後は国家消滅直前の
文字通り断末魔的な調子で終わるというなんともマニア向けな一冊です。

SF史上無視できないジャーナリスト志向の非ジャンル作家として、
ジャック・ロンドンとジョージ・オーウェルとチャペックを比べてみると
面白いんだけど、世代的に前二者の丁度真ん中に来る人(三人とも40代で
死去)。しかし波乱と淫乱の生涯を40歳で燃え尽きた、というより
灼き切れた“水夫”とか、ビルマでは象を撃ちスペインでは打たれて
生死の境をさまよったりのオーウェルと比べて経歴的には面白みの無い人
なので(ギムナジウム中退経験有りとか、職場では快活な人気者だが
私生活では憂鬱症だとか幼時の脊椎損傷によりインポだったとか、
大統領から厚い信頼を得てた、ぐらい?←面白いじゃん)この本だけ
オススメは出来ませんが、図書館で「絶対子工場」と「クラカチット」
をみつけたらぜひ読んでください。前者はジャンル成立以前に
書かれてしまった史上最強のバカSFです。

しかし生前のオリジナルより没後のコンピが多いっておまいは
NIRVANAか。あと、この訳者は意図的に先行訳とか同業者?の
訳業をシカトしてるふしがあるけど、アカデミーとは距離をおきたい
アウトサイダー(演劇やってて戯曲を原文から訳したい欲求から
チェク語を習得されたそうです)のプライドみたいのがあるのかな?

山椒魚戦争

646 名前: ◆GAcHAPiInk 投稿日:2006/01/05(木) 22:26:07
山椒魚戦争 創元推理文庫
カレル・チャペック (著), 松谷 健二 (訳)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488633013/
(正確にはISBN4-488-63301-3)

 発見、発達、そして自滅。ここまでわかってるのなら回避できようもんなんだが
現実、不可避だ、という皮肉。

書かれた時代が時代だけに、最後の山椒魚総統のくだりがまったく笑えないのが
逆に可笑しい。しかも、実は人間だった、なんて暴露までする。
結局、この話は山椒魚でもRURでも原爆でもなんでもいいのだ。人間は同じことを繰り返す。
現代でもだ。

 途中、ヴォルフ・マイネルトの労作が披露される、そしてそのアンチテーゼ(?)な
「Xの警告」が表される。これは右傾化する日本と世界に対する皮肉である。

10点。

872 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/09/18(月) 23:19:41
「山椒魚戦争」8点

終わり方にエヴァのTV版を連想してしまいました。いや全然違うんですが。
何というか不幸なハッピーエンディングというか幸福なアンハッピーエンディングですね。最後もつけると。
全部通して業という言葉も連想されました。
破滅SFを読みたいけど少しは救いが欲しいとか、
言葉に言い表せないどうしようもない感じを味わいたいという人におすすめです。

チャペック戯曲全集

378 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/01/09(火) 14:57:35
カレル(&ヨゼフ)・チャペック「チャペック戯曲全集」
7点(気持ちは8点)

収録8作中“RUR”“マクロプロス事件”“白い病気”“創造者アダム”がSFです。
“アダム”は兄ヨゼフとの共作。
この板的には“RUR”が最重要、てゅか自分もそうは思うけど
“マクロプロス事件”こそSF読みにはオススメな感じ。
1998年に同じ版元から単行本で出たときは「メトセラの子ら」とか
「百万年の船」を先に読んでたので古くてタルイぐらいにしか思わなかった。
チャペックはジャンルSF成立期にそれとは全然無縁なとこで作品書いてたわけで、
実際オーウェル「1984」と同様外挿&シミュレーションが諸作品の主眼だし
センスオヴワンダーの意識とか無いだろうなぁ、とは推測できるんだけど
(でもオーウェルはウェルズ初期短篇群のファン、チャペックにとってウェルズは
憧れの英国知識人なので素養が無くもないのかな?草創期のSF雑誌も古い科学ロマン
の再録が中心だったみたいだし)今回読み返してみたら、人生論的議論を踏み抜いた
そこにはセンスオヴワンダーの深淵がパックリ口を開けて…
…るように感じられもしたんでした。
さらに“創造者アダム”は“絶対子工場”の流れを汲むスケールの大きいバカSF。
『否定のカノン』て何だよ?面白すぎ。
ユーモアを身上としつつも基本生真面目なヒューマニストであるチャペックだけど、
タガが外れるとスゴイんですの見本がこの作品。戯曲てゅか会話だけで進行する小説
みたいな感じなので《異色作家短篇集》あたりに入ってても違和感無い感じ。

“RUR”は千野栄一(岩波文庫)、栗栖継(十月社)という偉大な先駆者による先行訳
(他にも邦訳あるけど、むか~しのは英語・ドイツ語からの重訳)があります。
“白い病気”も“白疫病”のタイトルで既訳あり(栗栖訳RURに併録)。
で、本書はなにしろ基本は生真面目なチャペック(セリフが全部演説になってるし)を
生真面目なうえ何かと主張のありそうな田才さんが訳してるので、読むとかなり重くて
蜜の中を航行してるみたいな感じ。やー、チェク語(現地音だとチェヒ語?)知らない
から印象だけど。
値段(一般的な映画・音楽DVDと同じ\3,990)は「馬に乗った水夫」と比べたら
妥当?てゅか良心的。ただ八月舎サイトで“限定小部数のため予約注文がお薦め”
とか脅してたのはちょっとカンジ悪かったかもでした(サイトからの予約だと出版前
に先払いでホントに出んのか?という不安と払い込み手数料注文者持ち)。
あと、今日読んだ、じゃ無くて昨日読んだ本なんだけど今日がチャペック誕生日なので。
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